第34話 村人たちを救出せよ
剣を取り落としたやつに変わって、別のルアーユ教徒二人がリリアに斬りかかる。
リリアは一方の斬撃を身を捻ってかわし、もう一方を剣で受け止める。金属同士がぶつかり合い、甲高い衝撃音と火花が生じる。
「リリア!」
「わたしは大丈夫です! それよりも村の人を!」
リリアは受け止めた刃をいなし、バランスを崩した相手の脇腹を、剣の束で殴りつける。殴られた男は悶絶して膝を折った。
さらにリリアは身を翻して白刃一閃。初撃を空振りしたルアーユ教徒が体勢を立て直す前に、右肘のあたりを切り裂いた。
黒ローブの集団に、動揺と混乱の波が広がった。
俺はその隙に駆け寄り、木刀を振るって残りの三人を牽制する。
そして遅れて飛び出してきたスレンと連携して挟み込み、リリアや村人たちに近寄らせないように圧をかけた。
「ジール、いまのうちに村人たちの縄を切れ!」
「わ、分かってらい!」
ジールは弾かれたように村人たちに駆け寄ると、彼らを縛っていた縄に短剣をかけた。
背後からはリリアとルアーユ教徒たちが争う音が聞こえてくる。
刃が空を裂き音。金属同士がぶつかる音。男のくぐもったうめき。
それらの音を聞いているだけで、リリアが敵を圧倒しているのが分かった。
念のため振り向いて状況を確認したいところだが、引きつけている三人に隙を見せるわけにはいかない。俺は木刀を正眼に構え、敵を睨み付ける。
緊張で心臓が早鐘を打ったようになり、木刀を握る手に汗が滲むのを感じた。
目の前の敵が持っているのは、本物の剣だ。斬られれば死ぬ。正確に状況を見据え、迅速に判断しなければならない。
「……ッ!」
目の前の黒フードたちが動いた。
一人が俺、もう二人がスレンのほうへと動き出す。一人が俺を押さえている間に、一番与しやすそうなスレンを二人がかりで排除するつもりか!
「チッ!」
俺は舌打ちとともに地面を蹴った。こっちに向かってきていた敵が、俺を牽制するように剣を前に突き出した。
悪いが、お前に付き合っている暇はない! 俺は素早く踏み込み、相手の出した剣のひらを木刀で殴りつける。手に強い衝撃が走ったが、相手に隙が出来た。
「どけッ!」
すかさず、敵の腹のあたりを横薙ぎに殴りつける。敵の身体がくの字に折れた。
相手を蹴りつけ転がし、剣を握った手に木刀を振り下ろす。「ぐあっ!」と苦しげな悲鳴が耳を打ち、骨が折れる嫌な感触が手に伝わってきた。
自分の骨が砕けたわけもでないのに、背筋にぞわっとした悪寒が走った。
敵が持っていた剣を遠くに蹴り飛ばし、スレンのほうに目をやる。
スレンは顔を青ざめさせ、後ずさりながら、無我夢中で支え棒を振り回していた。
俺はわき起こる悪寒を振り払いながら、スレンを襲う黒ローブの背中を追う。
敵の一人が俺の接近に気がついて振り返ったが、もう遅い!
袈裟懸けに振り下ろした木刀が、敵の鎖骨を砕く。返す刀で、敵の膝を下から打ち抜く、そして、よろめいた腹に強烈な突きを叩き込んだ。
突きを食らった相手は、吐瀉物をまき散らしながら地面に倒れ込んだ。
汗が額を伝う。だが、ここで休むわけにはいかない。
残った黒ローブが、俺に向かって剣を振り下ろそうとしている。
「やらせるか!」
俺が放った下からの一撃が、相手の手首を砕いた。
「うおおおおおお!」
その隙に、スレンが雄叫びをあげて飛びかかる。支え棒で背中を強打された敵が、前のめりに崩れ落ちた。
「これでこっちは全員……! スレン!」
「な、なんでしょう!」
「紐か何か持っていたら、倒れているやつらを縛り上げてくれ。細くて丈夫な紐なら、親指同士を縛るだけで戦えなくなる」
「わ、わかりました!」
吐く息が熱い。服が汗を吸って重くなっていた。木刀を握る手が痛む。
だが、戦いはまだ終わっていない!
「リリア……っ!」
俺はきしむ身体を叱咤し、背後を振り返った。
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