第58話

 布団の中で、目が覚めた。


 

「…………」



 春の日差しが窓から差し込む。…少し眠り過ぎたみたい。



 長い長い、いつもの夢だった。



「…………また見ちゃった。あの時の夢」



 10年前、コロナウイルスが伝染し始めた頃を、私は何度も夢に見る。



 大地がドラゴンになって、みんなを別な世界に連れて行ってくれて、そこで私達の結婚式を挙げた時の夢だ。



「…………大地」



 息がかかるくらいの距離に、整った夫の寝顔がある。



「……まだ寝てる?」



 彼の髪に触れ、そっとキスをしてみる。



「………」



 艶やかで柔らかくて、触り心地のいい黒髪。昔はピンク色だった。どこからが夢だったのか、記憶が徐々に曖昧になっていく。



 大地は全然起きない。時計を見ると6時を過ぎていた。



 私は彼が起きないようにそっと、布団から出ようとした。



「…………さくら…?」



 彼は私の腕を掴み、



「…………まだ、ここにいろよ…」




 私の体を少し強引に、

 ぎゅっと引き寄せて、抱きしめた。




「おはよう。…………起きた?」




 彼は微笑み、私の首筋に顔をうずめて噛みついた。





「……起きた」





 ドラゴンに、血を吸われたみたい。






「………おはよ」





 彼はゆっくり目を開けて、





 私の唇に、そっとキスをした。




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