護送車 東谷 木戸 ③
「東谷君」無線機から牧田の声が聞こえてきた。雨が車体を激しく叩く音で、元々小さな牧田の声が更に聞き取りにくくなっていた。「悪い知らせだ。東西両側の橋が上がった」
やっぱりな、と感じた。この雨と風では仕方ない。
「では、分署に護送車を誘導します」
「今、足柄署に確認をする……」
急に、ザァーという音が牧田の声を遮り、それきり無線が通じなくなった。
おかしいな――。無線機をいじり回してみたが駄目だった。雑音は消えず、それが雨音と同化して、車内を不穏な空気に染めていく。分署だけではなく、護送車への通信もできなくなっていた。
とりあえず護送車に事態を伝えなければと考え、アクセルを踏む。追い越し、前に出て停車し、護送車を停めた。
外に出ると、激しい雨が体を打ち付ける。銃弾を浴びているような感覚になってしまい、大きく首を振った。
護送車に走り、助手席側のドアを叩いた。一応身分証を提示する。若い警官がウインドウを下げた。
「どうしました?」
警官は強い雨に顔を顰めながら訊いてくる。
「神奈川県側に通じる橋が上がってしまった。しばらくは進めない。天童分署で待機してもらわなければならない」
「え?」
警官の表情が硬直した。
「責任者の方、ええと、木戸警部は?」
「後ろです。待ってください」
警官が降りてきた。レインコートを着ていない彼は、すぐにずぶ濡れになった。後部のドアが開くと、急いで駆け寄り、東谷を招く。
乗り込んだ東谷が最初に目にしたのは、沢崎の顔だった。目が合うと、微かに笑いかけてきた。不敵な男だ。
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