第38話 首領を追って遺跡へ
「村人たちの近づけさせるな!」
幸い、影法師の動きは早くない。
俺はやつらを挑発するように動き回り、繰り出される攻撃を避けながら、ひたすら炎の剣を振り回す。
切り飛ばされた影法師の腕が、足が、頭が、胴が、獣や虫や鳥の姿に変わってのたうち回り、霧に戻って消えていく。獣に化けたものは、消える前に不快な鳴き声を上げることもあった。奇っ怪で醜悪な光景だ。立っているだけで頭がおかしくなりそうだ。
一刻も早くこの異常な状態から解放されたい——俺は無我夢中で斬りまくった。
身体が重い。炎の魔剣の力を発動したときにも感じたのだが、この剣は力を行使するために、俺の体力と精神が削るらしい。頭の奥がぼんやりし、視界がかすむ。
「これで……終わりだ!」
「おおおおおおおおおおお!」
力を振り絞って、目の前にいる最後の一体を細切れに切り刻んだ。
その瞬間、捕らわれていた村人たちや、ジールが歓声をあげた。振り返ると、リリアも最後の一体を仕留めたようだった。気遣わしげな視線でこちらを見ている。
「よ、よし……」
緊張の糸が切れた俺は地面に膝をついた。目眩で上下感覚がおかしくなる。
自分の胸に手を当ててステータスを確認する。
HPは全然減っていないのだが、MPの値は——ゼロ。
あっと思った瞬間、壁が目の前に迫っていた。
その壁の正体が地面であることに気付いくと同時に、俺の意識はブラックアウトした。
☆ ☆ ☆
目を覚ますと、夜空を背景に、人間の顔のようなものが浮いていた。
「俺は……いったい……」
目をしばたたかせると、眼前にあるのがリリアの顔だと分かった。不安そうに顔を歪め、目には涙が溜まっていた。
おい、どうしてそんな顔をしているんだ……?
後頭部には、何か柔らかな感触がある。気持ちいい。なんだろう。枕ではないし、布団でもないし、強いていうなれば——
「うわぁ!」
どうやらリリアに膝枕されているらしい、ということに気がつくのに、そう時間はかからなかった。
「きゃっ!」
俺が焦って飛び起きると、リリアが小さな悲鳴をあげた。
「あ、すまない……」
謝りながら周囲を見回すと、ジールやスレン、捕らわれていた村人たちが俺を囲んでいた。
場所はどこだろう……。屋外のようだが、さきほどの村とは別の場所だった。
「やっと起きたのかよ、バカエイジ! 心配させやがって!」
「うるせえ、ジール。キンキンわめくな。頭に響く。それより、ここはどこだ?」
戸惑う俺を見て、スレンが口を開く。
「馬車を停めていた場所です。村は火が回っているので、ここまで退避して、エイジさんに薬を飲ませていたんです」
「薬……?」
「魔法を使いすぎた人が、たまにああいう倒れ方をするんです」
いぶかしむ俺に、リリアが説明してくれた。この世界の魔法は使うたびに精神を疲労させ、使いすぎると気絶することがあるらしい。
俺の使っていた魔剣を見たリリアは、同じ症状が出たのではないかと思い、馬車に戻って精神回復の薬を飲ませてくれたのだそうだ。
やれやれ。やはり身の丈に合わない力を使うと、自分の身を滅ぼすな——そう重いながら、自分の胸に手を当てステータスを確認すると、MPの値が最大値まで回復していた。
「助かったよ。ありがとう」
令を言うと、リリアは頬を赤らめながら「無理をしないでください」と言って、上目遣いに睨んできた。胸の奥がチクリと痛む。やめろ、その術は俺に効く。
「おい、これからどうするよ」
俺とリリアが微妙な雰囲気になりそうなところに、ジールが割って入ってきた。
「……俺はどのくらい寝てた? あれから時間は?」
「たいして寝てねえよ」
空を見上げると、月はほとんど動いていない。せいぜい数十分ってところだろう。
だとしたら——
「……急いで遺跡に行こう」
俺の発言を聞いて、ジールが「正気かよ!」と言った。
「さっきの禿頭の男は、焦っているようだった。何か重要な、生け贄を使った儀式をやらなければいけないようなことを言っていた」
俺は立ち上がって、服についた泥を払った。
「奴は、『遺跡に入り込んだネズミ』を生け贄に使うと言った。それはたぶんザックたちのことだ」
リリアがハッと息を呑んだ。倒れた俺のことが心配で、そこまで頭が回っていなかったのだろう。
「ザックたちがどんな状態なのかは分からない。しかし、あの男は生け贄が必要だと言った。なら、少なくとも生きてはいるってことだ。急ごう。手遅れになる前に」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます