道の駅 警察 犯罪者 関係者 客

 「それで?」大熊が険しい表情で木戸を睨む。「俺達を牢屋に閉じこめようって言うのか? 冗談じゃねえぞ!」


 木戸が敵の提示した条件を説明し終えたところだった。


 東谷は犯罪者達だけでなく、刑事や民間人達それぞれの表情、仕草などを観察した。犯罪者達以外は一様に俯き始めた。


 「俺達を生け贄にしようってか? ふざけんなよ。むざむざそんなことにはならねえぞ」


 佐久間が立ち上がった。木戸に食ってかかろうとするのを、板谷が止める。


 「そんなことは言ってない。おまえ達を連中に差し出すつもりはない」


 木戸が怒鳴るように言った。


 「じゃあ、どうすると言うんだ?」


 遠藤が訊く。どっしりと構えているようにふるまっているが、表情の強ばりは隠せない。


 三国は泣きそうな顔でオロオロとしていた。だが、離れた場所に座る沙也香の顔を何度も見て、我慢しているようだった。どういう神経をしているのかわからない。国広みどりがたまりかね、沙也香を隠すように抱きしめた。


 「俺がおまえ達と一緒に残り、戦う」


 東谷が言う。犯罪者達の視線が、一斉に向けられた。


 「あんた一人でやるって言うのか?」遠藤が目を丸くしながら言った。


 「いや。おまえ達にも戦ってもらう」


 「ほうっ」という、溜息とも感嘆の声ともとれる声が漏れた。


 「閉じこめることはしない。武器も貸してやる。俺と一緒に分署に行き、敵を待ち受けるんだ。ただし、条件がある」


 最後の言葉に力を込めた。


 「何だ?」遠藤の目が更に厳しくなる。


 「何人いて、どんな装備を有しているかわからない敵と戦うんだ。俺達は俺達で、協力し合わなければならない。生き残りたければ、勝手な行動をとるな。俺がリーダーだ。俺に従ってもらう。それができない奴は自由にもしないし、武器も貸さない。もし途中で逃げたり、勝手な行動をとろうとしたら、そいつは真っ先に俺が撃つ」


 順番に犯罪者達を睨むようにしながら、東谷は言った。






 動いたら切れてしまいそうなほど空気が張り詰めた。


 遠藤はしっかりと睨み返してきた。


 大熊は見つめ合った後、すぐに目をそらす。だが、反発はしなかった。佐久間は最初から視線を合わそうとしない。


 「ちょっと待ってください」三国が涙声で言った。「それって、人権侵害じゃないですか? いくら僕が犯罪者だからって、襲われるとわかっている場所に連れて行かれ、嫌なのに戦わされるなんて」


 「おまえの言うことは正論だ」頭のイカれた犯罪者に向かって言うのも妙な感じだが、東谷は諭すような口調になった。「しかし、今は正論が通じるような状況ではない。何もしなくても殺されるんだ。だったら戦った方がマシだろう。もし戦うのが嫌なら、分署のどこかに静かに隠れていろ」


 三国は息をのみ、そして項垂れた。


 「俺はいいぜ」沢崎が世間話でもするように言った。「あんたの指示に従う。だが、戦うときは俺流でやる。元SATのあんたとはやり方が違うだろうからな。目的は同じだ。敵を倒すまで逃げない。あんたも含めて、敵以外の人間には何もしない。約束する」


 「俺もそれでいい」沢崎に対抗するかのように、遠藤が言う。


 「俺は最初からそのつもりだったんだ」大熊も腕に力を込めながら言った。


 佐久間を見た。相変わらず俯いたままだ。


 「やりたくなきゃあ、どこかに隠れてろ。嫌々参加されても足手まといだ」


 遠藤がそう言うと、佐久間は意を決したかのように顔を上げ「いや、やるよ」と顔を上げた。


 三国のことはあえて放っておいた。むしろ戦いには参加させない方が良いとも思える。






 「我々は、どうしたらいいんですか?」


 國府田が手を挙げながら質問してきた。


 「私とこの5人以外は、森へ逃げてください」


 東谷が言うと、皆戸惑ったように声をあげ、ざわざわし始めた。


 「ハイキングコースだった道の途中に、元博物館があります。道の駅の人たちは知っているでしょう? 一旦そこに隠れてください。私以外の警察官達が守ります。いいな?」


 東谷は飛田と熊井を見た。熊井は思い詰めた顔つきながら、しっかりと頷いた。だが、飛田は目を泳がせるようにしている。


 「そこで30分待ってください。それでも私がそちらに合流しない場合は、博物館を出て、山を越えてください。とにかく逃げるんです。どこに向かえばいいのか、篠山さんや角田さん、牧田分署長などでよく検討してください。木戸さん、板谷さんで全体をまとめていただきたい」


 「山越え……」


 誰かが呟くように言い、どよめきが起きる。


 「困難な道行きになると思いますが、全員で協力し合い、乗り切るんです」


 励ますように言う東谷。


 木戸が熊井に、売店や事務所から方位磁石をあるだけ持ってくるように言った。人数分はないが、グループごとなど適当に分けた。


 「目指す方向を決めたら、たとえはぐれてもそちらに向かうようにしてください」


 「しかし、森には怪物がいるかも知れないんでしょう?」


 飛田が言った。瞳が虚ろだった。こいつはもう使い物にならないかも知れない、と東谷は思った。


 「そんなこと信じて脅えてるのか? てめえ、警察官だろう」遠藤が怒鳴る。


 「森で敵やその本当にいるとして怪物に遭遇した場合は、我々も戦う。そのために、武器も持っていく」


 木戸が言った。厳しい目で飛田を見つめる。だが、飛田はまた俯いてしまった。






 「てめえがさっき言ったとおりの展開になるんじゃねえか。良かっただろう」


 大熊が笑いながら言う。気持ちが高ぶり始めているようだ。


 「なら、僕も残ります。東谷さんと一緒に戦います。森へ行くみんなを守るのは5人もいる。残るのが2人でもいいでしょう?」


 飛田が思い詰めたような顔で言った。東谷は、彼の特性がわかり辟易した。どう言って諭すべきか?


 「馬鹿野郎!」怒鳴ったのは遠藤だった。「てめえなんていらねえ。てめえは自分の性根をわかってねえらしいから言ってやる。怖いんだろう? 誰かに頼りたいんだろう? てめえは少しでも危険や恐怖の少ない方へ行こうとしているだけだ。さっき分署では怪物の話なんて出てなかったから、民間人を守るために俺達をおいて行こうなんて意見を言った。その方が自分に降りかかる危険も少なくなると思ったからだ。今度は、怪物なんていうばかげた話を信じちまって、怖くなって、こっちが手薄だから自分が残るなんて言い出す。こっちに残る方が、その元SATのダンナもいて心強いし、俺達も戦うから自分にかかる負担も少なくなる。暗い森を敵や得体の知れない怪物の恐怖に怯えながら進むよりいいと感じたんだろう? 卑怯者。てめえそれでも警察官か? てめえみてえな奴に人を守ることはできねえ。一人でどこかへ消えちまえ」


 飛田は一瞬怒りの表情で遠藤を睨んだが、逆に睨み返されると俯いてしまった。拳を握りしめ、身を震わせている。


 「言われて悔しければ、警察官としての仕事を全うしろ」板谷が飛田の肩を強く叩いた。


 それでも飛田は黙って固まっていた。


 静寂が来た。沈黙が耳に痛い。もうそれ程時間もない。急いで準備にかかりたかった。


 小川達がまだ戻ってこないのが気になるが、向かえに行く余裕もない。


 「準備を始めます」


 東谷が言うと、俯いていた人々が顔をあげた。戸惑いは消せない。

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