武装集団 田沼 移動中

 「クソッ」


 暗いだけでつまらない車窓を眺めながら、田沼は舌打ちした。


 俺一人にすべて任せてくれれば良かったものを、上は、黒崎と宇野を派遣してきた。隊長である黒崎の指示には従わなければならない。それがまどろっこしい。


 抱えているMP5の重みを確かめた。使いたくてウズウズしてくる。


 ブーツのサバイバルナイフも、ベストに忍ばせた手榴弾も、みな、使わなければただの飾りじゃないか。


 フロントウインドウに視線を移す。


 右も左も木々が立ち並び、陰気な雰囲気の道が続いている。


 雨はあがったとはいえ、まだどんよりとした空には、星も月も見えない。


 「ん?」奇妙なものが見えた。何かが、この車に向かって飛んでくる。


 「おいっ、気をつけろ」危険を感じ、運転している部下に怒鳴った。


 運転手も気づいたが、その時は遅かった。「うわっ」と慌ててハンドルをきるものの、衝突は避けられない。


 視界に突然現れた物体は、あっという間に大きくなり、フロントウインドウのほとんどを覆う。


 そして、ガシャーンッ! という激しい音と、体を襲う衝撃。


 ワンボックスはスリップし、ガードレールに衝突することで何とか動きを止めた。


 空から何か落ちてきて、フロントウインドウにぶつかった。それは理解できた。


 だが、衝撃で体を車内のあちこちにぶつけているうちに、訳がわからなくなった。


 三列シートの中央の席に座っていた田沼は、身体の痛みを感じる前に、銃を手に外へ飛び出す。


 同様にして、部下達も下りてくる。その素早さに、微かに誇らしさを感じる。通常の人間であれば、呆然として動けないだろう。


 さすがに前の席の二人はよろよろとしている。助手席にいた部下は、額から血を流していた。それでも、銃を手に身構えている。






 田沼を中心に、5人の男達が散開し、敵と思われる者の姿を捜した。ジリジリと、考えられるすべての方向に注意をはらいながら、再び車に戻る。


 田沼が部下達へと視線を送る。順番に、部下達は首を振った。


 何もいない、という意味だ。


 田沼は舌打ちすると、少し離れた路上に落ちている物体に視線をおいた。あれが飛んできて車のフロントウインドウを破壊したのだ。


 いったい何だ?


 部下達にあたりへの注意を怠らないように指示し、路上の「それ」に近づく田沼。


 「これは――」豪傑で鳴らす田沼もさすがに息を呑んだ。


 五人の部下も「それ」が何なのか判明した途端「うっ」と呻き声を上げる。


 死体だった。


 それも、おそらく自分達の仲間だ。服装が同じだった。だが、顔はわからない。しわくちゃになってしまっていたのだ。そして、胸から下が無惨に刳り貫かれ、内臓があったはずの場所は空になっていた。車両とぶつかった拍子でそうなったのだろうが、左腕はもげて別の場所に転がっている。


 部下達に悟られてはならないと思いながらも、背筋が凍った。


 こんな無惨な死体は初めて見た。呆然と恐怖を感じていたが、それがしだいに怒りへと変わっていく。


 奴らだ――。あの、木戸という男が言っていたのと同様の死体が目の前に転がっている。これは、連中が我々を恐れさせるため、あるいは混乱させるためにやったに違いない。


 多分、襲撃にあい、刑事達と犯罪者達は協力し合うことにしたのだ。


 人をこんなふうに殺害することができる奴など、常人ではない。犯罪者の中に、猟奇的な奴がいたに違いない。


 ふざけやがって――。いいだろう。皆殺しにしてやるまでだ。


 田沼は滾る怒りを隠さず、トランシーバーを取り出すと、黒崎を呼びだした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます