第10話

「…?…わかった」


 私は2階にある自分の部屋から、紺野君に借りていた本を持って来た。


 カフェに戻ると梅ばあちゃんが、大地に向かって再び怒鳴り声を上げていた。


「世界中に伝染病が広がった今、人間達はただでさえ恐怖に怯え、迷い、助けを求めています。我々がここにいるべきではありません」


「…俺は病原菌か」


「いいえ。でもドラゴンは、人を怖がらせます」


「…」


 私と目が合った大地はこちらへ近づき、私を突然抱き上げて、店の外へと飛び出した。


「…!!」


 お姫様だっこ!


「待ちなさい大地!」


 店内から、梅が叫ぶ声が聞こえて来る。


 大地は構わず私を抱いたまま走り、紺野君の本に顔を近づけた。


「?」


 彼は本の匂いを嗅ぐとまたドラゴンに変身し、私を背中に乗せて羽ばたいた。






 再び、空の上。


 風が穏やかになったので、彼の話す声はきちんと、こちらに伝わって来た。



「…お前は俺が怖いか?」


 

「…ううん」



「…ごめんな。急に血を吸ったりして」



「…うん」


 あれは、びっくりしたけど!



 私は、大地の素性をまるで知らない。


 毎年、神社の夏祭りの時にだけ現れる大地が今までどこに住んでいて、どうやって生活していたのか知らなかった。


「あなたは、普段どこにいるの?」



「人間は『竜宮城』って呼ぶかもな。…帰るのが怖い」



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