第2話 こんにちは閻魔様

 「早く体にもどってよ!」


 「それは無理。体が無理をすると、今度こそ本気で死ぬから。」


 待って、ママ達には見えるの?


 「ねえ、ママ達に会いに行かないの?」


 「行っても見えないって閻魔に言われた。」


 「じゃあ、何であたしに見えるのさ。」


 「・・・・・し、知らねぇ。それより、見せたいものがいるから、外に出て。」


 「いいけど・・・何なん。」


 外の空気はまるで、肌を切り裂くよう。

 でも、冷たさに希望が見える気がする。


 「手。」


 「は?」

 「いや、だから手出してって。」


 あたしはリクの言う通りに手を出した。

 急に体が軽くなる!

 気づいたときにはまるで広角カメラで見ているような光景が、目下に広がって・・・・・。

 あ。


 「た、高い所・・・・・。」


 「気にするなって。」


 ピーター・パンのワンシーンのように、あたしは飛んでいた。

 しばらくすると、リクはポケットからお札のようなものを取り出した。


 「閻魔のとこに連れてけ。」


 すると、空にぽっと扉が!


 「これ、通るの?」


 「決まってんじゃん。」


 扉はゴゴゴと音を立てて開いた。


 「貴様!何者だ!」


 開いた瞬間、槍を持った兵士が刃を突きつけてきた。

 は?そいつは牛の頭をしていた。


 「閻魔様!お逃げください!」


 馬の頭をした兵士が叫ぶ。


 「牛頭ごず馬頭めず!下がれ!」


 この声が閻魔様?随分お若いってゆーか、あたしと同じくらいっていうか・・・・・。


 「しかし、こいつらは生者ですぞ!地獄の規則を忘れましたか!」


 「だから言ってんだろ?オレの客なの。さっさと通せ!」


 牛頭と馬頭がしずしずと下がった。  

 うわぁ。ここが閻魔の宮殿か・・・・・。


 「お、リク!連れてきた?」


 え、親しすぎない?


 「うん。」


 「そこの女子!」 


 「はい!」

 

 あたしは体を震わせて答えた。


 「お前がリクの姉貴の狐ヶ浦きつねがうら紅華べにかだな!」


 「はい!」


 「お前を目覚めさせてやるから、オレの下で仕事しろ!」


 「は?!」


 あたしは閻魔様の顔(の辺り)をじっと見た。

 こいつの上から目線うざい・・・・・。地獄の大王だからなぁ。


 「あの・・・・・閻魔様。人にものを頼むときの頼み方ってものがあると思うんですけど。」


 「は?」


 「そんな言い方されても、頼まれたいなんて思いませんよ。」


 「お前!このお方に何という口の聞き方を!」


 牛頭が吠えた。さすが閻魔様の家来、こっわ。


 「ふふ・・・・・」


 何でこの閻魔様笑ってんの? 


 「ハハハハ!」


 大丈夫?頭逝っちゃった?


 「ここ200年でこんな口の効き方したやつ親父と母ちゃん除いてお前だけだ!気に入った!」


 「そうですか。」


 「塩対応すんなって!」


 「初対面なんだから塩対応にもなりますよ。」


 っていうか、あたしが人と話すの苦手なだけなんだけど。


 「あたしの何を目覚めさせるつもりですか?」


 「あやかしだよ。」


 妖の力?何言ってんのこいつ。


 「日本三大妖怪の妖狐だ。」


 あの、九尾狐とか玉藻前とか葛の葉とかの?


 「狐ヶ浦一族の血に流れる妖狐の血を目覚めさせるんだよ。」


 は?


 「目覚めさせてどうするんですか。」


 「仕事を頼む!」


 何故そうなる!  


 「あたしにそんな血が流れてるんですか?そもそもあたしに頼む意味は?」


 「弟さ。」


 ?


 「お前の弟は、今は魂だけの状態だ。魂だけの人間には、それぞれ能力が付いている。リクの場合は、『視覚を操る』能力な訳。で、その能力と妖の力を使って、死神が回収し忘れた魂やそっちの世界に戻ってきた魂、あと悪事を働く妖怪なんかを、地獄に戻しに来てほしいとか、色々よ。オケ?」


 「そんなこと出来るんですか?」


 「ああ。お前が妖怪だからな。っていうことで、頼む!リクの体が回復するまでの間だ!」


 ・・・・・。あたしだけが妖怪の――九尾の力を持っていて、あたしは必要とされている。


 「あたしが必要ですか?」


 「ああそうだよ!」


 「分かりました。まだ状況が飲み込めないのが現実ですが・・・・・」


 分かっている。これは夢。起きたら何もない。ならば・・・・・


 「おっし!田中、契約書!」


 田中?


 「あいつ、生きてるときは役所で働いてたんだよ。だけど、文句を言いに来た老人に杖で頭を一発。それで死んじまった。ったく、あのジジイもあと4日で死ぬ予定だったのに。現世での裁判があるからって先延ばしになったんだ。死神には連絡つけなきゃだし、閻魔帳も書き換えて、大変だったんだぜ。」


 田中さんは紙と筆を持ってきて、閻魔様に渡した。


 「これが契約書。名前書いて。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 私、_____は、閻魔大王の下で働きます。

 雇主 閻魔大王

 契約者_____

 職務内容

 壱、死神が回収し忘れた魂の回収。

 貳、悪事を働く幽霊の確保。

 参、悪事を働く妖怪の退治。

 死、幽体離脱をしてしまった者を下の体に戻す。

 伍、妖怪の血を引き、力を持つ者を閻魔大王に謁見させる。(自分の関係する者出ある場合は、それらを守護する)

 禄、閻魔大王の手伝い。

 それに対する報酬

 壱、閻魔大王の庇護。

 貳、妖の力を目覚めさせる事。

 参、弟君の身の安全の保証。

 私、____はこの契約内容に同意します。 

 ___年_月_日   


 閻魔大王           印

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 手伝いって便利な言葉だなぁ。

 あたしは空欄に名前を書いた。

 名前を書き終わると、契約書はベールの奥にすっと消えた。


 「契約完了!」


 「あの、顔見せてくれませんか?」


 「分かった。もう契約したもんな。」 


 ベールの奥の影がぬっと動いた。

 鬼火に照らされたのは、ニッと笑った少年の顔。あたしと同じくらいの歳のような見た目をしている。閻魔の服を着ていなければ、きっと普通の男子に見えるだろう。顔は・・・・・いわゆるイケメンだ。スポーツやってそうな感じ。


 「よろしくな、紅華!」  


 閻魔はニカッと笑った。


 「じゃあ、おやすみ。」


 閻魔がそういうと、あたしは睡眠欲に敗北してしまった。

 

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