第13話 ねぐらはまさかの?
太陽が遠くの山並みに姿を隠そうとする時分に、俺たちはバロワの街に到着した。
人口は千人に満たない規模だというが、高い壁に覆われた街の姿は立派に見える。
門を抜けて街に入ると、大通りに沿って
あちこちから夕飯の匂いが漂ってきた。野菜が煮える甘い香りや、香辛料の刺激が鼻を突く。
この世界の文明レベルは中世レベルかと思っていたけれど、もしかしたら俺の予想以上に豊かなのかもしれない。
「もうすぐ夜か。まずは宿屋を探したいところだが」
俺がそう言うと、リリアは「え?」と呟いて、目を丸くした。
「私の家には泊まらないのですか?」
今度は俺が「え?」と困惑する番だった。
道すがら話したとき、リリアは小さな家に一人暮らしだと聞いていた。さすがに女一人の家に泊まるのはありえないので、どこか安い宿でも紹介してくれるものかと思っていたのだが……。
「いいのか?」
俺がそう尋ねると、リリアは「狭い家ですが、二人寝泊まりするくらいの余裕はありますよ」と笑った。違う、そういう意味じゃない。
しかし、せっかくの申し出を断るのも気が引けた。
それに、これから俺たちがどうしていくかを語るには、秘密を守れる場所のほうが望ましい。なにせこっちは異世界からやってきた〈廃棄物〉、かたや奇妙な呪いを背負った元ご令嬢ときている。
俺が「助かるよ」と言うと、リリアはうれしそうに自宅へと案内してくれた。
リリアの家は、街の中心部からは離れた場所にあった。小さいが、しっかりした石造りの小屋だった。
「以前、この街に住んでいた老夫婦から譲ってもらったんです。お二人は町中で小さなお店を開いていたのですが、年が年なので、別の街に住む息子さんの家で隠居することになって」
聞けば、以前はその老夫婦が倉庫として使っていたのだという。なるほど道理で、堅牢な作りになっているはずだ。
家に入ると、中にはダイニングを兼ねた厨房と個室が二つ。
厨房の脇には、地下室へ降りるハシゴがかけられていた。
個室のうち、一つはリリアの部屋。もう一つは空き部屋になっているので、俺が自由に使って良いらしい。
俺たちは空いている木箱を部屋に運い込み、即席のベッドを作った。上に布をかぶせれば、固くはあるが立派な寝床の完成だ。さすがに石畳の上で寝ると、夜中に体温を吸われて死ぬからな。院生時代、研究室に泊まり込んで死にかけたときの記憶が蘇ってくる。
作業が一段落するすうと、俺たちは即席のベッドに並んで腰を下ろした。
「さて、じゃあ早速聞かせてもらえるか。リリアの……その……体質のことを」
俺が話を切り出すと、リリアの肩がビクンと震えた。
「いや、体質というのも変だな。あれはたぶん、人為的な呪いなんじゃないのか?」
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