第89話 問答

ケント王は最年長であり、七国会議で一目おかれている。

若い頃は各地で戦果をあげ、様々な経験を経て博識であるのも理由のひとつであった。

一見は優しそうなお爺さんに見えるが、その言葉にはどこか重みがあり、威圧感さえ感じる。


「聖女様にお聞きします。

貴女が目指すものは何でしょうか?

女神様の御使いとして現れ、何を成したいとお聞きすれば分かりやすいですかの?」


じっと見据える目に引き込まれるような感覚で、嘘をいっても簡単に見破られそうである。


「えっと…私は……私がしたいのは平和で皆が幸せに暮らせるようにです。

その皆っていうのは人間だけじゃなくて、種族関係なく仲良くしたいなぁって…。

最初は一人の女の子を助けたいだけだったのに、あっという間に守りたい仲間…いえ、家族がいっぱい増えたんです。

アルマールでは様々な種族が普通に暮らしています。

最初は文化の違いや禍根によって、問題もありましたけど今は他の町と何にも変わらないと思います」

「それは千年以上続いている、この戦争を終わらせる事が出来るというのじゃな?」

「こんな子供に何が分かるんだと言われるかもしれませんが、憎しみだけでは何も変わりません。

お互いに許しあって歩み寄らなければ駄目だと思うんです。

時間は掛かると思いますが不可能ではないんです」

「ふむ…バーニシア王は聖女様を信頼されてるようじゃが、どうお考えかな?」


バーニシア王はケント王とタルトを交互に見た。


「ワシは数々の奇跡を目撃しておる。

聖女様だけでなく、その配下…ではなく家族である悪魔や鬼、獣人に助けられ、時には命を懸けて救われておる。

その気になれば何時でも我が国は聖女様に滅ぼされるだろう。

それが明らかな戦力差であり、動かせない事実なのじゃ。

だが、これまで接してきて聖女様は信頼に足る人物であると確信しておる」


ケント王は少し考えた後、ノルンに目線を移した。


「ノルン様は天使であられるが、闇の眷属は滅ぼすべき対象ではないのですかな?」

「ご老体の言う通り天使にとっては倒すべき相手だ。

いや、相手だった…というべきか。

タルトに出会い悪魔や鬼も我らと何ら変わらず、この地上に共に生きる生命なのだと思えるようになった。

確かに闇の眷属には残虐なものもいるが、それは人間も同様だ。

人殺しもあるし、奴隷に対する扱いは残虐そのものであろう?」

「なるほど…痛いところを突かれましたな」

「私が最初にタルトに出会った時に、複数の悪魔の襲撃があった。

逃げ遅れた村人を助けたのは一人の悪魔の少女だ。

村人を守りながらという不利な状況で必死に戦い、我らが着いたときに命を落としてしまった。

だが、タルトの蘇生魔法によってその悪魔

が甦る奇跡も見たのだ。

その時に長年信じてきたものは何だったのか分からなくなったのだ。

それからは自分で見聞きし、考え、行動するようにしているよ」


問答を終えて、目を瞑り思考するケント王。

その見解を一同は静かに待っている。


「ワシは聖女様を信頼出来る人物だと考える。

澄んだ良い目をしておる。

先程の問答でも嘘は付いておらんようだしのう。

もし、争いのない世界が訪れるのであれば、惜しみない協力をさせて頂こう。

出来ればワシが生きている間にお願いしたいぞ。

それにな、アルマール戦では多数の魔物を大魔法にて殲滅させたと聞いた。

そのような方であればお一人で我が国を滅ぼせるであろう。

何も回りくどい方法をとる必要はない。

皆は如何かな?」

「レッジドは聖女様を支持するで。

その代わり新商品や技術を卸して貰えれば商いでもっと活況にしたる。

それに悪魔や獣人に商売して新規開拓も面白そうだしなあ」

「ポーウィスも同感だ。

聖女様から闇の気配は感じられない。

そして、人間を遥かに越えた魔力と規格外の魔法を使われる存在は神に近い存在なのかもしれないな」

「ゴドディンは鍛冶や産業技術を提供して貰えるなら支持するぞ。

水車なるものは人力より遥かに効率的と聞いた。

製造の革命が起こりそうだぜ!」


七国中五国が支持を表明している。

思ったより旗色が悪く、焦りの色が見えるディアラであった。

ドゥムノニアの反応は不明でどちらに付くが注目されていた。

ドゥムノニア王が腕を組んだまま、じっと考え込んでいるようであったが再び、タルトの方へ顔を向けた。


「聖女タルトよ、そなたは我らに何を与え、何を求めるのだ?

信仰か?金か?武力か?傘下へ加わる事か?」


これを聞いたノルンは失笑した。

ドゥムノニア王もその反応に眉を寄せる。


「天使ノルンよ、何か変な事を言ってしまったかな?」

「いや、すまない。

普通の相手なら当然の質問だが、タルトは変わっていてな。

何というか無欲で未知な技術も無償で提供し、昨日も自分の全財産が金貨一枚くらいだと思っていたほどだ。

実際は一国と変わらないくらい保有しているのにな。

毎日、平和で楽しい日々が続けば、それ以上望んでいないようだ」

「それで聖女は何も求めないと?」


タルトは悩んでいた。

何が欲しいと聞かれても、何も浮かばなかったのだ。

今までも困ってる人を助けたりしてたら、今のような状況になっていたのだ。

最初はリーシャを。

次にアルマール村を。

そして、村の復興や生活の改善。

幾度かの襲撃で増えた仲間たち。

今も人々の治療や新技術の開発、防衛体制の準備など毎日が忙しく幸せに満ち足りていた。

別にこれ以上、金銭が欲しいわけでなく人の上に立つなんてのも柄じゃない。

贅沢な生活も望んでないし、防衛はしたいけどそれ以上の武力は後に争いの元なので危険な武器は増やしたくない。

ただ、各国の協力があれば変えられる事も多くなるのは理解している。

そんなことを全力で考えていたら、ふっとある事を思い付く。


「私がお願いしたいのは…」

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