第62話 隣の部屋が騒がしい
リリアとどう付き合っていくかは、もう少しあとで考えよう。
ひとまず、自分の身体の調子を確認することにした。
インフルエンザにかかったように痛む腕を動かし、掌を自分の胸に当ててみると、現時点のステータスが脳内に展開された。
——おや、これは?
表示されたステータスは、複数の意味で俺を驚かせた。
**************************
対象=張本エイジ
▽基礎能力値
器用度=6(12) 敏捷度=7(14)
知力=20 筋力=7(13)
HP=9/9(18) MP=22/22
▽基本スキル
日本語=7 英語=3 中国語=3
パルネリア共通語=2 パルネリア古代語=2
言語学知識=2 ハリア王国式剣術=1(2)
▽特殊スキル
コピー&ペースト=4 女神の加護(アルザード)=10
▽ペースト用スロット(総スロット数=4 空きスロット=1)
ハリア王国式剣術=4(7) パルネリア共通語=5
パルネリア古代語=8 [※スロットは空白です]
※スキル【コピー&ペースト】のレベルが足りないため、補正能力値、限界能力値、中級スキル、上級スキルの表示、およびコピーはできません。
※〈コピー&ペースト〉の累積経験値は4957です。次のレベルに達するまでの経験値は5000です。
**************************
まず驚いたのが、各能力値の低下だ。
知力を除くすべての能力値が半分になっている。身体能力はバーバラさんと同程度か、もしくはそれ以下だった。つまり、いまの俺の肉体はお年寄り並ってことか。
『あなたの肉体は極度の過労状態にあります。一定期間の十分な休息を取るまで、一部を除く全ステータスが低下します』
別に質問をしようと思ったわけじゃないが、頭の中で謎の声が教えてくれた。ときどき妙に親切だよな、こいつ。
とりあえず、ステータスの低下が一時的な問題でよかった。どのくらい休まないといけないかは分からないが、過労が原因ってことなら一週間くらいゆっくり寝ていれば治るんじゃなかろうか。
もうひとつ驚いたのが、俺のスキル欄に〈ハリア王国式剣術=1(2)〉と〈パルネリア共通語=2〉、〈パルネリア古代語=2〉が出現したことだ。
これは〈コピー&ペースト用〉のスロットにあるスキルとは別物で、俺自身のスキルということらしい。他人のスキルを使っていくうちに、俺の身体が勝手に覚えたってことだろうか。
習得方法には問題があるかもしれないが、これまでの経験が自分の血肉になっているのは少しうれしかった。
イリーナからコピペした〈白魔法(マルセリス)〉はきれいさっぱり消失していた。
そういえばマルセリスが去り際に「二度とこういうことをしないように」みたいなことを言っていたので、神の力で吹き飛ばしたのかもしれない。
マルセリスからすれば俺なんざ、ツギハギコピペのレポートを片手に「この単位がないと留年なんです!」と泣きついてきた学生みたいなもんだろう。「涙ぐましい努力の形跡があるので、今回だけは見逃してやろう。だがこんな手が次も使えると思うなよ?」くらいの対応をしてきたって感じだろうか。
「さて、と」
ステータスの確認が済んだところで、俺はこっそりベッドから抜け出すことにした。
隣の部屋で休んでいるというザックとイリーナの顔を見ておきたかったのだ。
リリアの口ぶりからすると、すっかり元気になっているようだが、やはり直接顔を見て安心したい。
俺はリリアを起こさないように、そっと体を引いた。
幸いリリアは疲れ果てて熟睡しているようだった。長い
可愛らしい寝顔だ。
いつまでも見ていた気分になったが、まずはザックたちの様子を見てこないとな。
ヨタつく足を引きずりながら部屋から出ると、外には長い廊下が伸びていた。
すぐ側にある扉から、何か物音が聞こえる。ザックとイリーナはこの部屋にいるのだろう。
扉に近付くと、中から人の声がした。イリーナの声のようだ。
「……あああ……ああっ……!」
なにやら切羽詰まった声色だった。まるで泣いているような声だ……。
俺は胸の奥がざわつくのを感じ、扉に近寄った。
「あああっ、ザック! そんなこと……したら、死んでしまう……!」
——死、だって?
中から響く声を聞いたとき、心臓がどくんと跳ね上がった。
「ザック! 大丈夫か!」
俺は反射的にノブに手をかけ、扉を押し開けた。
バァン!と大きな音を立てて扉が開く!
しかし……。
「あ」
「ん?」
「あら……」
そこには俺が予想だにしていなかった光景が広がっていた。
声の主であるイリーナは、ベッドの上でうつ伏せになっていた。顔と両手はべったりベッドにつけているが、膝を立てて腰を高く掲げていた。
ザックのほうはといえば、そんな姿勢のイリーナの上にのしかかる格好だ。
ちなみに、二人とも丸裸だった。
えーっと。
状況から察するに、これはアレだな。
うん。はい。分かった。全部理解した。死んじゃうってのはつまり、そういう意味ね。
心配して損したわ! てか、お前らここ神殿だぞ、いいのか!?
「おいイリーナ! お前の声がデカすぎてセンセが起きちまっただろ! 悪ぃな、センセ。ゆっくり休んでもらわなきゃいけねえのに」
「なに言ってんだい! 誰がこんな声出させたんだよ! ……やあ、先生。おはよう。まだ顔色が悪いね」
愛の営みを中断したザックとイリーナは、隠すべきものも隠さずに俺に話しかけてきた。お前ら、ちょっとオープンすぎるだろ……。
「あ、いや……俺はもう大丈夫だからさ。二人は、その、続けてくれ。あとで一息ついたらゆっくり話しようぜ」
「おう。まあオレはいまからでも構わねえけど」
「バカ! 先生はこれから姫さんと……!」
「おお、そういうことか! すまねえ、オレとしたことが気が利かなかった!」
なにが「そういうこと」だよと思わずにいられなかったが、これ以上この場に留まるのは得策でない気がした。
俺は「そんじゃ、またあとで」とだけ言い残して扉を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます