絵里香 大久保 阿田川 梨沙

 たぶん佐久間のものだろうと思われる銃声がやみ、絵里香はあの二人がMに殺されたことを悟った。


 自分たちが逃げるために、彼らをMに晒すようなことをした。昨日までの自分では考えられない行為だ。


 微かな高揚感と、相反する嫌悪感があった。しかし、今はそのような気持ちを整理している暇はない。


 四人とも無言で進んだ。


 時折梨沙が転倒しそうになり、遅れがちとなったが、待ってほしいとは一言も言わない。阿田川が手を貸したりもするが、基本的に自力で追いついてきていた。そんな梨沙を健気に感じる。


 そして、自分が彼女たちからどんどん離れていくような感覚がわいてきて、一抹の寂しさもあった。


 ふと、上の方で何かが動いた気がした。


 「隠れて」


 小さく言うと、絵里香は木の陰に隠れた。


 すぐ近くに大久保が、少し離れた木に阿田川と梨沙が、同じように隠れる。


 その途端に、激しい銃撃があった。自動小銃だ。しかも、暗がりの中、自分たちの位置をしっかりと把握している。


 絵里香はサーチライトをつけた。上に向ける。銃撃がやんだ。男達が数名隠れたのがわかった。それほど多くはない。二~三人くらいか?


 だが、自分たちにとって強敵すぎるのは明らかだ。飛田や佐久間とはレベルが違う。まともに争ったら勝ち目はない。


 絵里香はサーチライトを上に向かって投げた。そして、大久保を促し斜面を滑り降りていく。ほとんど落ちていく、という感じだった。


 「来て!」


 阿田川達にも声をかける。二人も続いてきた。


 その少し後から銃声が響いてきた。阿田川達が隠れていた木に銃弾がめり込んでいく。






 下までは降りず、途中で止まると、絵里香はまた南に向かって走り出した。


 大久保や阿田川も続く。梨沙もついてこようとしたところで銃撃があった。


 誰も被弾しなかったが、慌てた梨沙が「きゃあ」という叫びとともに転倒し、再び斜面を滑り落ち始めた。三人が立ち止まる。僅かに躊躇した。


「来ちゃだめっ!」


 梨沙の声が聞こえてきた。胸が締めつけられる思いがした。あの、甘えん坊の梨沙が、助けに来るなと言っている。


 阿田川が「行ってくれ」と言って、一人梨沙の元に向かう。


 絵里香と大久保は一瞬ためらったが、頷き合い、先に進んだ。


 銃撃は更に続いた。だが、どうやら、梨沙と阿田川の方に向かっているようだ。


 様子を見ようとして、絵里香と大久保は太めの木の陰に隠れた。月明かりはあまり届いてこないのでよく見えないが、武装した三人が素早く斜面を降りていったのがわかった。


 このままでは、阿田川と梨沙が危ない――。


 出発前に決意したはずだったが、絵里香は迷った。大久保もそのようだ。二人、顔を見合わせた。お互いに、相手の判断を待っている。


 来ちゃだめっ!――梨沙の声が頭の中で木霊する。


 行ってくれ――阿田川の顔が目に浮かぶ。


 「道の駅を目指そう」


 絵里香がキッパリと言った。


 結界を戻す事は、絶対に成功させなければならないのだ。今自分が梨沙達を助けに行っても、おそらく四人とも殺されるだけだろう。それでは元も子もない。


 大久保も無言で頷いた。二人、何かを振り切るように走り続けた。

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