第51話 闇を喰う異形の司祭
「来い、闇の獣よ!」
ローブを脱ぎ捨てた男が叫ぶ。
「グオオオオオオオオオ!」
俺の背後からキメラの咆哮が聞こえた。
振り返るとリリアと戦っていたキメラが踵を返すところだった。
キメラの全身にはリリアに付けられた切り傷が無数にあり、そこから重油のようなどろりとした液体が漏れていた。その液体は地に落ちると、靄となって消えていく。あの液体はたぶん、黒い霧が高濃度で固まったものなのだろう。
「どこを見ているの!!」
リリアが剣を振るってキメラの右後ろ足を切断した。
しかし怪物は意にも介さぬ様子で、黒い液体をまき散らしながら男に向かって疾駆する!
「エイジさん、危ない!」
リリアに言われる前に、俺は横に大きくステップ。さっきまで俺がいた場所を、キメラが駆け抜けていった。
キメラは男の足下まで近寄ると、ぺたりと座り込んだ。
男はキメラの持つ鷲の頭を手でひと撫でし、にやりと笑う。
「これより、愚か者どもに神の裁きを下す。
男の口から、禍々しさを感じさせる呪文が漏れた。この世界の標準語ではなく、古代語でもない言葉だった。
「ぐぬっ!」
その瞬間、男の前身に貼り付いた黒影から、幾多の生き物の頭が飛び出した。
虫、動物、鳥などの頭が一斉に顎門を広げ、男の足下に座ったキメラに食らいつく!
「なんだ、あれは……!」
おぞましい光景だった。
影から伸びた首たちは、キメラの身体を食いちぎり、飲み込む。
キメラの肉片が取り込まれるたびに、宿主である男の顔は黒く変色し、その身体は不気味に膨張していった。
俺たちはその凄惨な光景のすさまじさに目を奪われてしまった。
「このバケモンが!」
俺たちの中で、いち早く正気に戻ったのはイリーナだった。
イリーナは床に落ちていた兵士の槍を拾うと、怪物に投げつけた。
槍はまっすぐに飛び、男の胸に突き刺さった。
だが、男は顔色一つ変えない。
「愚かな!」
男が哄笑した。
すると、槍の柄は瞬時にボロボロに腐食していく。
その間も男の身体はどんどん膨れあがり、形を変えていった。
骨が砕け、肉が裂ける不気味な音がフロアに響き渡る。男の姿勢が前屈みになり、太くなった指の先からは鋭利な爪が生えてきた。
背中からはコウモリの羽、そして大型類人猿のような腕が生えてくる。腰からはサソリのような尻尾が生えてきた。
さらに鎖骨のあたりの肉がボコボコと沸き立ち、猿の顔が浮き出てくる。
「恐怖せよ、異教徒ども」
異形へと姿を変えた男が笑う。
「我が神の奇跡と、古代の魔獣の力をもって、これより汝らを蹂躙する」
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