げーむ

 ピコピコ、ポチポチ。

 は、いくらなんでも古すぎるけど。


 とある日の昼下がり。オレたちの部屋にはゲームの放つ音ばかりがこだましていた。当然ながら不協和音で、折角の休日を雨に潰された恨み節まで出てくる始末だった。


「おーい、ポケ○ンの音ちょっと下げてよ」

「そっちこそ○GOのボリューム下げればいいじゃん」


 むむむ。たしかにパートナーの言うことは真実だ。やってもらいたいなら先にやるに限る。よし。


「下げたぞ」

「ありがとー」


 ところが彼女はスルーした。声は弾んでいるが、真剣な目でニ○テ○ドース○ッチとにらめっこしている。ズルいぞ、と言いかけ、思いとどまった。一応、こちらが彼女の意図をくんだだけである。ちょっと前に流行った、忖度そんたくってやつだ。


「……」


 オレはそっと席を立つ。気付かれないようにお湯を沸かし、コーヒーの準備をする。オレは砂糖四つにミルクも多めだが、パートナーはなんとブラックである。砂糖もミルクもコーヒーの邪魔、というのが彼女の言い分だった。


「楽しい?」


 コーヒーを仕上げて、リビングに戻る。彼女の視線は、未だゲームに向いていた。


「楽しいよ?」


 オレの問いかけで、パートナーはようやく顔を上げた。どこか不思議そうな顔をしている辺り、本当に楽しいのだろう。


「ポケ○ンは可愛いし、キャラも可愛い。かっこいい人もいる」


 極めて真面目な顔で、彼女は言う。ちょっと最後の言葉には嫉妬を隠せないけど。そんなオレの表情に気付いたのか、彼女は慌てて言葉を続けた。


「あ、ごめん。カッコいいって言っても、私にとっては現実にいるカッコいい人の方が遥かに上で」


 身振り手振りをあわせ、必死に説明するパートナー。その姿がいじらしく、オレの嗜虐心が首をもたげる。


「うんうん。で、現実にいるカッコいい人って?」


 自惚れ染みているが、分かり切った話だ。でなければこうして一緒に暮らしているはずがない。だけど、言わせたくなった。きっと、誰にだってそういう時があるはずだ。


「め、目の前に……」


 着ていたパーカーを目深に被り、表情を見せないように縮こまるパートナー。しかし残念。ゆでダコ状態の頬が見えている。


「目の前に?」

「めのま、えにいる……あな、た、です……あぅ……」


 最後の方は消え入りそうな声。少しいじめすぎたかと反省する程度の情けはオレにもあった。パーカー越しに頭をポンポンしてやる。


「うん、ごめん。つい聞きたくなったんだ」

「いじわる……」


 ちょっと低めの、くぐもった声。だけど、結局オレには全てが愛おしくて。そんな彼女が熱中するならと、オレも会話を持ちかけた。


「楽しいんだよね?」

「うん……」

「オレも買おうかな」

「予算の範囲内で自己調達なら」

「だろうね」

「あと……」

「後?」

「女主人公はダメだし、私ソ○ド買ったからシー○ド買ってくれた方が百倍嬉しいし、交換や勝負もして欲しい」

「結構条件多いね」

「いじわるしたから。ゆるさない」

「こりゃまいった」


 オレは苦笑を漏らす。きっと数日もすれば、結局オレも買い揃えてしまうのだろう。そんな予測が、脳裏をよぎった。


 ともあれつまり。オレのパートナーは今日も可愛い。以上。

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