第96話 光明

集めた材料を使って必死に何かを作っていたリリスだったが、遂に完成したようで手を止める。


「出来タゼ…」

「これは何デスノ?」

「タルトの手紙によるとコウセイブッシツと書いてアッタゼ。

色んな病に効くんだソウダ」


抗生物質は人類が病との闘いで生まれた偉大な発明だ。

ペニシリンを初めとする抗生物質のお陰で医療に革命をもたらし、病の原因である細菌を死滅させられるのだ。

リリスは魔力で薬や毒の精製などを行える。

これを利用し抗生物質を生産したのだ。

その存在や精製方法が分からなければ作れないが、そのプロセスを指示すればリリスには容易に作れるのである。


「こんなんで治るのかあ?

透明で水じゃねえのか」

「サアナー、タルトを信じるしかネエナー」

「ここにいないのに何で治療薬が分かるんだあ?」

「それは議論しても分かりまセンワ。

ワタクシはタルト様を信じマスシ、これ以外の妙案は今のところありまセンワ」

「そう…だな。

よし、医務室に行こうぜ!」


未知な薬の臨床試験のため、医務室に向かった。

この世界では細菌など認知されておらず、医者も症状を見て先人から伝わる薬草などを使用して治療している。

この薬がどういう効能なのかなど、誰も知る由もない。

部屋を出て数時間だが、モニカの腕の黒斑が更に増えていた。


「…みんなしてどうしたあ…?」


エグバートはすっかりやつれてしまっている。

心配と疲れで別人のようだった。


「タルト様の手紙に光明が見えマシタワ。

ここに治療できる可能性がある薬がありますが試しても宜しいカシラ?」

「こ、これで…治せるのか?

本当に…本当に治せるんだな!?」

「ワタクシ達には未知なモノでタルト様のみが知るデスワ。

貴方はそれを信じられマスノ?」

「ああ、嬢ちゃんは俺達の女神様だからなあ。

何よりも信じてるぜえ!!」

「良いデショウ、リリス、お願いシマスワ」


リリスはタルトの指示された通り、血管に注射を打つ。

この世界では飲み薬しかないため、注射器も作り方を指示されておりシトリーがガラスと鉄を精密に成型し作成していた。


「これで後は様子見ダ…。

いまのところ進行具合から見て一時間後に斑模様が増えてるか確認シヨウゼ」


待ち時間を利用し抗生物質と注射器を大量に生産する。

誰もタルトを疑うものはおらず、結果が出たあとの準備を進めている。


あっという間に一時間が経過し、再び医務室に集まっている。

全員の視線はモニカの腕に集まっていた。


「増えて…ない…。

増えてねえぜえ!

これで…これでモニカは助かるんだな!?」

「アア、良い傾向ダ…。

ヨシ、これをどんどん作ろうゼ!」

「流石、タルト様デス。

様々な災厄に備えを残して頂けて助かりマシタワ。

では、生産が終わりましたら桜華と雪恋はアルマールの感染者の治療ヲ。

琉とティートが戻ってきたら手伝わせナサイ。

ワタクシとリリス、カルンは村を巡り治療と感染源の調査を行いマスワ」

「おう、任せときなあ!!」

「お任せを、皆様もお気をつけて」

「それと有事の際は町の防衛も任せマスワヨ」

「むしろそっちの方が得意分野だからなあ!」


シトリー達は準備が整い次第、アルマールから飛び出していった。

残された桜華と雪恋は号令をかける。

流行り病の事、その症状、治療の事を簡潔に説明し、症状が出たものは神殿に来ることを。

予想以上に感染者が多く神殿の前には行列が出来ていた。

死の病と聞き我先にと押し寄せている。

それを見た桜華は拳を地面に叩き付け、轟音が鳴り響く。

人々は一気に静まり桜華に注目が集まった。


「てめえら、よく聞けえ!!!

必ず全員助けてやらあ!!

だから、大人しく順番に並べ、女子供に重度の患者が優先だ。

大丈夫だ、タルトが残してくれた薬で絶対に治るからよお。

次、騒いだ奴はぶった斬るぜえ、いいなあ!!」

「姫様…助ける人を斬ってどうするのですか…?

でも、効果はあったみたいですね」


落ち着きを取り戻す町の人々。

譲り合い、規則正しく並び始める。

桜華と雪恋は治療のために神殿内に戻った。

そして、治療が始まる。


「ええーっと、これで液体を吸い上げて…。

腕の血管に…って、血管でどれだあ?

取り敢えず打てばいいのか…?」

「お待ちください、姫様!!

こういう細かい作業は私めにお任せ頂き、少しお休みください!」


危険を感じた雪恋が桜華を止める。

適当な性格をよく知っていたので、治療させないようにした。


「ああ?これくらい、うちでも出来るぜ」

「いえ…その…姫様は有事の際にお疲れではいけません!

ですから、そのような小事は私めに!」

「まあ…そうだな、ちまちました作業は任せるかあ」


何とか誤魔化せてほっとする雪恋。

この後、琉とティートも戻って来たので三人で治療に当たった。


「後は自宅で安静にしてください」


雪恋は次々と注射を打っていく。

人々は何の薬かも分かるはずないが、安心して帰っていく。

これもタルトの人徳の成せる業だと思う雪恋。

その信頼感は不在でも揺らぐことがないのだ。

暗雲の中に光明が見えてきたアルマールに落ち着きが戻ってきていた。

だが、予防が出来ず感染者数は少しずつ増えてきていた。

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