逃げる人々

 木戸達が国広家族と三国を連れて戻るのと、東谷と沢崎が合流するのはほぼ同時だった。


 「すいません。敵はまだ大勢残っている。おそらく10人を超えるでしょう」東谷が木戸に向かって詫びた。そして「何か変わったことはありませんでしたか?」と訊く。


 正直なところ、ここまで敵の襲撃がなかったのは意外だった。ある程度は覚悟していたのだが、拍子抜けした感じだ。


 「まあ、無かったとは言えないが……」


 歯切れの悪い木戸の応え。彼の後ろを見ると、三国が手錠をはめられていた。顔が腫れあがっている。


 「三国が何か?」


 東谷が訊くと、木戸は渋い表情で説明してくれた。


 聞いて呆れた――。三国という男に怒りを通り越して殺意さえ覚えたが、それを表に出すわけにもいかない。


 三国を見ていると、沢崎が歩み寄ってきた。


 「俺に任せておけ」


 そう言うと、沢崎が三国に歩み寄る。


 「何をするつもりだ?」木戸が問う。


 「犯罪者は犯罪者同士、言って聞かせるのさ」


 意味ありげに笑うと、沢崎は木戸の肩をポンと叩いた。そして三国の肩を抱くようにし、少し離れた木の裏に行く。皆からは見えなくなった。


 「三国よ、おまえ、そんなに子供が好きなのか?」


 「え?」キョトンとする三国。「ええ。まあ……」


 「そうか。じゃあ、生まれ変わって子供からやり直せ」


 意味がわからず沢崎の顔を見上げる三国。次の瞬間、ドンッという衝撃を胸に受け、一瞬だけ目を見張ったが、すぐに力を失って倒れた。


 ドサッという音を聞きつけ、東谷や木戸達が駆けつける。


 三国の胸にナイフが深々と刺さっていた。見下ろす沢崎の表情は冷徹そのもので、機械が当たり前の作業をした、という感じだ。


 遅れて駆けつけた絵里香が息を呑んだ。






 「貴様、何を――」沢崎の胸ぐらを掴む東谷。


 「今後一人でも多くが生き残るためには、不必要なものは排除しておいた方がいい」


 そう言いきった沢崎の横顔を、東谷が、木戸が、遠藤が、そして絵里香が見つめた。同時に短い溜息をつく。


 沢崎は東谷を見る。「あんただって、本当はこうしたかったんじゃないか? 確か、勝手な真似をした奴はあんたが撃つと言っていた。俺が代わりにやってやったんだ」


 「汚ねえな、俺がやろうと思ったのに」ギロリと沢崎を睨む遠藤。


 「やろうと思った時にやる。そうでないと後れをとるのは当たり前だ」


 そっぽを向きながら言う沢崎に、遠藤は「ケッ」と浴びせかけてその場を離れていった。


 「行こう」


 東谷を促し、木戸が言った。こんなところで留まっている暇はない。東谷は仕方なく沢崎から視線をはずした。


 それでも沢崎をじっと見ている者がいた。絵里香だ。


 沢崎もそれに気づいた。


 「何の躊躇いも、何の容赦もないんですね」


 絵里香が言うと、沢崎は絵里香の頬を撫でるようにした。絵里香は抗わなかった。


 「あったら生き残ってこられなかった」


 言い残し、沢崎は絵里香に背中を向けた。


 その時、森の奥から爆音が聞こえてきた。地面が微かに揺れる。


 「な、何だ、あれは?」


 佐久間が叫ぶ。飛田も声をあげかけたが、木戸の「シッ」という鋭い声で飲み込んだ。


 長尾美由紀が口を押さえ、その場に崩れ落ちそうになる。板谷がそれを支えた。梨沙が阿田川にしがみつく。


 「手榴弾とは違うな」東谷が音のした方を見る。


 「ダイナマイトだ。おそらく」沢崎が言った。


 「何故ダイナマイトなんて。敵はそんなものを持っているのか?」


 木戸が怪訝な表情になる。


 「とにかく先を急ごう」


 東谷が促し、ようやく全員揃って動き始めた。

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