第39話 新月の奇跡

 に戻ってから王子はだらだらとベッドに寝そべりお菓子を食べている。折角のあの方の半年間の努力が!私は怒り詰め寄った!


「いい加減になさってください!王子!王子としてやる事があるはずです!」


「何だ?側室の女選びか?ふむ…どうもどいつもイマイチだな…まぁ国一番の美少女がいるからな」

 とチラリと私を見る。このっ下衆野郎!


「私とは婚約破棄なさるのでは?」


「別にそれもいいが手続きも面倒だしそのままでよい…正妻になれて嬉しいだろうクラウディアよ!」


「…嬉しくなどありませんわ…」


「そうか…お前は中身のあの平民に惚れているんだったな!バカが!あいつの名前はなんと言ったかな…。そうだ…キヨト…とかカタクラとか言ってたな…キヨトが名前だな母親らしき奴…親しそうな奴は皆そう呼んでいて、時折来る白い服を着た看病する女達はカタクラと呼んでいた」


「キヨト…と言うのですか…あの方は…」

 キヨト…カタクラ…と私は覚えた。

 それが面白くないのかジークヴァルト王子が立ち上がり私を壁に押し付けた!


「ふん!あいつの名前を教えてやったんだ!見返りを頂こう!」

 と顔を近づけようとするので私は髪でガードした!


「くっ!あいつとはしてたろ?外見は同じだぞ?」


「貴方はそのキヨト様ではありませんわ!あの方はとても純粋で紳士で頑張り屋で努力家で優しくて天然でちょっとおバカなんです!貴方みたいな最低な王子では無かった!!」

 と私は睨みつける!


「どう足掻こうとお前は俺様の妻になる運命だ!逃れられん!あいつももう帰ってこない!お前は俺様のものだ!」

 と髪を退けようとした所で…


「ほほう…これはこれは…また魂が酷く汚れているな!あやつはどこへ行ったのだ?」

 いつの間にかコンチャーン様が現れた。


「ホワコンか!?何をしにきた!神獣!お前に用は無い!」


「ふむ…この娘を虐めるのなら我はお前を殺すぞ?」


「ぐっ!…」

 流石に神獣相手に下手に出られない王子は動きを止めた。そして師匠も入ってきた!


「大丈夫かい!?クラウディアちゃん!貴様!王子と言えどクラウディアちゃんに酷いことをするならば斬るぞ!」

 と庇われる。


 王子は笑う。


「揃いも揃って何だ?俺様はこの国の王となる者だ!逆らう奴は全員牢にぶち込んでやる!クラウディアお前もだ!」


「!」


「お前などが王になるとはこの国は終わりだな…残念だが…一つに掛けて次の新月まで貴様を眠らせておこう。そして我がその隙にその上等な赤髪の女を頂こう!」


「はぁ!?何を言ってますの?コンチャーン様!」


「見るに耐えないので新月まで眠らせるだけだ!新月までに前あった魂が戻ってこないようなら…もう我は知らぬ…」

 それって…キヨト様が次の新月までに戻って来ると言う事?


「どうやって戻るかは我は知らぬ…女神とやらが何とかするか…は知らんな…っ!!」

 とコンチャーン様が宝珠を一つ王子に投げつけそれが割れて王子はガクリと膝をついた…。


「お…おのれ…やっとこの身体に戻れ…」

 そこまでで王子は気を失った…それから王子は次の新月まで眠り続けた。


 *


 病院のベッドで俺は苦しんでいた…。

 動かす事はできず目だけが動く…。

 そこへ母親がやってきた。

 酷く疲れた辛そうな顔だ。半年間も入院しているんだ…入院費だってかかるだろうな。ごめん母さん!


聖人きよと…起きたの?大丈夫よ?きっと…きっと元気になるって…信じてるわ…」

 母親は涙を流してまた来ると出て行く。


 その翌日に弟達もやってくる。

 義弘よしひろ真斗まさと…元気そうだな…。でもやっぱり悲しい顔をしている。


「早く元気になってよ…兄ちゃんの飯…美味しいよ…」

 ごめんな…義弘…真斗…。


 その翌日には俺の親友の伊勢谷千昭いせやちあきがやってきた。スマホを机に置いてラップ音をかけた。


「お前の好きだった曲だよ…」

 千昭…すまんそれじゃない…。


「お前ラップはSoulだってよく言ってたよな…。好きな子にはラップで伝えるって聞かなかったから先輩に告白する時は俺必死で止めたよな」

 うん…普通に告白して普通に振られた。


「また来る」

 と千昭も帰った。


 俺は苦しんだ。何日も。

 さっさと殺してくれとさえ思えた。

 そんな中でもクラウディアはどうしてるのか…もう俺は戻れないのか?クラウディアと会えないまま、また死んで別の人生を送るのか?

 そんな悲しみも生まれていた。あの日俺の醜い嫉妬と情けなさを自覚しなければあいつは出てこなかった…。


 苦しい…。暗い。

 何日かも判らない…クラウディア…。もう一度会いたい…


 そして俺は…ついに本当に終わった。身体から魂が抜け出したあの感覚がまたきた。

 俺は身体とさよならしてまた上へと登った。


 そして…神殿の前に女神と…女神に踏みつけられた魂か待っていた。


「ようやく死にましたね!はい!」


「女神…ザスキア…」


「この度はこの腐れ外道が勝手に身体を入れ替えやがってからにはい!」

 と、ヒールでグリグリ魂を潰している!


「まさかお前!豚王子か!?なんでここにいる?クラウディアの所にいるんじゃ??」


「ホワコンがこいつの魂を眠らせて新月の晩に貴方がここへ来れるようにしたのです!はい!」


「コンちゃんが!?」


「そうです!はい!」

 すると下から豚王子が言った!


「畜生!女神!!お前いい加減にしろ!俺様を元の身体に戻せ!!俺様の身体だぞ!!」

 と怒鳴ったが女神はどっから出したのか鞭で魂の豚王子を打った!


「おだまりなさい!はい!貴方はまだ罪を償っている途中なのに勝手に与えた身体から抜け出しよってからに!反省なさいはい!貴方の行く次の身体は王子よりもっと酷い環境の身体ですはい!楽に生きれる人生になるとは思わないことねはい!さぁ!さっさと用意しておいたど最低へと転生なさい!!」

 と女神は豚王子を蹴飛ばしキラーンと豚王子の魂は彼方に消えた!


「おい…大丈夫なのかあれ?」


「苦しみを知らない者は幸せな人生など送れない!あの子の次の人生は辛いものになります。今の記憶は無くしたからもし赤子ですれ違っても気付かないでしょうね」


「そうか……でも…あいつは半年以上も俺のあの身体で苦しんだ…少しはおまけしといてほしいよ…」


「………さて…貴方の次の転生先ですが…」

 俺はそれにもはや覚悟を決めた…。


「クラウディアのとこに戻れる?」

 すると女神は嫌な顔でニヤリと笑い


「そうね!ひざまづいて足をお舐めなさいな!はい!」

 と言う。


「嫌だわこの水虫女神…」


「はっ!何故それを!!おのれ!!さっさといけーい!!」

 と俺はまた吹っ飛ばされ視界は白くなった。


 *


 俺は目を開けた。

 すると横にクラウディアが赤い目を不安そうに揺らした。


「クラウディア…」

 まずい…俺がどっちか判らないかも…。どう説明しよう…。

 するとクラウディアはガシっと俺の顔を掴み瞳を覗き込んだ!


「……貴方は…キヨト様!?」

 と俺の前世の名を口にした。クラウディアには一度も伝えてないのに!まさかあの豚王子が言ったのか!?


「な…何故そう思う?」

 俺はビクっとした…。


「目が澄んでいますわ……やはりそうなのですね?あの下衆王子ではなくキヨト様でしょう?」

 クラウディアはボロボロとそううなづいて欲しく涙を流した。


「クラウディア…違う…聖人はもう死んだよ…そしてこの身体の元豚王子の魂は完全にどこか他へ転生していった!女神が蹴り飛ばしたんだぜ?…………だから俺はジークヴァルトだよ…この国を豊かにする為帰ってきました…」

 それを聞きクラウディアは安心して俺に抱きついて泣きながら言った!


「お帰りなさい!!私の好きなジークヴァルト様!!」


「えええっ!!?すすす好き!?ええええ!?」

 すると泣きながら怒るクラウディアが言う。


「なんですの!?当たり前ではないですか!貴方のような素敵な王子様はいませんわ!好きになって当たり前です!」

 と言う。くっ!…やっぱりクラウディアは超絶にかわええええええ!!


 それから2人して少し笑うと俺とクラウディアは抱き合いキスをした…。


 すると俺はまた白く輝いた!!


「ぎゃあ!!なんだこれ!!?」


「ジークヴァルト様!?」

 物凄い光が俺を包み、クラウディアを包み、さらに部屋も屋敷の外の街も城もこのブッシュバウム国が全部白く光輝いた!!人々も皆一様に白く輝いた!!

 光りは暫く続き、そしてゆっくり暗い空に吸い込まれるように…まるで雪が逆に降った様に上へと登っていった。

 後にこの現象を人々は

【奇跡の光国の一夜】と呼んだ。

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