森の中 武装集団
天童分署と道の駅天童の裏を少し下った林の中に、男が3人潜んでいた。天童分署を見上げている。そのうちの1人が、トランシーバーを取り出して交信を始める。
「どうした?」
トランシーバーのむこうから機械的な応答があった。上司であり、この作戦部隊のリーダーだ。
「先ほど分署の中から銃声が聞こえました。おそらく侵入を悟られ、警官達と撃ち合いになったのだと思われます。その後連絡もなく、誰も出て来ません」
本来なら、5人の侵入部隊はすでに仕事を終え、ここに戻ってきているはずの時間だ。
「失敗して捕獲されたというのか?」
「いえ、それは不明ですが、何らかの支障が出ているものと思われます」
分署にいる警官と護送担当の警官達を合わせても、おそらく10人前後だろう。
侵入したのは5人だが、負けるはずはないと思っていた。我々は特別な訓練を受けている。こんな田舎の警官達に後れをとることはあり得ない。
もし我々と対抗し得る戦闘能力を持つ者がいるとすれば、沢崎くらいだろう。
「どうします? 今しばらく待ちますか? それとも我々も侵入しますか?」
勢い込むように言った。正直なところ、侵入する5人の中に入りたかった。待機組に振り分けられた時は少し落胆した。誰しも、訓練して高めた能力を発揮したいと考えるものだろう。
「まず様子を探れ。中がどうなっているのか確認するんだ。憂慮すべき状況だったらすぐに戻れ。対策を練る」
「了解」交信を切る。振り返る。だが、あとの2人はいなかった。急に、鼻孔を刺激する嫌な匂いに気がつく。
「これは?」さっと顔色が変わる。人の排泄物と血の匂いだ。慌てて辺りを探る。
5メートルほど離れたところに、まわりよりひときわ太く高い木があった。そして、2メートルくらい上から伸びる枝の先に、違和感のある物体が突き刺さり、ゆらゆらと揺れていた。
ん? 目をこらしながら近づいて行く。
木の下に立ち見上げたると、雨とは違うねっとりとした液体が降り注いできた。顔に落ちたそれを拭うと、強烈な異臭が感じられた。
「うわっ」思わず声をあげた。血と糞尿が混じっていた。そしてそれらを垂れ流していたのは……。
枝の先に突き刺さっていたのは、ついさっきまで自分の後ろにいた仲間2人だった。
そんな馬鹿な――。
奇妙な感覚だった。あまりにも現実離れした光景を目の当たりにし、キョトンと見とれてしまう。激しい恐怖が襲ってきたのは数秒経ってからだ。
ヒイイィィッ!
叫んだつもりが、萎んでいく風船から漏れる空気のように、息が肺から出ただけだった。
後退り、変わり果てた仲間から目をそらすように振り向く。
ああっ!
3メートルほど先に黒い固まりがあった。異形の物だった。それまでそこに存在していなかった。
いや、この世に存在するはずのない、何か――。
黒い固まりは、ゆっくりと動いた。足がある。そして、身長は2メートルをゆうに超えている。毛むくじゃらだ。奇妙なことに、頭らしいものが見つからない。
「な、何だ、これは?」
やっと出た声は、虚しく林に飲み込まれていく。肩にかけた自動小銃を構えようとした。だが、腕が震えてしまって思うようにいかない。
黒い固まりの上の方に、二つの赤い光がともり、それがだんだん大きくなった。目だ。あんな大きな目、見たことがない。あんな赤い目、見たことがない。こんな生き物、見たことが……。
「やめ……、やめてくれ……」
やっと銃を構えた時、それは激しく動いた。ものすごいスピードで突進してくる。
弾き金を引こうとするコンマ何秒か前に、彼は命を失った。
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