epilogue


 ペロンヌの城塞が、二体の知性体に率いられた竜の大群もろともゲール軍の砲爆撃に曝されていたとき、わたしたちは〝海峡の海〟を渡っていた。


 ベルニは、左脚を失ったものの、わたしのもとに還ってきた。

 わたしはそれで〝力の泉〟の大半を失ったけれど、べつに構いはしない。

 ロイとデイジーも、かなりの力を失ってしまった。そのことには、感謝しかない。

 同じことをもう一度やれと言われても、もうできないだろう。


 ともかく、わたしたちは一命を取り留めたベルニと共に、イングレスへと渡った。


 H計画は正式に破棄が決定され、〝第3《実験》コマンド〟は解隊された。

 博士の館のわたしたちの〝仲間〟が、その後、どうなったかは知れない……。



  *


 ……3年後──


 いまわたしは、彼と共に海峡を望む海辺の小さな町に暮らしている。

 片脚を失っても、ベルニは腕のよい漁師で働き者だ。

 最近では料理を覚え始めている。近い将来にお店をはじめたいと思っているようだ。

 わたしも料理を覚えた方がいいかしら、などと思っている自分は、やはりとても幸せなのだ。


 ロイは近くの山に暮らしており、時々、狩りの獲物を持って訪ねてきてくれる。


 ほかの〝子供たちハーフリング〟は、結局、王国軍に戻った。

 戦場でしか生きられないと言ったティムの言葉は、やはり哀しい……。

 それでも皆、原隊が本国に在れば、休暇のたびに訪ねてきてくれる。



 アイナリンドとは、あの後は会っていない。

 ただ彼女アイナリンドは、イングレス軍の法務部の追及を受ける身であったデイジーとポネットについて、いろいろと手を回してくれた。

 ──彼女によれば、〝ルィンヘン〟の名エルフの名を持つ者を、本島エルフは捨て置きはしない、とのことだ。



 大陸では、いまも竜との戦いが続いている。

 ガリアはゲールの支援を受け、市民の大半が国外に逃れた後も、何とかノルマンディーに踏み止まり戦っている。ラヂオの放送が伝えてくる戦況は、一進一退だ。


 そうだ──ゲールといえばナターリエ・ヘルナーが政界へと転じたらしい。

 あの〝第一次ペロンヌ対竜戦〟で有名になった彼女は、亜人種を含めた欧州共栄圏の確立という将来像ビジョンを示して現役/退役の若手士官の支持を集めているという。

 ゲール主導による欧州の統制という硬直した党指導部に異を唱え、新風を巻き起こす存在となっているそうだ。



 それからデイジー…──。

 彼女はイングレス政府の監視下にありながら、いまもアシュトン博士を追っている。

 ポネットおじ様をパートナーに、一年の大半は大陸だ。

 たまに、ふらりと帰ってくる。


 この前訪ねてきてくれたときには、嗤いながら、こんなことを言っていた──。

〝──このままじゃわたし、根無し草ね……。風に吹かれるまま……〟


 博士を見つけたときには……そのときには、いったい、デイジーはどうしたいのだろうか……。


 いまのところ、ゲールに〝不死の子供たちハーフリング〟の噂はないようだ。




 今日もわたしは、海峡の海に向かって歌っている。

 穏やかな表情でわたしを向いたベルニの目の中で、今日という日を迎えられなかった子供たちのために……。


 風が吹いて、白い花が揺れている。

 ああ、これは、デイジーの見てる風景だと気付く…──。


 振り見遣れば、視線の先に、デイジーが居た。






                               ── The end.

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A blue-eyed daisy swaying in the wind もってぃ @motty08

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