第93話 社交パーティ

「そういえば、この先に村があるんですよね?

魔物に襲われて怪我してるかも、助けないと」


タルトは馬車に戻ってくると村人が心配になり、マレーにそう切り出した。


「そ、それは心配ございません。

この討伐が決まってすぐに、争いに巻き込まれないよう避難させてますので。

無事、討伐も終わりましたし復興の援助も行います」

「そうなんですね、安心しました。

重傷者がいたら治療しますので、いつでも言ってくださいね!」

「治癒魔法も使えるとはさすが聖女様ですね。

その時はお願いさせて頂きます」


愛想笑いを浮かべるマレー。

実際には廃村なので、元々誰もいないのだ。

自国民まで危険にさらす事は出来ない。

鈍感なタルトはそんなことに全く気付いていない。

一応、討伐完了ということで帰還する事となった。


王都へ凱旋するとパーティの準備が行われていた。

予定していた会議は全て終了し、最終日は懇親を深めるためにパーティが開催されるのが通例だ。

開催国の貴族も多く参加するため、社交の場としても重要なのだ。

他国の有力者と懇意になれるかも知れないのだ。

大手の商人が費用を持つ代わりに参加権を得て、新しい得意先を見つける場でもある。

だが、何といっても今日の主役はタルトである。

善意、悪意、興味など参加者の想いは様々だが、噂の聖女に会うまたとない機会なのだ。

ディアラ王の開始の挨拶と共に始まる。


「えっ?、えっ?、えっ?、えっ?、えっ?、えっ?」


タルトの前に立ち替わり現れては挨拶をして消えていく。

爵位やら長ったらしい名前を言っているのだが、勿論タルトが覚えられる訳がない。

右から左に聞き流し、適当に相づちと聞かれたことに返答していた。


(一人でも長くて難しいのに、こんな人数無理でしょっ!

アニメとかで一回聞いて覚えちゃうの天才だよね!?

皆も同じだよね?

カタカナの名前って覚えづらいよね?

あとでwikiで調べると聞き間違ってるのに気付く時あるよね?)


心の中で一人でツッコンでるほどである。

暫くして各国の王とも挨拶と世間話をする。

ぜひ自国へ訪問してほしいと言われたので、社交辞令で機会があればと受け答えしておく。

色々な場所に行ってみたいが、長旅は結構疲れるのである。

今度は飛んでいこうかなと本気で思ったほどだ。


少し一休みとティアナとリーシャ達のところに戻ってきた。


「お帰り、今日の主役さん。

かなりお疲れのようだね」

「もぅ、疲れましたよぉ…ティアナさん、代わって欲しいくらいです」

「有名人の宿命だ、諦めたまえ。

ワタシも子守りが忙しいしな」


リーシャ達はパーティの料理に夢中である。

タルトの魔法で尻尾や耳を見えないようにしているが、念のためティアナが面倒を見ていた。


「それに、ここのメンバに顔を覚えてもらえれば、今後、色々と都合が良い…おや?」


ティアナと話していると一人の人物が側に立っていた。

その人物はティアナの祖国でもあるポーウィス王だ。


「お話し中、申し訳ない。

見知った顔と一緒にいたもので」

「これはお久しぶりです、陛下」

「わわ、ティアナさんが敬語使ってるっ!」

「まあ、祖国の王であるからな。

本当はエルフの里は自治区になっているから、本当の王ではないのだが敬意を持って接する事になってるんだ」

「私としてはどちらでも構わないんだがね。

寧ろ、人生ではかなりの先輩だから私が敬語を使うべきかな?」

「いえ、陛下はそのままで結構です。

ところでタルトにご用ですか?」

「それが聖女様とエルフの君が一緒にいるのが面白くてね。

どうした経緯なのか聞きたくなったのだよ」

「少し前に遺跡探索中に出会いまして、この希有な存在に興味が湧きまして。

暫くはアルマールに滞在し協力しているんです」

「それはそれは、是非学んだことを帰国時に教えてくれよ」

「承知しました、タルトの叡知は本当に面白いので喜んで貰えると思います。

最近は兵法が興味深いですね」


軍師を探すか育てるべく元の世界の兵法書を作って、才能がありそうな人に勉強をさせている。

ティアナもその一人である。


「ところで聖女様、今日は飛竜を手懐けたとか。

もし、我が国で竜が暴れたら対応をお願いしますね」

「いやあ…、今日はたまたまかもです…。

お呼びいただければ出来る限り頑張ります」


本当は何もしてないのが後ろめたかったのだ。

だが、リリーの事は明かせないので誤魔化すようにしている。


「それにそこの子供たち…ふむ…視覚阻害の魔術か…。

なるほど、あなたの理想が少し理解できたよ」


タルトとティアナはリーシャとミミの正体を見破られた事に驚いた。

さすが魔法を得意とするポーウィスの王だと理解した。


「あの…この事は…」

「心配しないでください、聖女様。

誰にも言わないし、私はこの子達が可愛く思えます」


ポーウィス王は微笑みながらリーシャとミミの頭を撫でている。

二人も最初は少し警戒していたが、今は大人しく撫でられている。


「良かったです…この子達は私の大切な家族なんです」

「そうか…ティアナよ、聖女様の側で色々と学んで来てくれよ」

「…分かりました。

もう常識はすべて捨てるくらいの気持ちで臨みます」


こうして全ての日程を終えて長い帰路に着いたのであった。

バーニシア領内に入ったところで早馬で文が届けられる。

馬車で昼寝していたタルトは眠そうな顔で読み始めたが、段々と真剣な顔付きになっていく。


「ティアナさん、オスワルドさん、リーシャちゃん達の事を頼みます!

私とノルンさんで急ぎアルマールへ戻ります!!」


一通の手紙が告げるアルマールの異変。

タルトとノルンは高速飛行でアルマール向けて慌てて飛び立って行くのであった。

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