第63話 激戦
城壁には無数の魔物が群がっている。
タルト軍も奮戦しているが、圧倒的な数に押さえきれずにいた。
ガアァン、ガアァンとノルンの結界と衝突する音が響き渡っている。
リーシャ達は城壁の上を走り回りながら、状況をジルニトラに伝えていく。
「みぎがわのけっかいは、もうもちません!」
「左も同じ…」
「ちゅうおうはゆうげきたいのおかげで、もうすこしだいじょうぶなのです!」
「一角が落ちれば挟み撃ちじゃからな。
そろそろ第二城壁へ後退する潮時かの」
ジルはオスワルドに急ぎ後退を進言する。
「なんとっ!もう後退せねばならないのですか?
予想よりも五分ほど早いな。
だが、人的被害を出さない為にも決断せねばな。
よおし、全軍第二城壁へ後退せよ!
今すぐに持ち場を放棄し撤退に専念するのだ!
通信係は第一城壁陥落の合図を上げよ!」
オスワルドの指示が出るや否や、兵士達は城壁を駆け降り第二城壁へ走っていく。
老兵達は用意された馬車に乗り移動する。
ティート達は城壁に鉄の棒を投げて、突き刺し足場とする事で城壁を駆け上がる。
シトリー達やノルンは獣人隊の撤退を援護しつつ、最後に第二城壁へ向かう。
全員が第二城壁を通過するのを確認し、通ってきた通路用の穴を土魔法で封鎖した。
「兵士達よ、諸君らの奮闘により順調に時間が稼げている!
この第二城壁でも先程と同じことを繰り返すだけだ!
既に強大な敵にも通用することは証明済みだ!
更なる奮闘を期待する!」
オスワルドは再度、配置に付いた兵士達を鼓舞する。
実際には第一城壁で十五分の予定だったが、実際には五分早かった。
予想よりも数が多く、敵の勢いも凄まじいものだった。
事前に敵本陣の位置を確認し、第二城壁が落ちる頃には別動隊が敵本陣に到着する計算だった。
このままでは、到着する頃に第三城壁まで落ちることになってしまう。
だが、オスワルドは士気が落ちることを懸念し、順調なように振る舞っている。
内心の焦りを見せないように気丈にしているが、背筋には嫌な汗をかいている。
第一城壁の一部が崩れ、その隙間から魔物が溢れてくる。
「大弩隊、良く狙え!
…放てえぇーーーーーー!!!」
第二城壁での戦いが始まったのだった。
一方、その頃。
別動隊は深い森の中を進んでいた。
戦闘開始の合図で行動を開始し、敵本体を避けるように大きく迂回しているのだ。
飛ぶとすぐに発見されることから、走っている。
全力では疲労してしまうので、速度も抑えていた。
遠くに大きな破壊音が聞こえるが、段々と後方へ音が遠ざかっていく。
敵本隊とすれ違ったようだ。
そこから、暫く進んでから向きを敵本陣へ変更した。
丁度、その時に第一城壁陥落の合図が聞こえた。
「今のは第一城壁陥落の合図です!
思ったより敵の勢いが凄いのかもしれません…」
「タルト、落ち込むんじゃねえ!
ここまで来たら、やるしかねえんだ!」
「でも、この時間だと敵本陣に着く頃には第三まで落ちることになっちゃいますよ…」
「なら、うちらが敵の大将をすぐにぶっ飛ばせば良いだけだぜえ!
馬鹿兄貴なんて楽勝だから、安心しな!」
「桜華さん…皆の為にも進むしかないんですよね。
よし、一気に行きましょう!」
予定では第二で敵本陣到着、あと三つの壁を突破される前に藜を倒すはずだった。
壁一枚分、時間を短縮しないと最終防衛ラインの学校まで到達されてしまうのだった。
相手の強さも未知数の為、タルトの不安は募るばかりである。
進むうち前方に魔物の反応を、タルトの魔力感知が感じ取った。
「前方に大きな魔物の反応があります!
間もなく姿が見えるはずです!」
「ここは僕にお任せを!
音をたてず暗殺するには得意ですから!」
琉が前へ出ると一体のサイクロプスが現れた。
こちらに気付くと巨大な棍棒を振り上げ、突進してくる。
そんまま琉に向けて凄まじい速度で振り下ろした。
その巨体からは想像できないほどの素早さの攻撃であり、琉がいた地面がベコッと凹んだ。
「遅い!」
琉はその一撃を躱しながら、相手の腕を足場にして飛ぶ。
サイクロプスの頭部を通り抜けながら、斬り落とした。
「琉よ、腕を上げたなあ!」
「姉上なら胴体ごと一刀両断にしそうですが、僕には首が精一杯ですよ」
「さすが琉様です!
私めも精進させて頂きます!」
あっさりとサイクロプスを倒して、別動隊は先を急いだ。
途中にはぐれたのか、見張りとしておいてあるのか、魔物に何回か遭遇した。
時間を掛けずに瞬殺していったが、五回目を終えたときに第二城壁陥落の合図が聞こえた。
「急がないと!
もう少しだと思いますから!」
「ちっ、雑魚ばっかりだが無駄に時間を使っちまう!」
「意図的な配置とは思えませんから、本隊からはぐれたか、遅れて到着した魔物でしょう」
「本当にムカつく奴らだぜえ!」
焦りつつもバレないように静かに行動する。
万が一、奇襲に感づかれて逃げられたり、魔物を呼び寄せられると厄介だからである。
時間があれば全部倒せばいいのだが、今回はそんな余裕がないのだ。
そんなときに第三城壁陥落の合図が無情にも鳴り響いた。
そして、遂に敵本陣に到着した。
数人の男性の鬼が周囲を警戒し、中央に一際大きい鬼が腕を組んで立っていた。
タルト達に気付き、笑みを浮かべる。
「ああ…愛しい妹よ。
来てくれると信じていたぞ!」
「はっ、勝手な事を言いやがって!
話してる時間も惜しいんだよ!」
「まあ、慌てるな。
報告によれば三つ目の壁を落としたそうだ。
あと二つ落とせばお前を縛っているものは、全て消える」
「テメエ、ぶっ殺すぞ!」
「ああ、小さい頃は俺の後ろにくっついて素直だったのに。
人間どもに騙されているのだな。
安心しろ、直ぐに皆殺しにして目を覚まさせてやろう」
「勝手な妄想してんじゃねえぞ!
それにコイツらに出会うことで、新しい世界を知ることが出来たぜ」
「脆弱で薄汚い人間に騙されてるだけだ。
可愛そうな奴だ…」
「いいかあ、ここにいるチンチクリンに真剣勝負でうちは負けたんだ。
人間はなあ、力はなくても心が強え奴らばっかりなんだよ!」
「何だと!
人間ごときが偶然でも我が妹に勝っただと!!
貴様が妹を洗脳した張本人か!!」
「何か相手を怒らせてません!?
私が凄い睨まれてるんですけどっ!」
「まあいい、妹以外を皆殺しにしてしまえば分かるだろう」
「ちょっ、弟の僕も殺す前提ですか!?」
「んっ?琉もいたのか、相変わらず存在感がねえな。
お前は部下に勝ったら助けてやろう。
雪恋よ、裏切り者のお前に居場所はない。
死ね!」
「私めは姫様に忠義を尽くしております。
裏切り者とは勘違いしないで頂きたい!」
「いい度胸だ。
おい、貴様等、妹以外の相手をしてやれ。
俺が桜華を相手する」
「「「「「「承知しました!」」」」」」
部下は六人おり、タルト、琉、雪恋に二人ずつ立ちはだかった。
藜ほどではないが大柄で筋肉質であり、琉とは別種族に見える程だ。
「藜様の弟とはいえ、手加減出来ぬぞ。
死んでも恨まないで頂きたい」
「これでも兄上や姉上の弟ですから、舐めないで頂きたいですね」
「雪恋よ、藜様にたてつくとは愚かな。
泣いて懇願すれば性奴隷にして生かしてやるぞ」
「下衆な、その口を直ぐに喋れないようにしてやろう」
「人間にしては可愛い面してるじゃねえか。
ペットとして飼ってやるぜ」
「お断りです!
時間がないから直ぐに終わらせますね!」
遂に最終決戦が始まろうとしている。
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