外伝 あの件ってどうなったの?:ファンクラブ編
ボクは『腐敗の求道者』シナモン、アクセルの街で
そんな事より先日のヘレンの事件以来アンジェラグッズの売り上げが落ちこんでいる。
検察立ち会いのもとアンジェラちゃんの容疑は晴れたのに、世間には未だに「エリス教会のアンジェラが事件を起こした」と誤解している人たちが居る。テレビやネットの無い世界、一旦広まった悪い噂を覆すのは非常に難しい。
加えてヘレンがアンジェラちゃんを慕ってエリス教会に住み着いた事も、街の人からすればマッチポンプを疑う理由として十分だった。
アンジェラちゃんはまがりなりにも『聖女様』だから名誉の回復は時間さえ掛ければ勝手に戻っていくと思っていた。しかし…。
「シナモン殿、エリス教会の名のもとに当面アンジェラグッズの販売差し止めを命じます」
ドヴァン司祭に呼び出されて久しぶりにエリス教会に顔を出したらこの仕打ち、弱り目に祟り目とはこの事だよ。
「アンジェラちゃんの疑いは晴れたのに何故ですか? これから皆でアンジェラちゃんを盛り立てていかないといけない時期なのに!」
アンジェラ後援会の同志と思っていた司祭様のあまりに御無体な言葉にボクは食ってかかる。しかし司祭様も困り顔だ。
「わ、私も戸惑っているのですよ。しかしバルギル枢機卿からのお達しでして…」
「誰すかそれ?」
「王都の『幸福信仰推進局』の責任者です。この人に逆らうと異端扱いされて破門、酷い場合は矯正施設送りになるという怖い人です」
うひゃー、エリス教会ってもっと優しい、と言うか緩いイメージあったけど、そんな異端審問みたいなおっかないセクションも有るんだねぇ。
「実は先だってのファンクラブ活動の制限も枢機卿からの指令だったのですよ…」
…という事は、だ。
「んじゃその人が人気のあるアンジェラちゃんを目の敵にしてるって訳?」
「人気どうこうは分かりませんが、枢機卿がアンジェラ殿を危険視していて、エリス教会全体の問題にしようとしているのは間違いありませんね」
「うーん、困ったねぇ。…まぁ教会とケンカする気は無いから暫く大人しくしてるよ」
困った困った。
教会を出てから当て所もなくフラフラする。次の
なんて事を考えながら辿り着いたのは『ウィズ魔道具店』。ウィズさんを適当に冷やかして店内のヘンテコアイテムから新しい商売のヒントでも探ろうかな…?
「ヘイらっしゃい! 先日ぶりであるな、『
あー、そう言えばこの
「フハハハハ! やはり貴様ら異界出身の人間の悪感情は格別美味である!」
嬉しそうなバニルさん。ちくしょうめ、反撃してやる。
「ハッハッハ、無駄だよ腐った女子よ。我輩は既に貴様の攻撃に対して対策を講じ耐性を付けておる! 貴様の仲間がいくら我輩に…」
「…………」
腐女子なめんな。
「なるほど、
「きょ、今日はこれくらいにしといてやろう! 我輩もちょっと『うわぁ…』ってなったぞ」
何を考えたかは秘密だよ。
「しかし娘よ、地獄の公爵である大悪魔の我輩に悪感情を抱かせるとはなかなかに見所がある! 貴様が冥府に堕ちた暁には我が眷属として召し抱えてやろうではないか!」
「遠慮するよ。それよりウィズさんは居ないの?」
バニルはカウンターを一瞥して
「また無駄遣いしてきた役立たず店主ならそこの陰で焦げておる。しこたま破壊光線を食らわしてやったからな」
…比喩じゃなくて本当に焦げてた。これ
「という事なので要件は我輩が承ろう! そうだな、今日は悩める貴様にとっておきのオススメ商品を見せてやろう」
そう言って粉の入った小袋を取り出すバニル。
「これは洗剤でな、どんな汚れも瞬時に綺麗にしてくれる逸品だ」
「へぇ、このお店にしては地味だけど良い感じじゃない?」
「左様、どんな色柄物も真っ白に仕上げて見せるぞ!」
「ガラクタじゃねぇか。でもまぁ良いや1つちょうだい」
後でほとんど柄物着ないアンジェラちゃんに上げれば喜ばれるかも知れない。たまには貢いでおかないとね。
「ヘイ毎度あり! 素直に買ってくれた礼として我輩のスキルでも教えてやろうか? バニル式『目ビーム』なんてどうだ? スキルポイントが余っているのだろう?」
さすが『見通す悪魔』そんな事まで分かるのか…。
確かに
でも悪魔の技ってなんかスゴくね? 超レアじゃね? やっちゃおうかな?
「じゃあお願いします!」
「よろしい、ではそこの丸焦げ店主と、どうやれば自然に振る舞って店に入れるかを外でモジモジしながら試行錯誤している紅魔の娘とどちらを標的にしようか?」
いや、裏庭の石とかにしましょうよ…。
「ではいくぞ、バニルビぃぃぃんムっ!!」
そう叫んで大の字のポーズを取るバニルの目から凄まじい光が迸り、裏庭に有ったスイカ大の石が砕け散った。ナニコレ凄くない?
「と、まぁこんな感じだ。分かったかな?」
バニルはこちらに背を向けたまま言う、顔から煙が出ている気がするけど気のせい?
とりあえず習得、割高だったけどこれなら十二分に活躍出来そうだ。
「少しここで練習すると良い、我輩は店に戻る。あぁ撃つ時は眼鏡を外した方が吉であるぞ」
バニルはこちらに顔を向けないまま店に戻って行った。ホントに煙出てないアレ?
一抹の不安はあるけと新必殺技の誘惑には耐えられない。アンジェラちゃんだって必殺技を覚えたんだからボクもテコ入れが欲しい。言われた通り眼鏡を外す。
「いくよ、シナモンビームっ!」
うっぎゃぁぁぁぁぁっっ!!!
「目が! 目がぁっ!
ぜぇ、ぜぇ、ぜぇっ…。
…死ぬかと思った。
思いっきり目が灼けたよ、これ普通に使ったら自分が失明するだけじゃん。あの悪魔め、ボクが
ちなみに標的としていた石の破壊は成功していて微妙に使える所が余計に腹立たしい。
「ちょっと! アレはシャレにならないよ!」
店に怒鳴りこむ。バニルは孫の手のようなアイテムをゆんゆんに売りつけようとしていた。
「先程ぶりだな、目元が煤けている娘よ。我が目ビームは術者にもダメージが有るから気をつけるのだぞ?」
「知ってるよ! さっき死にそうな目に遭ったよ!」
「フハハハハ! 貴様なら我が奥義を使いこなせるであろう! なんならバニル式殺人光線も教えてやろうか?」
「要らないよ。どうせ撃ったら自分が死ぬんでしょ?」
「察しがいいな娘、その通りだ!」
もうヤダこの
バニルはゆんゆん相手に接客中なのでウィズさんの回復を待つ、あんだけ丸焦げだったのに目に見えて回復しているのは凄い。変なビームじゃなくてこの再生能力を教えて欲しかった。まぁ、どうせ
「なるほど、アンジェラさんのグッズが…」
「そうなんだよ、代わりの良い商売ないかなぁ?って」
ウィズさんが腕を組んで考える。
「それならアンジェラさん以外の方のグッズを作ったらいかがです?」
「ええ、それでウィズさんのグッズを作らせて貰おうかと思いまして…」
たった今思いついたが結構イケる気がする。
「ええっ? 私のですか? そ、それはちょっと…」
「聞き捨てならんな、うちの店主を使って商売をしたいなら我輩を通して貰おうか!」
その後2人がかりで嫌がるウィズさんを無理矢理説得して、一度だけの限定という事でグッズ販売を強行した。
ハイ、売れました。バカ売れしました。完売しました。
バニルさんとは今後も良い関係を続けていけたらと思います。
『ウィズファンクラブ』かぁ… 絶対イケるよね…。
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