第121話 フランク王国

タルトが読み上げた城の名前に驚愕するオスワルド。


「オスワルドさん、場所を知ってるんですか?

もし、そうならすぐに教えてください!

リーシャちゃんを助けに行かないと!」

「お待ちください…シトリー様も呼んで確認したい事があります…」

「でも時間が!」

「申し訳ございません!

私が知ってる通りなら非常に危険なんです。

少しだけ時間をください」


オスワルドがタルトに意見を言う事が初めてであり、その真剣さに冷静さを取り戻した。

急ぎシトリーとカルンを呼んで会議を始める。


「行方が分かったというのは本当デスノ?」

「ええ、それでシトリー様にも確認いただきたい事がありまして…。

ベイリー城をご存知ですか?」

「ッ!

…そういう事デスノ、よく知ってマスワ」

「二人とも早く教えてください!」

「では、まずは私が知ってる情報をお話します。

ベイリー城というのは、かつて存在したフランク王国の王城です。

現在は七国連合ですが、百年前までは八国あったそうです」

「えっ?フランク王国はどうなっちゃったんですか?」

「フランク王国は滅んだのです。

言い伝えでは一人の悪魔によって…」

「そんな…国が滅んじゃうなんて…」

「フランク王国というのはバーニシアとディアラの中間にあり、より最前線にあったのです。

当時はドゥムノニアにひけをとらない軍事国家だったと伝わっております。

それが僅か数日で滅んだようで他の国は対応も出来なかったそうです。

その後、フランク王国の土地のうち近隣のエリアをバーニシアとディアラで分けあったのです。

ですが、王城は悪魔が住んだままであり刺激しないように現在に至ります」


百年も前の事で紙も貴重な世界では伝わる事柄が多くないようだ。


「シトリー様を呼んだのは当時の事をご存知かと思いまして。

特にその悪魔の事を知ってればと…」

「エエ、その悪魔についてはよく知ってマスワ。

ですが、フランク王国事態は興味ありませんでしたので、それほど知りまセンワ」

「おそらく今回の首謀者でしょうから、敵の情報を把握してから向かう方が良いと思ったのです。

聖女様、先程は申し訳ございません…」

「いえ、オスワルドさんの言ってる事は間違ってません。

気持ちが焦っちゃってごめんなさい…」

「良い判断デシタワ。

その悪魔というのは第一階級の一柱ひとはしらであるカドモスの事デスワ。

第一階級というのは大悪魔と呼ばれており、大天使と同じような存在デス」

「大天使って前に来たガヴリエルですよね…?」


その圧倒的な力を思い出す。

同様な相手だとするとリーシャを救いだす事の困難さが分かる。


「噂では三柱いる大悪魔の中では一番弱いらしいですが、今のワタクシ達で勝利出来るかは不明デスワ」

「どんな能力を持ってるんですか?」

「詳しい事は分かりませんがフランク王国を滅ぼした時は、人間同士で殺し合いさせて自らは手を下してないトカ…」

「それだけだと色々考えられますね…。

しかも、待ち受けてるということは罠を仕掛け放題ですし…」


タルトは普段あまり見せない真剣な表情で考え込む。


「タルト様はここにお残りクダサイ。

ワタクシ達が救助して参りマスワ」

「駄目だよ!相手の方が格上なんでしょ!?」

「そうですがタルト様を失うという事は全てが無に帰しマスワ」

「でも…今は他に誰がいるんですか?」

「ここにいるシトリー様、カルン様と雪恋様が事務作業をしております。

他の皆様は他国からの魔物討伐依頼などで出払っております」

「リリーでも連れてイクカ?

龍人なら負けねえんじゃネエカ?」

「それも駄目だよ、カルンちゃん。

あの時だけ手を貸してくれたんだよ。

一族の掟って言ってたじゃん。

それに…優しいリリーちゃんに言ったら助けてくれるのは分かってるから…」

「そう…ダナ…、アタシが間違ってタゼ」

「やっぱり私も行きます!

要求通りにしないと状況は悪化するかもしれないし、バラバラで当たるより現状の最大戦力でぶつかる方が勝率は高いんじゃないかな?」

「タルト様の御心のママニ。

では、万が一に備えて雪恋を残しマショウ」

「ところでそんなに凄い悪魔が近くにいるのに攻めてこないんでしょう?」


タルトは話を聞いてるうちに抱いた違和感があった。

それだけの力がありながらバーニシアやディアラが放置されてるのが変だと感じたのだ。


「大昔は激しい大規模戦争が続いたそうデスガ、ここ数百年は小競り合いだけデスワ。

お互いの神が指示を出さず、配下がバラバラに動くくらいでカドモスなんて大物が動くなんて珍しいノデス」

「じゃあ、どうしてフランク王国を?」

「サア、分かりまセンワ。

一人で行動したようデスシ」

「聖女様、そろそろ出発されませんと着く頃に日が暮れてしまうかもしれません」

「そうですね、オスワルドさん。

よーし、準備を整えて出発しよう!

リーシャちゃん救出作戦開始です!」


オスワルドをシトリーがお運び神殿のバルコニーから飛び立った。

そのまま闇の領域へと侵入し、旧フランク王国領内をベイリー城向けて飛行する。

敵に出会うことなく日が傾く頃には到着し、城壁内の広場に降り立った。


「ここがベイリー城…」

「聖女様、お気をつけを。

ここは既に敵の手中です。

手入れも行き届いていて、ここを居城にしてると思われます」


タルト達がいる広場に甲高い声が響き渡る。


「よく来たな聖女ヨ、歓迎するゾ!」


上空から悪魔が降り立つ。


「リーシャちゃんはどこ!

言う通り来たんだから返して下さい!」

「リーシャ?アア、あの雑種の事カ。

そんなことより見よ、この城ヲ。

美しいとは思わないカネ?

百年ほど前に一目で気に入り手に入れたのダヨ」

「そんな事の為に国を滅ぼしたんですか…?」

「せっかくの城が汚い人間が住み着いていたらもったいないでアロウ?

ワレ自ら赴いて滅してやったのダヨ」

「なんて酷い…。

あなたの言葉はもう聞くことはありません!

早くリーシャちゃんを返して!」

「そう急くデナイ。

もう用はないから返そうゾ」


小さな扉が開きリーシャが駆け寄ってくる。


「タルトさまああああ、うわあああ!!」

「リーシャちゃん、大丈夫!?

怪我はない?もう大丈夫だからね」

「うぅ…だいじょうぶ…です」

「よしよし良い子だね。

ちょっとだけカルンちゃんと一緒に後ろにいてね。

すぐに終わらせるから」

「何を終わらせるダト?」


リーシャが後方へ下がるのを確認しカドモスの方へ振り返る。


「あなたをやっつけるのをです!」

「アッハッハッ!

そう急ぐでナイ、来たばかりではナイカ」


カドモスの目が怪しく光る。

その瞬間、金縛りにあったようにタルト達は動けなくなった。

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