第33話 おまけ ぼっち娘と新米冒険者:後編(ヘレンの冒険:2)

「私は一撃ウサギラブリーラビットの角を集めるクエストで来たのよ」

 聞いてもいないのにゆんゆんが話してきます。とりあえずキノコライバルでは無いと知り安心しました。


 墓地に徘徊する屍人ゾンビ骸骨スケルトンといった不死アンデッドのモンスターはゆんゆんが事も無げに魔法で退治していきます。


 正直私1人では敵の1体だけでも倒せたかどうか疑問でした。その点だけでもゆんゆんとパーティを組んであげて正解と言えるでしょう。


「でもおかしいよね。『共同墓地のアンデッドは全て浄化されてて安全』ってギルドで聞いてたのに…」

 確かに私も『危険は無さそうだし』と聞いていました。何か異変が起きているのでしょうか?


 墓地を抜けて反対側の森に入りました。目的のキノコはこの辺りにあるそうですが、ざっと見渡した限りではそれらしき物は見つかりません。


「ウサギもキノコも見つからないねぇ…」

 ゆんゆんが呟きます。目的が別なのだから分かれて別々に探した方が効率が良いと思うのですが、ゆんゆんは私の傍を離れようとしません。


 すると目の前を何か小動物が走り去って行きます。どうやら額から長い角を生やしたウサギの様でした。


「居たわね! ライトニ…」


 ゆんゆんが攻撃魔法を唱え始めます。私はそこで彼女の腕を掴んで魔法を妨害しました。


「ちょっと! 何するの? 魔法が暴発しちゃうよ!」

 ゆんゆんが怒ります。


「待って下さい、貴女はあの可愛いウサギを殺そうというのですか?」


「え? でもそういうクエストだし… 危ないっ!」


 ゆんゆんが私を突き飛ばします。突進してきたウサギが私の立っていた場所の後ろの木に突き刺さって、ビヨヨーんと跳ねていました。


「一撃ウサギは見てくれは可愛いけど、肉食でとても凶暴なの。依頼を受けて来ている以上『可愛いから戦えない』なんて言えないんだからね」


 ゆんゆんはそう言って手にした小槌で木に刺さったウサギの角を叩き折りました。落ちたウサギはそのまま逃げて行きましたが角はゲットしています。なるほど、こういうやり方も有るのですね…。


「でも気持ちは分かるわ、私にもそんな時期があったから。ふにふらさんたち元気かな…?」


 ゆんゆんが夢見るように回想シーンに入っている様なので置いて行こうと思います。


 しかし「悪魔やアンデッド以外は全て愛しなさい」と教えられてきた私は食べる為以外で何かを殺めるのはやはりとても抵抗があります。


 でも考えてみれば街の露店等で売っている肉だって元は何かの動物です。人間が食べる為に命を頂いているのです。

 そう考えればたとえ角を得るために殺めた動物もそのまま食べて上げれば良い、と言う事ではありませんか!


 世紀の大発見をした様な気がします。


 しかしながら相手が山賊等の人間だった場合はどうなのでしょう? 道義的には良くても倫理的にはまずい気がします。


「ねぇ、ゆんゆん」


「なぁに? 固まってたみたいだけど大丈夫?」


「…人間って美味しいのでしょうか?」


「なっ… いきなり何を言ってるのっ?!」

 今度はゆんゆんが固まってしまいました。


 そんなこんなでいい具合にキノコと角とウサギ肉が集まってきました。私は3本目のキノコをゲットして無事5000エリスの権利を手にしています。

 ゆんゆんの角は4本目でクエストクリアまであと1本だそうです。このままゆんゆんを見捨てて帰ってもいいのですが、後で何をされるか分からないので暫く付き合う事にします。


「待って!」

 ゆんゆんが私を制止します。

「獣人の足跡が有るわ。獣人の冒険者かと思ったけど大きさから見て多分ゴブリンだと思う…」


 ゴブリン… 小鬼と称される人型のモンスター。子供くらいの大きさで初級冒険者の仕事としてよく討伐依頼が出される… はずなのですが、最近は冒険者が頑張りすぎて街の近辺ではほとんど見られなくなっている稀少種(?)と聞きます。


「数が少しなら怖くないけど、たくさん出てきたら骨が折れるね…」


『骨が折れる』程度の苦労でゴブリンの群れに対処出来るのだから、大魔術師というのはやはり凄い事なのでしょう。


「どうしますか? あと1本ですが引き返しますか?」


「うーん」

 ゆんゆんは腕を組んで考え込みます。

「魔力も残り少ないし、ヘレンを危険な目に逢わせたくないから今日は帰ろうか。私は急ぎのクエストでもないし後日出直すわ」


「…分かりました」


 私達は帰路につくべく反転します。しかし何だかモヤモヤした気分が晴れません。


「…ゆんゆんは先に戻ってて下さい、私はちょっと野暮用を思い出しました」


「野暮用? トイレとかなら待っててあげるよ?」


「いえ、本当に野暮用です。後から行くので先に戻ってて下さい」


「そ、そう? じゃあ気を付けて帰ってね。今日はパーティー組めて楽しかったよ」


 にこやかに手を振りながら、とても嬉しそうにゆんゆんは帰って行きました。良い人なのでしょうがなんとなく好きにはなれませんでした。


 さて、私が残った理由は2つ、私を『危険な目に逢わせたくない』から帰る、という理由に釈然としない物があった事と、先程の足跡の先に四葉キノコの様な影を見つけてしまっていたのです。


『ゆんゆんに守って貰わなくても私1人で出来ます』


 本気でそう思います、現にたった今私は4本目のキノコ(追加報酬)をゲットしました。私はやれば出来る子なのです。


「おい、人間の娘が居るぜ…」


 背後に声がして同時に複数の足音が聞こえてきました。振り向いた先にはゴブリンが4匹、全員が剣や棍棒で武装しています。

 ゴブリンってゴブゴブ言ってるだけかと思ったら人語を話せるゴブリンも居るんですね。


 ゴブリンが弱いモンスターだというのは分かっていますが、レベル1冒険者の女の子が、4匹を相手にして勝てるほど弱い相手だとはとても思えません。


 彼らは私を囲んで来ます、このまま私は彼らに凌辱されて無惨に殺されてしまうのでしょうか…?


「何だよガキかよ? おっぱいボイ~ンなお姉さんならエロ同人誌みたいなイヤらしい事をしてやろうと思ったけどよ~」


 …言い方は気に入りませんが貞操の危機は回避出来たようです。ゆんゆんがここにいたら却って大事になっていたでしょう、彼女を先に帰らせてあげて正解でした。


「かと言ってこのまま見過ごす訳にもいかねぇしなぁ… おいガキんちょ、とりあえず持ち物全部寄越せばここは見逃がしてやるぞ?」


 彼等なりの慈悲なのでしょうか? 私の所持品は現金が小銭で合計1000エリス程度、あとはお姉様とお仲間から頂いた装備品とウサギ肉、お姉様の為のキノコだけです。


「…お金と武器とお肉は差し上げます、他は許しては貰えませんか…?」

 言葉が通じる相手ならまずは交渉を試みます。


「んー、どうするかなぁ… お前の持ってる小袋の中から旨そうな臭いがしてるから、それと獣の肉を寄越せば許してやるわ」


 小袋の中、四葉キノコ… これだけは渡すわけにはいきません。

「こ、これだけはダメです…」

 私は袋を抱え込みます。


「ほう、なら殺して奪うだけだな…」

 敵は4匹でこちらは囲まれています。剣を抜いて戦っても1匹刺し違えるのが限界でしょう。何とか隙をついて逃げ出さなくては…。


 ジリジリとゴブリンの包囲網は狭まっていきます。相手はこちらが小娘1人と見て薄ら笑いを浮かべてすらいます。


 私は正面のゴブリンに手を向けて『点火ティンダー!』と唱えました。


 生まれて初めて使った魔法は成功し、ゴブリンの鼻先に小さな炎が灯り驚いたゴブリンが悲鳴を上げます。

 攻撃するための魔法ではないのでダメージはほとんど期待出来ませんが隙は作れました。


 鼻を焦がしたゴブリンの横をすり抜けて、私は森の出口に向けて走ります。当然追ってくるゴブリン達、足の早さはほぼ互角でしょうか。


 走りながらデッドウェイトの肉を投げ捨てます、ゴブリンや他の肉食獣の気を引ければ僥倖です。

 もと来た墓地の方へと必死に走ります。あわよくば墓地のアンデッドとゴブリンを鉢合わせさせて逃げられないでしょうか?


 …余計なことを考えていたせいなのか単にスタミナ切れかは分かりませんが、いつの間にか私のスピードが落ちていたようです。後続のゴブリンにガシッと後ろ髪を掴まれてしまいました。


 そのままバランスを崩して前に倒れる私。最後に見たものは、倒れ込む先にあった私の頭と同じ位の大きさの石でした…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る