森の中 木戸 遠藤 絵里香 国広達

 木戸達が戻り始めてしばらくすると、ハイキングコースより大分奥の方から「沙也香」と呼ぶ声が聞こえてきた。国広だ。


 駆けつけてみると、国広豊と妻のみどりが、必死の形相で沙也香を探しまわっていた。


 「どうした? 沙也香ちゃんがはぐれたのか?」


 「誰かに襲われました。そして沙也香を攫われた」


 「お願い、沙也香を助けてください」みどりが木戸に縋りつくようにする。


 三国だ――。


 すぐに思い至った。あの男は、一体何を考えているんだ? こんな状況であっても、自分の欲求を優先するのか? やはり異常者だ。


 「手分けして探しましょう」絵里香が言った。


 「そうしよう。沙也香ちゃんか三国、どちらかでも見つけたら銃で合図をするんだ」


 木戸が指示する。銃声によって敵に悟られる恐れもあるが、少女のことを優先した。


 それぞれ別の方向に走る。遠藤が途中まで木戸の横にいた。


 「俺が、この期に乗じて逃げると思わないのか?」


 遠藤が木戸に向かって訊く。


 「おまえは許し難い奴だが、そういうことはしない男だと思っている。もし違ったら、俺の見立てが間違っていたということだ」


 そう言うと、遠藤の視線が一瞬だが宙を泳ぐようになった。


 「へっ」ニヤリと笑い、遠藤は離れて行った。


 一刻の猶予もない。木戸は焦りを抑えながら、沙也香の姿を探し求めた。

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