第2車 ゆっくりと発進していく

まさか、こんなにも早く出くわすなんて思ってなかった。

定時上がりの時間が彼もちょうどいい時間なんだろうな、とぼんやりと考える。


「あ・・・昨日の。」


ぼんやりしていたせいで反応までぼやけてしまう。


「おう。また会えたな。」


「そうね、まさかこんなに早いとは思ってなかったけど。」


そりゃそうだろ。あんなにカッコつけて電車を降りておいて

会うのが次の日なんだから。定時上がりを今日ばかりは恨むしかなさそうだ。


「それで?お礼とやらを頂こうか。」


「はぁ・・・。そうね、二つ先の駅の赤羽で降りましょうか。

 行きつけの居酒屋があるから。」


「分かった。」


そうして私たちは二つ先の赤羽で降りることになった。

場所はなんてことはない、少し路地を入った先にある大衆居酒屋だ。

いつも仕事終わり一人で呑むならここと決めているのだ。

人ときたのは初めてかも知れない。


「ここよ。」


「いいチョイスじゃないか?」


なんか上からでムカつく。

そんなことを思いながらいつも注文するものを頼んでいく。


「えーっと、生二つでいいよね?」


「もちろん。それから枝豆ひとつ。」


「あとはからあげ一つと焼き鳥の盛り合わせ二つで。」


「かしこまりましたー。」


注文してしばらく経つとビールと枝豆が先に運ばれてきたので乾杯をする。


「カンパーイ!」


「カンパイ。」


「先日はどうもありがとうございました。」


「どうも。というか棒読みすぎないか?」


「べっつにー?さ、呑も呑も。」


「お、おう・・・。」


一口目のビールを煽っておじさんみたいな声が出る。


「ぁあーっ至福のひとときね。」


「仕事終わりはこれに限る、か?」


「良く分かってるじゃない。」


「まあな。」


「というか私たち、自己紹介まだだったよね。」


ふと気づいたことを口に出して可笑しくてまた笑ってしまった。

まさかこの私が相手の素性も確かめずに居酒屋に誘うとは。

余りにも面白かったもんだからつい、次会う日がなんて口にしちゃったけど

次があるなんて多分誰も思ってなかったと思う。

それゆえなのかあまりに早い再会に舞い上がってしまったのだろうか。

珍しいこともあるもんだな。

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