護送車 運転席 警官達

 「降ってきちまったな」


 飛田和夫はハンドルを操りながら舌打ちした。


 「風も強くなってきましたね。やばいすよ。天童にしばらく閉じこめられるかも知れない。まいったなあ、こんな仕事、早く終わらせたいのに」


 助手席の中里明がシートに身を預けながら言う。同じ静岡県警御殿場警察署に勤務する巡査同士だ。


 「不自然な護送だな」


 後ろを見ながら言う。さっきも同じ話はした。共通の話題にできるのはそのくらいだし、お互いに気になっていることでもあるので、どうしても繰り返してしまう。


 御殿場署から神奈川県警察本部まで、六人もの犯罪者を護送している。皆凶悪犯だ。


 「突然ですもんね。まあ、いつまでもうちの署にあんな連中をおいておくのも嫌ですけどね。よりによって、俺達が運転を任されるとはなあ」


 フーと息を吐きながら、頭を掻く中里。


 「まったくだ。お互い、貧乏くじをひいたな」


 前を見ながら言う。急激に、かなり雨足が強くなってきた。フロントガラスに叩きつけられる雨粒は、まるで銃弾のように激しい音を伴っている。ワイパーの動きを最大にした。


 「こんなことを言うのもなんですけど、連中が暴れ出したら、抑えることできるんですかね、この体勢で」


 「手錠も腰縄もつけられて身動きはできない。暴れ出すなんてことはないだろう」


 飛田が言う。だが、言った彼自身も中里の不安と同じものを感じないではなかった。


 神奈川県警から二人の刑事が派遣された。そして、御殿場警察署からも二人の刑事がついた。その四人が今、犯罪者達と一緒に後ろにいる。


 マイクロバスであり、後ろの席と運転席とは壁で区切られている。後ろの様子がどうなっているのか、飛田達には見えない。だが、明らかに手薄なのはわかった。秘密裏に移動させることと、それ故に緊急を要することが優先されたから、というのが上司の説明だった。


 「何でこんな変な護送の仕方になったんすかね」


 「おそらく、沢崎がいるからだろう」


 飛田もチラリと後ろを見た。六人の犯罪者の中で飛び抜けて恐ろしいのが沢崎という男だった。正直なところ、沢崎が自由になったら、六人の刑事、警官がいても太刀打ちできないだろう。だから、不安感を拭い去ることができない。


 「沢崎か……。何でそんな凄腕の殺し屋が、御殿場署にきちまったかなあ」


 口調は気軽なふうだが、中里も間違いなく不安を感じている。その証拠に、後ろを見る目が微かに泳いでいた。

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