第127話 新たなる訪問者
タルトは久々の平穏な日々にのんびりしようとしていたが、知らないうちに世の中は常に動き続けている。
第一階級の大悪魔カドモスを倒したという偉業は街から街へと伝わり、どんどん広まっていった。
暫くたつと祝辞が書かれた手紙が沢山届いたのだ。
「聖女様、やはりこちらでしたか。
また手紙は山のように届いてますよ」
「えええぇぇ…もう返事書くの嫌ですよぉ。
オスワルドさん、代筆してくださいよー」
「もうお諦めください。
数百年の間、誰も成し得なかった偉業をされたのです」
「いーやーなーのー!
読むだけでも大変だし、同じような事ばっかり書いてあって面白くないんですもん」
エグバートの店でご飯を食べていた所に、タルトを探していたオスワルドが現れ逃避していた現実に戻されたのだ。
ここ数日、タルト宛の手紙が七国内の貴族や商人など様々な人から手紙が届いている。
最初は返事を書こうとしていたがあまりの量に逃げ出したのであった。
「こういう時だけ駄々をこねて子供になるのはタルト殿の悪い癖だぞ」
「まだまだ子供ですもん!
ノルンさんから見たら赤ちゃんくらいの年齢じゃないですかー」
「いや天使と比べてもな…リーシャからも何か言ってやってくれ」
「タルトさまは…いまのままがいいです」
「おお、心の友だよ!
分かってくれるのはリーシャちゃんだけだよー」
「本当にあのカドモスを倒したのか…?
昔から多くの同胞である天使が殺された相手なのだが…」
ノルンとしては喜ばしさと複雑なのが入り交じった気持ちであった。
何よりもその場にいて仇が討てなかったのが悔やまれたのだ。
「聖女様が相手の本気を出させずに一気に制してしまわれました。
シトリー様のお話ではカドモスというのは大悪魔の中で最弱とのこと。
私が思うに精神攻撃などが得意で戦闘能力はそれほど高くなかったのでしょう」
「だが、大悪魔の一柱を落としたのだ。
他の勢力の警戒度は高まっただろう。
油断はしない方が良いな」
「ノルン様のお考えに同感です。
今までは脅威と思われず無視していた勢力もあったでしょう」
二人の心配を他所にタルトはリーシャとのご飯を楽しんでいた。
店はピークの時間を過ぎているからか比較的、空いていた。
カランッ
アルマールのは多様な職種の人が訪れるが、今、来店した二人組の青年は純白で騎士風の服装をしており見かけたことがないものである。
早速、モニカが声を掛ける。
「いらっしゃいませ!
お二人様で宜しかったですか?」
「おおっ!
こんなお店にこんなお綺麗な人がいるとは!?
ねえ君、店は何時まで?
終わったら俺っちと食事でもどう?」
「いえ、私そういうのはちょっと…」
「あらーガードが固いのも魅力的だねー。
まずはお茶くらいから始めようよー」
「先輩、嫌がってるっす!
それに僕たちはそんなことをしに、ここまで来た訳じゃないんすよ」
「いやーエトワルは相変わらず頭が固いなー。
目の前にこんな綺麗な人がいるのにナンパしないなんて失礼っしょ」
「すいません、先輩も悪気がある訳じゃないんすよ。
ただ、女性を見るとだれかれ構わず声を掛けちゃって…」
気付くと先輩と呼ばれた青年の姿がなかった。
「あれ、先輩が消えた!?」
いつの間にかタルトの前の席に座っている。
「いやー君たち本当にきゃわゆいよー。
二人とも将来、間違いなく美人になるね」
「ちょっとこわいです…」
怖がるリーシャの頭を撫でるタルト。
「大丈夫だよ、リーシャちゃん。
お姉ちゃんが側にいるからねー」
「おおっ!?
素敵な姉妹愛だ!可愛い娘だと絵になるなー」
「えっと…どちら様ですか?」
「おっとこれは失礼!
俺っちはパーシィっていうんだ、宜しくねー!」
「はぁ…それでパーシィさんは何の用ですか?」
「二人があまりにも可愛いからつい声を掛けちゃってねー!
どうだい、美味しいスイーツの店を聞いたから一緒にいかないかい?」
「スイーツですか…ごくっ…いや、そんな甘い言葉には引っ掛からないですよ!」
「えぇー、もうヨダレが出ちゃって食べたいって顔に書いてあるよー。
それにリーシャちゃん…だったね?
尻尾が嬉しそうに動いてるよ」
「ふわぁ、こ、これは…」
「むむ…リーシャちゃんの心をスイーツで掴むとは侮れない人ですね…。
これはちょっとスイーツをやっつけながら調査が必要そうですね」
「おや、君面白いねー。
じゃあ、行こっかー」
パーシィはタルト達を連れて街で美味しいと噂のスイーツ店に入っていく。
後からエトワルが慌てて追いかけてくる。
「先輩、何、呑気にスイーツなんてたべてんすかっ!!」
「いやだってこの娘がOKって言うから」
「君も君で先輩の誘いに乗らないでくださいっっす!
どうみても危ない不審人物じゃないですか!」
「エトワル君…自分の先輩を不審人物って…」
エトワルの勢いに圧されるパーシィ。
「でも、パーシィさんって良い人そうでしたし」
「君の目は節穴っすかっ!
この人相の悪いチャラそうな人の何処が良い人に見えるの!?」
「おぉーい…エトワル君…」
「だってリーシャちゃんを可愛いって言ってくれたから」
別の国から来た旅人はまだ獣人やハーフに対する恐怖感や嫌悪感を最初、抱いたままなのだ。
暫く滞在するか頻繁に訪れると徐々に消えていくのだが、パーシィのように最初から好意を表す人はほとんどいない。
寧ろエトワルと呼ばれる青年の反応が普通で、リーシャを見る目がちょっと険しくなっている。
「この人は女性なら何でも良いんっすよ!」
「いや俺っちもさすがに好みはあるよ…。
ところで君の名前を聞いてなかったね?」
「あっ、私はタルトっていいます!」
この時、二人の肩がピクリと動いた。
「そうかい、君が噂の聖女様だねー?
その美しい金色の髪を見たときからそうじゃないかと思ってたよー」
「やっぱりこの髪色は目立ちますよねー」
「太陽の光を反射するとより綺麗に輝いて神々しくもあるよー。
それにしても二人は本当の姉妹なのかい?」
「このリーシャちゃんは家族がみんな死んじゃって…。
だから、私がお姉ちゃんになって守るって決めたんです!」
「その年で偉いねー!!
それにハーフだと周囲からの陰口や嫌がらせも多いんじゃないの?」
「最初はそうでしたが今のアルマールを見てください!
人種なんて関係なく仲良くなれたんです!」
「でも、それって教えに反するっすよ!」
我慢できなくなったのかエトワルが割り込む。
「教えって…確かフォス教でしたっけ?
詳しくは知らないですけど相手を憎んだり殺したりしなくても、仲良くできるならその方が良いと思うんです」
「でも神様の教えに逆らうとこの石頭のエトワルみたいな怖い人に目を付けられちゃうよー」
「別に逆らいたい訳じゃ…。
でも、その神様の教えは間違ってると思うんですよねー」
「なっ!?何を言って!」
丁度、この時、オスワルドとティアナがタルトを追って店に入ってくる。
「聖女様、探しましたよ。
急にいなくなるかびっくりしました…。
目撃情報を頼りに聞き込みですぐに見つかったから良かったですけど、行方不明だと一大事なんですよ」
「あっ、ごめんなさい!
確かに言うのを忘れてました…」
「全くタルト殿の事だ。
スイーツの事で頭がいっぱいで忘れたんだろ?
謝りながらも食べてるしな…」
全く止まらないタルトの手と口に呆れるノルン。
「ところで一緒にいる方は…?
その服はっ!?聖女様、お下がりください!」
オスワルドは二人の服装を見るなり顔付きが真剣になり武器に手を掛ける。
「ど、どうしたんですか?
オスワルドさんは二人をご存知なんですか?」
「いえ…この二人というより服装を知っているのです…。
あの純白の騎士服はフォス教の正装です。
私はここの領主、オスワルドだ。
お前達の目的を聞かせて貰おう!」
真剣な剣幕のオスワルドに諦めたようにパーシィが立ち上がる。
「もうちょっと平和的に話をしたかったんだけどなー。
バレちゃしょうがないから仕事をしますか。
そう、俺っち達はフォス教なんだよねー。
前々からここの噂は聞いてたのさー。
討伐対象の魔物と一緒に暮らす街があるってね。
大悪魔のカドモスを倒したとなると流石に無視できなくなって、俺っちが派遣された訳なのよー」
「派遣された目的を聞いているのだ!」
「もし聖女の抹殺って言ったらどうするかなー?」
その場の空気が変わった。
一発触発しそうな緊張感で満たされ、店員の女性は緊張で動けなくなっている。
「ちょっと皆この店に迷惑だから外にいこうかー。
そこの綺麗なお姉さん、これお代ね。
お釣りはお詫びとしてお小遣いとしてあげるからねー」
怖がる女性にお金を渡し店を出るパーシィ。
後を追うように店を出て開けた場所まで移動する。
「不本意だけど闘うしか無さそうだねー」
「当然っすよ!噂を聞いた時は信じてなかったっすけど、来てみたら全て真実で教えに背いた事ばっかりだったっす!」
パーシィとエトワル、オスワルドは戦闘態勢になってるが、いまいち乗り気じゃないタルトだった。
「闘うしかないんですか…?
話し合いでお互いに理解しあえると思うんです。
ちょっとした誤解が解ければ…」
「まだ言うっすか!そんな言葉に惑わされないっす。
これでも
「
「知ってるんですか、オスワルドさん?」
「ええ…フォス教の本拠地である聖エルムト帝国に人間としては最強の騎士団があると…」
「さすがここの領主だねー。
いや…俺っち達が有名過ぎるのかな?
仮にも七柱の四位に任命されてるから教えに反する行為はほっとけなくてねー」
「覚悟するっすよ。
僕も七位を冠してるエトワルっす。
今さら命乞いしても遅いっすからね!」
既に戦闘は回避できない状況になっている。
周囲の人も避難を完了しており警備兵が周囲を取り囲んでいた。
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