第129話 パーシィ

エトワルの強烈な一撃の余韻が辺りに残っている。

少し離れたところで静かに戦いを見守る多くの住民。

逃げ場を失い振り下ろされたハンマーの下にいるはずのタルトを心配しているのだ。


「何かおかしいっす…」


必勝の連続技が決まったが、いつもと違う手応えに違和感を覚えるエトワル。


「うぅーん…ちょっと手が痺れたよぉー」


そこに聞こえるはずのない声が聞こえた。

ふっと持っているハンマーの重さが消えていく。

何とさらさらと砂に変わり風で飛んでいくのであった。

エトワルの能力は土属性を活かして鉱物からの武器生成と巨大な武器を操る腕力特化の身体強化である。

生成された武器は魔力による圧縮で鉄を越える強度となり、常人を越えた腕力とあわさって致命的な威力の一撃を可能としていた。

武器を持っている間は強度を維持するため魔力を流し続けているにも関わらず、砂となり崩壊しているのが信じられなかった。


「何故、生きてるっすか!?

いや、それよりも武器に何をしたっすか!!」

「えっ?

いやぁー、避けれなそうだったので受け止めたら左手が痺れちゃって。

やっぱり両手だったかなー。

あっ、ついでに分解して砂に戻しちゃいました!

てへっ」

「てへっ、じゃないっすよ!!

あの一撃を片手で受け止めるって何なんすか!!!

それにそんな簡単にあの武器を元の砂に戻すなんて…」


その出来事はある事実を示している。

それはエトワルよりタルトの方が魔力が強い事だ。

魔力の強さで勝敗が決まるわけではないが、武器生成を封じられ最強の一撃をあっさり受け止められたので身体強化でも負けてる事から勝ち目がないように思われた。


「じゃあ、こっちからいくよぉー!」


タルトが一歩踏み込むと地面が弾けた。


「早っ!?」


タルトの姿を目で追うだけで精一杯のエトワルは身体が反応できない。

懐にあっさり入られステッキと無数の魔力弾の光を見た。


「ショットッ!!」


次の瞬間、腹部に強烈な痛みと共に吹き飛んでいた。

そのまま家の壁に衝突し沈黙したエトワル。


「ちょっとマジかー、どっから突っ込んでいいか分かんないねー。

あのエトワルの必殺の一撃を簡単に受け止めた事に驚くべきか、武器の硬化能力を上回った事か、最後の高速移動からの一撃か…。

こりゃ確かに聖女様と呼ばれる訳だわ」


エトワルは最後の一撃でノックダウンし気絶しており、リーシャが介抱している。


「まだやりますか?」


ステッキをパーシィに向けて問い掛ける。


「いやー俺っちもやりたくないけど仕事だからねー。

それにこのまま負けっぱなしじゃ騎士としてまずいしねー。

この自称、氷結の騎士が相手になるよー」

「そこ自称なんですねっ!」

「いやー誰も格好良い二つ名を付けてくれないから自分で言ってんだけどねー。

なかなか広まらないんだよねー」


冗談を言っているが明らかに気配が変わるパーシィ。

抜刀した瞬間からおどけた雰囲気が消え、目に見えない圧力を感じる。

エトワルの巨大なハンマーとは対照的に細剣の二刀流だ。


「いくよー、気を付けてね!」


掛け声と同時に上段からの素早い突きが繰り出された。

躱すと同タイミングにもう片方の刃が死角である下から襲い掛かる。


「おわっ!」


二刀目も何とか躱すが休む間もなくそれぞれの剣が別々の生物のように攻撃を仕掛けてきた。


「やるね、タルトちゃん!

やっぱり正面突破は難しそうだから、これはどうかな?」


次の瞬間、タルトの足元が凍りつきスリップしそうになるが、すぐに浮遊することでスリップを狙った連続技を喰らわずに済んだ。


「空を飛ぶのは卑怯じゃなーい?

そもそも空飛ぶ魔法って何なのよ?

天使や悪魔じゃあるまいし」

「魔法少女は皆、飛べるんですよ」

「ちょっ、魔法少女って響き、超可愛いんだけど!

どこにいるのかなー、その可愛い娘ちゃん達は?」

「キモっ!

そんな気持ち悪い人には教えられません!」

「まあ、タルトちゃんも超可愛いからお近づきになりたいんだけどなー。

じゃあ、俺っちが勝ったら紹介してねー」

「お断りですっ!」

「ちぇっ、つれないなー。

さあて、時間稼ぎは充分だねー。

これは躱せるかなー?」


タルトからは視認しにくいように鋭い氷の氷柱に囲まれていた。

それが全方向から一斉にタルト向けて放たれる。


「これでどうだー!!」


タルトがステッキを掲げると周囲に水が出現し、球体へと変化すると共に凍り付いた。

飛来した氷柱は全てその氷の壁に阻まれ、攻撃が収まると溶けてなくなりタルトがひょっこり出てくる。


「おいおい氷への変化は高等技術なんだよー。

それにエトワルの武器を砂に変えたから土属性と思ったけど水も使えるのかい?」

「えーっと…特にこれといった属性はなくて。

こうやって火も出せますし」


そう言ってステッキの先に火の玉を出してみせる。


「それはちょっとチート過ぎでしょー。

これは魔法戦は分が悪いから近接勝負で行かせてもらうよ」


先程と同様に鋭い突きからの連続技を繰り出しタルトを防戦一方に追い詰める。


「わっ、わっ、わっ、速い、速い、よっ、ほっ、おりゃっ」


タルトも高速で次々と繰り出される突きや薙ぎ払いを必死で躱していく。

自然と注意が細剣に向いてしまい、周囲に再び氷柱が生成されているのに気付いていない。


(そろそろ充分かな。

剣での攻撃に気をとられ、死角からの凍りによる同時攻撃。

タルトちゃんには可哀想だけどやるしかないか。

何とか死なないで欲しいんだけどね)


パーシィはそんな事を考えながら剣で攻撃しつつ、氷柱を操作しタルトの正面と背後から同時攻撃を仕掛けた。

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