第77話 遺跡での死闘

キメラと対峙する三人。

その巨体からは想像できない素早さで跳び掛かってくる。

洞窟の中とは思えない広さをもつ部屋だが、キメラの巨体には普通の大きさに見える。

まるでライオンがネズミを追いかけているような光景である。

恐るべき爪と猛毒を持った尻尾による連擊を必死に躱すタルト、カルン、ティアナ。


「うわわわっ!思ったより早いよー!」

「動きを止めねえとウゼエナ!」

「二人はどうしてそんな余裕があるんだ!!

こっちは避けるので必死なんだぞ!」


キメラの翼が怪しく動き出す。

広げていたのを急に閉じて、力を溜めているようだ。

攻撃の予備動作と思われるので邪魔をしたいが、猛烈な攻撃の手を緩めてくれない。

ドーム上になった構造を最大限に利用し、壁や天井を足場にして縦横無尽に動き回っていたが、急に天井に爪で張りついた。


「なんか来るよ!!」


翼を広げ咆哮する。

途端に部屋中に暴風が吹き荒れた。

外であっても立ってられない程の暴風なのに、狭い部屋では威力も倍増され全方向から襲いかかる。

飛ばされないように耐えるので精一杯で自由を奪われてしまった。


「う、動けない…!」

「今、襲われると不味いぞ!」

「そういうのをフラグと言うラシイゾ!」

「何だそれは!?」

「知らネエヨ!タルト姉に聞けッテ!」

「嫌な事を言っちゃうと、その通りの事が起こるんですよーー!」

「そういうことは先に言ってくれ!」

「もう遅いみたいですけどねーーーっ!!」


案の定、暴風を突き抜けて跳び掛かってくる。

風で自由が奪われたタルト達に避ける余裕はなかった。


「くっ、これは回避できないぞ!」

「任せてください!

守って、女神の盾シールド・オブ・アイギス!!」


タルトが地面に手を着けて、前方に壁を出現させる。

しかし、キメラはものともせずに壁を破壊した。


「早っ!

セカンドシールド!

サードシールド!!

フォースシールド!!!

ええーっと、次はーーー!

分かんないから五重の防壁!!!!」


次から次へと壁を出現させ突進の勢いを殺いだ。


「危なかったぁ~」

「今のは土属性か??

一体いくつの魔法が使えるのだ?」

「まあ、今はそれどころじゃないですから。

そろそろこっちの攻撃ですね!」

「だが、素早くて当てられないぞ。

足を止める算段はあるのか?」

「ねえ、カルンちゃん、耳貸して」

「どうシタ、タルト姉?」

「えっとねー、こそこそ…」

「…面白いナー、乗るゼ!」


二人は魔力を集中させる。

声を合わせて同時に叫ぶ。


「「不可避なる千の刃サウザント・エッジ!!」」


二人は部屋を埋め尽くすほどの見えない真空の刃を放つ。

外れた刃が壁や天井を削りながらキメラへと近づいていく。

これにはキメラも回避不可能で、全身に突き刺さり血が吹き出した。


「動きが止まったよ、一気に終わらせよう!!

マジック…ショットガン!」


ステッキより魔力弾の嵐がキメラに襲いかかる。

先程の攻撃により動きを封じられた巨体に降り注いだ。


「うりゃりゃりゃりゃりゃーー!!

カルンちゃん、終わらせてーーっ!」

「任せロ、死の断頭台ギロチン・オブ・デス!」


キメラの上空に巨大な刃が出現する。

その刃は真空であるが闇属性が付与されており、真っ黒く不気味な様相であった。

同時にキメラの巨体を黒い鎖が縛り上げ、完全に動きを封じた。


「終わりダ、中々強かったゼ!」


カルンが指をパチンッと鳴らすと巨大な刃が落下し、キメラの首を両断した。

ズウゥーンと音をたてて巨体が倒れる。


「倒した…のか?

二人とも凄い魔法が使えるのだな。

この広い部屋、全体を覆う広範囲魔法とは…」

「タルト姉が本気出したら洞窟が崩れるカラナー。

悪魔より魔力量が遥かに多いんダゼ」

「そういえば、最近、魔力量が増えたみたいなんだよねー。

何でなんだろう???」


少し前からタルトが気になっていた事のひとつであった。

同じ魔法を同じように魔力をセーブしても威力が上がっていたのだ。

以前にエグバートの店で大きな肉の塊を魔法で焼いたことがあったが、最近、同じことをしたら消し炭にして怒られた経験がある。

それ以外でもちょこちょこと気になってはいたのだった。

以前、ウルに相談すると…


『確かにマスターの魔力量は数倍に増えております』

「そんなにっ!?

魔力量って増えるんだー、重力のある部屋で修行するとか?」

『それが魔力量は増えることはないんです。

生まれつき決まっていて、少なくとも私は聞いたことがありませんね』

「へー、異世界だと不思議なことが起こるんだねー」

『異世界の影響とは断定できませんね。

特にマスターへ変化があるような事象は観測しておりません』

「確かにね…辛いことも沢山あったけど強くなるのとは…。

人間的に成長したかな?」

『そぅ…ですね…成長したかもしれないですね』

「何でそこは微妙な反応なのっ!?」


魔力量が増えるのは悪いことではないので、普段は気にしないでいた。

必ずしも魔力の多さだけで強さが決まるわけでもないので、タルトは技術の向上などに努力している。

ここでも今までの常識の範囲を超えているものばかりを目撃したティアナも気にするのを止めたようだ。


「タルトの事は今度ゆっくり観察させて貰うことにするよ。

今は障害を排除したことだし先に進むとしよう」

「そうですね、本来の目的は遺跡調査と精霊探しですからね」


改めて部屋の中を観察する。

壁は先程の戦闘でボロボロになっているが、彫刻などが彫られているのが見てとれる。

更に周囲を探すと、キメラが倒れてる一番奥に石造りの大きな扉があった。


「如何にも奥に続いてそうな扉にみえるねー」

「また強い魔物がいるカモナー」

「それをフラグと言うのだろう?」

「ティアナさん、良く分かってますね!

ボス部屋の入り口っぽいですもんね」

「タルトもやめてくれ!

あれ以上の化け物は勘弁願いたい」

「では、皆様。

扉を開けますので、念のため警戒しててください」


オスワルドが扉に両手で押し始める。

おそらく石で出来ている重たい扉がズズッズズッと音をたてて開き始めた。

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