神奈川県警足柄警察署天童分署 警察官達

 嫌な予感というのはたいてい徐々に膨らんできて、そして当たる。今、東谷勝昭の胸の予感は膨らみを増し、後は当たることを待つばかりという感じになった。


 神奈川県警足柄警察署天童分署の署員部屋には、今、東谷警部補を含み四人しかいない。


 何か事件のために出払っているのではない。元々ここには八人しかおらず、そのうち二人は当直あけで昼間からいなかった。あと二人は、勤務時間が終了したので帰宅した。


 正式な勤務時間下で残っているのは、当直の東谷と藤間達夫巡査だけだった。分署長の牧田真一郎警部は、まだこの天童地区を曰く付きの護送車が通り過ぎていないので気になり、雑務をこなしながら残っていた。


 加藤忠正巡査部長は昇進試験の勉強をしている。彼は、この分署の中では珍しく上昇志向が強く、いずれ足柄警察署の刑事課に戻り、更に県警に進むことを望んでいた。それもあってか、元神奈川県警のSAT――特殊急襲隊――だった東谷に対してある意味尊敬の眼差しを向けてくることがある。それがこそばゆかった。


 「そろそろ例の護送車が通る頃です。導西橋方面を見回ってきます」


 東谷がそう言うと、他の三人が顔をあげた。


 「そうしてくれるか」


 牧田がホッとしたような表情になって言った。


 「俺も行きましょうか?」


 藤間が立ち上がろうとするが、東谷は制した。


 「当直が二人とも見回りのためにいなくなるわけにはいかないだろう」


 「じゃあ、俺が」と加藤がこちらを見るが、それも制した。


 「君は勤務時間を過ぎている。なに、護送車が通り過ぎるのを見守るだけだ。一人で充分さ」


 言いながら、身支度を整える東谷。雨も風も強そうなので、レインコートを羽織ることにした。


 「橋があがっちまわなきゃいいんですけどね」


 藤間が力のない声で言った。


 天童地区は、静岡方面と神奈川方面を結ぶバイパスの中間地点にある、深い森が茂る谷間に隆起している小島のような場所だ。その東西両側は深い谷間のため橋が架かっている。


 この橋が、一定の風雨量に達すると上がってしまい、この地区からしばらく出られなくなる。


 もしそうなると、凶悪な犯罪者を六人も乗せた護送車はこの天童分署でしばらく待機することになるだろう。牧田や藤間は、それを心配していた。


 当然東谷も滞りなく護送が進んでいくことを望んでいたが、さっきから膨らむばかりの嫌な予感の方が勝り始めた。


 この護送は、本来極秘に行われているという。だが、天童地区は直接護送車が通過する地点でもあり、また、県境に位置することから、正確な情報が伝わってきていた。護送されるうちの最重要人物、沢崎隆一を直接逮捕した東谷が所属しているのもその理由の一つだろう。


 東谷は、三日前、あの沢崎を逮捕した時のことを思い出した。

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