道の駅 警官 犯罪者 関係者 客

 「敵はある条件を突きつけてきた。検討のために、とりあえず40分、時間を稼いだ」


 木戸が一同に説明した。


 「ある条件っていうのは何だ?」


 遠藤が厳しい表情で訊いてくる。


 その向こうから、何気ないふうを装いながらも沢崎が鋭い視線を一瞬向けてきたことに、東谷は気づいた。


 「それをこれから説明する。今後の計画も東谷君と私でたてた。それも聞いてもらう。だが、その前に……」


 木戸が視線を向ける先では、角田、篠山、小川が西田捜索のための準備を始めていた。


 「放っておく訳にはいきませんからね」


 篠山が言った。他の二人も頷く。


 「藤間君、君も一緒に行くんだ。わかるね?」


 牧田が言うと、藤間は険しい表情で頷き、自動小銃を握りしめた。


 「じじいが勝手に出て行ったんだろ。放っておけばいいじゃねえか」


 大熊が怒鳴る。女性陣が身を竦めるのがわかった。


 「そうはいかない」


 小川がきっぱりと言い、大熊を睨み返した。緊張感が奔る。


 「何だ、てめえ」と身を乗り出す大熊を、遠藤が手で制した。大熊は渋々ながら退く。


 「見つからなくても十五分で戻って来いよ。あんたらはどうでもいいが、武器が少なくなるのは困る」


 遠藤が藤間に向かって言う。


 「おまえが偉そうに指示を出すな」板谷が遠藤に銃を向けた。ここでもまた、身を切るように緊張した空気が皆を襲う。


 「先に話を進めていてください。その人に言われたからじゃないが、15分で戻ります」


 その場の雰囲気を気にするふうでもなく、小川がそう言って出て行く。その姿を見て、民間人達は「ほうっ」と息を吐いた。緊張感が解れていく。


 東谷は、小川という男を高く評価した。彼は、頼りになる――。






 「見つかるといいが……」


 鎌田が呟く。その横で國府田が「それにしても、どうして外へなんか」と首を振った。


 「そう言えば」大岡多恵がハッとなって顔を上げた。「西田さん、森の中に小屋を建ててあるって言ってた。そこへ行ったんじゃないかな?」


 「それは、どこにあるんです?」


 東谷が訊くが、大岡多恵は「わからない」と首を振った。


 「西田さん、そこに怪物を倒すための道具を揃えているらしかったね」


 小笠原里枝が言うと、皆の視線がそちらに向いた。


 彼女本人がその状況に驚いた。まずいことを言ってしまった、とばかりに口を両手でふさぐ。


 「怪物だ? 何だ、そりゃあ?」


 大熊が怪訝な顔で訊く。この男は、ただでさえ声がでかい。響いた声は小笠原里枝を震わせるのに充分だった。


 「この地域には昔から怪物が現れて動物や人を襲うという伝説があるんだ」牧田が小笠原里枝を庇うように説明した。「西田さんはそれを真に受けている」


 「その怪物というのは、最近でもこの辺で目撃されたりしているんですか?」


 意外にも、そう質問したのは木戸だった。真面目な顔だ。だが、誰も応えられず戸惑った。牧田、客の若者達などの視線が、一気に鎌田に向けられる。


 「何だ、あんたが詳しいのか? 言ってみなよ」


 大熊がそう言って鎌田を見る。 


 「犯罪者と話す気はない」鎌田が素っ気なく言う。


 「おっさん、いい度胸じゃねえか」


 大熊が立ち上がろうとした。それを板谷がまた小銃を構えて止める。


 「最近でも、何か未知の生物らしいものが目撃されたりしています」國府田が取り繕うように説明を始める。「類人猿らしいのですが、全体像をはっきり捉えた目撃談もないし、もちろん映像も写真もないんです……。わかっているのは、2メートルを超える巨体であることと、毛むくじゃらだということです」


 木戸がその話を聞いて「ふうむ」と唸った。その向こうで、何故か沢崎も険しい表情になっている。






 「木戸さん、どうしたんですか? まさか……」


 東谷は木戸を見つめた。彼が何を考えているのかわかる気がした。だが、それを口にしたのは沢崎だった。


 「その未知の生物が、本当に現れたんじゃないのか? さっき死体を投げ込んできたというのは、敵ではなく、その生物じゃないのか?」


 「何を言ってやがる」遠藤が怒鳴る。「そんな馬鹿なことがあるわけねえだろう。正気か、てめえ」


 沢崎は無表情で遠藤を受け流すと続けた。「さっきの死体を見たが、あんな事ができるのは、人間じゃない」


 「本気で言っているのか?」東谷が訊く。


 「本気だ。俺は日本だけでなく、海外でも様々な戦闘に関わってきた。いろいろな死体を見てきた。その俺が言う。あれは、人間の仕業じゃない」


 「馬鹿な。猟奇的な奴はいくらでもいるじゃねえか、最近は」


 遠藤が吐き捨てるように言い、三国を睨んだ。竦みあがる三国。


 「いや、実は俺も、あれは人間の仕業じゃないと思い始めていたんだ」


 木戸だった。板谷や飛田、熊井が目を見開いて彼を見つめる。


 「俺も、これまでいろんな変死体を見てきた。猟奇的な犯罪者の犠牲になった人とかな。確かに、もっと残酷に見えるものもあったが、違うんだ。何と言ったらいいのかうまく表現できないが、さっきの死体には、あれをやった者の感情が感じられないんだ。まるで、子供がおもちゃを壊したような……、あるいは、動物が無造作に獲物を喰らったような、そんな感じとでもいうのかな」


 木戸が首を傾げながら言うと、沢崎が大きく頷いた。


 僅かながら沈黙が来た。それは、これまで以上に重いものだった。


堪えきれなくなったのか、遠藤が笑い声をあげる。


 「まさか、骨の髄まで刑事らしかったあんたまでそんなことを言うとはな」


 木戸は遠藤を見るが、その目は特に怒ってはいなかった。






 「おまえも本当は、感じているんじゃないか? 武装集団とは別の、何か恐ろしい存在について。それが怖くて認めたくないんじゃないか?」


 「な、何を言う? 俺が怖がってるだ? ふざけるな」


 遠藤が声を荒げたが、勢いが感じられない。


 木戸が遠藤に向けた言葉は、東谷にも重くのしかかった。


 自分もそうなのかもしれない――。


 「実は、僕もあの死体を投げ込んだのが未知の生物だと思っていました。いや、そうに違いないと思っています」


 國府田が立ち上がりながら言う。自然と、みんなの目がそちらを向く。


 「この天童地区の森にいると言われている未知の生物は、類人猿ではないかと思われていました。実際、目撃証言のうち信憑性のあるものは、巨体で、毛むくじゃらというものでした。だけど、全体像をしっかり見た人はいない。人によっては、頭が無くて肩にめり込んでいたというものもある。顔らしいものを確認したという証言はないんです。それから、昔から伝説として伝わる怪物の話の中には、羽があって空を飛んだ、大きな赤い目をしていた、イノシシや鹿など何か他の動物を喰らい、血を吸っていた、等というものもあります。これらは類人猿にはあてはまらない」


 さすがに大学で講師をしているだけあって、話し方には人を惹きつけるものがあった。


 「おい、國府田君」嗜めるように言う鎌田。「確かな証拠もないのに、推測だけでものを言うのは学者としてはよくないぞ」


 「わかっています。でも、どうしても気になるんです。伝説の、いや、最近の目撃談にもいくつか見られる証言ですが、大きな赤い目、羽、毛むくじゃらの巨体――」


 「さっき話していた、モスマンですね?」


 言うべきかどうか躊躇しているような國府田に変わり、北沢絵里香が言った。


 「うん。そうなんだ」絵里香を見て、國府田が頷く。「これは、はっきり言ってオカルトの分野に入ってしまう。信憑性と言われると弱いし、学者としては真面目に取り扱うべき事ではないんだけど、どうしても、僕にはモスマンが思い出されて仕方がない」


 「何だ、そのモスマンてのは?」


 遠藤が鋭い目つきをしながら先を促した。

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