第18話

「相当怒っていましたね、久遠様」


 梅ばあちゃんは少し落ち着きを取り戻し、私を見て笑った。


「社務所へ来てください、さくら。あなたにもきちんと説明しなければ…」


 大地と私は梅の後に続き、社務所の中へと案内された。靴を脱ぎ、一番奥の和室に入ってちゃぶ台を囲むと、梅が煎茶と煎餅を出してくれた。


「私も人間ではありません。あちらの世界神の国から来た、鳳凰です」


 …梅ちゃんまで?


「でも、梅ちゃんはいつも神社にいる、私の遠縁のおばあちゃんだって、お父さんとお母さんが…」


 梅はお茶をすすりながら、首を横に振った。


「それは嘘です。私は久遠様の命令で、あなたのお目つけ役として、大地の結婚相手のあなたをずっと、この世界で見守ってきました」


 私が大地を見ると、彼は小さく頷いた。


「梅は俺の監視役もしてたんだ。年に一度の夏祭りの時だけな」


「大地は今回、許可も取らず急にこちらに現れて、久遠様を怒らせました。もう…とても私の手には負えません」


 大地は突然、何かを思いついた様子で梅に尋ねた。


「この神社の桜の木は、花を咲かせないというのは本当か?」


「はい。ここ数年ずっとです。いきなりどうして…?」


 大地は微笑み、目を輝かせた。


「…桜がいい」


「…?」


 一体何を思いついたんだろう?


 彼はいきなり私の手を取った。



「来て!さくら」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る