おやすみのひ

 我が家にはこたつというものがない。まあ電気代の節約や、床暖房があること辺りが主な理由になるのだが、それ以外にももう一つ理由があった。


「必要以上にぬくぬくすると、すぐ寝ちゃって……」


 住むところを決める時、可愛いオレのパートナー様が仰った。電機屋で恥ずかしげに頬をかき、オレに謝ってきた時の表情は忘れられない。そういえば、彼女の部屋へ遊びに行ったのは暖かい時期の方が多かった。


 と、まあ。そんな訳で。


「わーい、あったかーい」


 たまたま二人の休日が揃った昼下がり、オレの膝は、可愛い彼女に占領されていた。毛糸のセーターに身を包み、オレの胸板に顔を押し付けてスリスリしている。正直、人に見られたら悶え死ぬだろう。


「おいおい。まだ日中だぞ? あとオレの胸板程度で楽しい?」

「いーじゃんいーじゃん。減るもんじゃないし。好きな人の胸板だし」


 一応常識を駆使して問いかけてみるも、どこ吹く風のパートナー。それどころか。


「むしろ私の胸とかを好きにしてもいいんだよ?」


 上目遣いでこっちを挑発してくる始末。やめてください。理性が死んでしまいます。口元もどことなく艶めかしいし、髪はサラサラで撫でてやりたいし、なによりたわわな胸元が怖い! ちょっと大きめなのか、実は下着がチラチラ見えてるし!


「ね?」


 ここ数日お互いに忙しかったのが不満なのか、今日のパートナーは妙に積極的だった。と言うよりもオレの理性が限界だった。


 欲望に負けたのではない。オレは必死に耐えたのだ。全く無理矢理な論理で自分を納得させながら、オレは彼女の頬に触れようとして――。


 ピンポーン。


 あまりにも間延びした音に、雰囲気ごとたたっ切られた。


「……宅配便かな?」

「チィ……。イイトコロダッタノニ……」


 ギリギリのところで正気を取り戻すオレ。怒りが漏れ出しているパートナー。ハッキリ言ってちょっと怖い。ともあれ、彼女の手に触れて拘束を解く。色んな意味でなにかがあっては困るので、オレが玄関へ行くことにした。


「まいどありー」


 背後のオーラがマズいことになる前に手続きを終え、宅配便のお兄さんを追い返す。よく見れば、母親からだった。しかも毛布。きっちり二人分。


「どったのー?」

「悪い悪い。母さんから毛布が来たんだ」

「ホント!?」


 色々吹っ飛んだのか、トテテテっと近付いてくる愛しの小動物。ダンボールを開けると、新品の、分厚い毛布が入っていた。


「わあ……!」


 目を輝かせるパートナー。一応中身を全部見ると、ビニール袋に白菜と芋。後は『二人で仲良くやるように。しっかりしろよ』という趣旨の手紙が入っていた。


「毛布、さっそく使お?」

「夜になってからな?」

「ぶーぶー」


 床暖房もあるのにさらなる温もりを求める彼女をなだめ、毛布を一度外に干す。ダンボールの中だったし、日に当てた方が後でよりぬくぬくできる。ただしその間、ずっとパートナーは豚のマネを繰り返していて。


「この甘えん坊」


 全てを終えたオレは、真っ先に抱きしめることにした。彼女の体温が、直に伝わる。香りが鼻を直撃する。服越しに感じる柔らかさが、オレをくらくらさせてしまい。


「……カーテン、閉めるわ」

「うん」


 冬にもかかわらず、熱い休日が始まった。なお毛布は結局、朝まで干す羽目になってしまった。


 つまり、オレのパートナーは今日も可愛い。以上。

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