類に呼ばれる

水瀬 由良

類に呼ばれる

 『家賃2万円、保証金・敷金なし……』


 物件の基本情報を入力する。とりあえず、これで賃貸に出せるようにはなった。

 ……悪い部屋じゃなかったんだがなぁ。こんな物件ばかりじゃ仕事にならない。不動産賃貸の仲介手数料は上限は家賃1ヶ月までだからだ。


 そして、最後に加える。


 『※ 告示事項有』


 悪い部屋じゃないのに、相場の半分以下の家賃。告示事項とは心理的瑕疵かし、部屋の中で殺人や自殺が起きてしまった、いわゆる事故物件のことだ。


 ふーっ、とため息をつく。


「どうしたんすか?」


 最近入って来たばかりの加藤が画面をのぞき込む。


「あ~、めっちゃ安い物件とか、入力するだけ疲れますもんね~、って、間違いじゃないんすか? ここならこれの倍は取れるでしょ?」


「バカ。よく見ろ」


「……告示事項有ですか。なら、仕方ないっすね。でも、実際、霊とかいるんですかね」


「曲がりなりにも不動産扱うなら、バカな質問するな」


「いるわけないっすからね」

 ケタケタと加藤が笑う。


「でも、これ、この値段なら俺、借りてもいいかも」

「そうするか?」

「えっ? いいんすか? 俺、社員なんすけど」

「別に構わない。むしろ、一回住んでもらえば、次の募集からは告示しなくてもいいし、オーナー的にも会社的にもありがたい。しかも、住宅手当は今まで同じ額出るから、お前さえよければ」

 ロンダリングってやつだ。


「それなら、俺、ここに住むっすよ。こういうの全く気にしない方なんで」





 ……3ヶ月後


 『家賃2万円、保証金・敷金なし……』


 物件の基本情報をまた入力する。

 前と同じく、追加する。


 『※ 告示事項有』


 ……ダメだったか……

 

『でも、実際、霊とかいるんですかね』





(……いるに決まってんだろ。当たり前のこと聞くな)


 不動産を扱っていれば、絶対に事故は起こる。理由はいろいろだが、起こるもんだ。

 写真を撮りに行くと、デジカメの電源が入らない。

 スマホで電話すると、ノイズが入る。

 なんてザラだ。


 事故物件に住んで、死ぬこともある。


 この事故物件どうするかな~。また、俺が住むのかな? 俺は事故物件に入居しても、問題ない。事故物件には大概の場合、『いる』のだが。


(また、友達、入れてくれるの?)

(この子は友達を増やしてくれる)


 俺は今まで多くの事故物件に住んできた。

 どうも、逆に友達なんて思われてるようで。

 そういや、俺の周りによってきたやつってなぜか事故物件に入りたがるんだよな。


 なんでだろうな?

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