森の入り口 武装集団
「おい、田沼――」
もう何度目だかわからないくらい呼びかけたが、ついに返事はなかった。
黒崎は、手の中のトランシーバーを見つめ、その視線を宇野に移していく。
「怪物、と言っていました。あの田沼が、確かに」
宇野が愕然とした表情で言う。
剛胆で鳴らすあの田沼が、まるで虐められた子供のようなか弱い声を張りあげていた。
「他の5人はどうしたのでしょう?」宇野が訊く。
黒崎は首を振る。「おそらく全滅だろう」
木戸という刑事の話を聞いたときから感じていた不気味な思いが、ようやく形を成した。この森には、何かいる。それも、とてつもないものが――。
「作戦は中止しましょう。異常事態です。撤退するんです」
宇野がこれまで以上に必死になって言った。
「駄目だ」強い口調で言い放つ黒崎。部下達を見渡した。
しん、と静まりかえっている。何も言わないが、ただならぬ状況に緊張していることは感じ取れた。
「臆したら負けだ。まだこれだけの人数がいる。これだけの武器がある。田沼を襲った怪物がどのようなものなのかわからないが、充分戦える。行くぞ」
「しかし……」宇野が食い下がる。「田沼達6人も武装していました。戦える男達です。それでもやられた。あの田沼がですよ。とてつもない相手だ」
「不意をつかれた、ということもあるだろう。田沼は元々、そんな怪物の存在など念頭になかった。今我々は違う。怪物――そんな言い方をするから気後れするのだろう。これからはMと呼ぶ。Mも沢崎達同様我々の敵だ。充分警戒していく」
宇野を見つめていると、彼は目を伏せ、しきりに首を振っていた。だが、何も言わない。
他の部下達を見ると、機械のように微動だにしていなかった。それで良い。機械になれ。戦う機械だ。おまえ達は、それで良い。
「Mと出会ったら、総員で攻撃を仕掛ける。沢崎達がいたとしても同様だ。だが、Mが沢崎達を襲っている場面に出くわしたら様子を見る。いいな?」
もう一度、全体を見渡した。宇野は諦めきった表情をしていた。
「では、行け」
黒崎が命令すると、部下達は林へと足を踏み入れていく。
最後に歩き出す際、黒崎は月明かりに照らされて浮き上がる森のシルエットを見つめた。
沢崎や東谷に対する意識とは別に、Mという生物への興味も激しくわき始めた。
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