第14話 榛名山の戦闘2
ワタル達の乗ったトラックは、本隊とは数百メートル離れた榛名湖の北側に配置され、本隊がC国軍の部隊を引き付ける迄、レーザー銃を使用せずに待機するように指示された。榛名湖の北から見る榛名山は、湖に上下対称に映りこみ、絵葉書のような美しさだ。近くの桟橋に錆び付いた白鳥の遊覧船が止まっている。
そして、約一時間後の正午過ぎ、C国軍が避難所まで三百メートルに迫ったところで、苗場山部隊に攻撃開始の合図が伝達された。まず迫撃砲が発射され、例によって、砲弾はC国軍に届かず手前に着弾する。続いて、苗場山部隊の機銃、小銃の発砲が始まる。
C国軍は丘の上の敵部隊にやっと気づいたが、それが迫撃砲と機銃しか持たない弱小部隊と判断した筈だ。
榛名山周辺に散開していたC国軍の各部隊が、苗場山部隊のいる丘の前面に集結を始める。
苗場山部隊は、C国軍を引き付けようと、迫撃砲を撃ち尽くしたていで、機銃小銃のみの攻撃を、散発的に続けている。
C国軍が動き出す。部隊の前面に十数輌の戦車を配置し、丘の上の苗場山部隊に向かって前進を開始した。戦車群から次々に砲弾が発射され、苗場山部隊の前方に着弾し土煙をあげる。
本隊からの合図で、ワタルとオダのレーザー銃がレベル4(maximum)で発射され、先頭の戦車の内部を破壊し炎上爆発させる。苗場山部隊の迫撃砲も発射を再開した。
両軍の本格的な戦闘が始まった。まさにその時だった。
突然、榛名山の中腹の避難所付近から、あのロケット弾が白煙を上げて発射され、C国軍の戦車群の真ん中に飛び込み、「ドドーン」と地響きを上げてさく裂した。
辺りの状況は一瞬で激変した。苗場山部隊の前方で、C国軍の戦車群の残骸が炎と黒煙をあげ、周辺のC国軍兵の姿は消えていた。
急激な展開に苗場山部隊は驚いた。あの女性リーダーは、ロケット弾をまだ使用せずに、避難所に立てこもり、このタイミングでC国軍のど真ん中にロケット弾を撃ち込んだ。見事としか言い様がない。暫くして、状況を理解した苗場山部隊から歓声が上がった。
「やったぞ!またC国軍の丸焼きだ!」
「榛名山の女神バンザイ!」(もう女傑ではなく女神になったらしい)
「やつら全滅だ!残っているのは山に登っているやつらだ!こいつらも撃ち落としてやろうぜ!」
「山に向かって前進だ!」
そういう声の上がる中、サブリーダ―がこう言った。
「榛名山の南側にはまだ多くのC国軍がいるはずだ。こっちが出て行かずとも、それらの部隊がこっちへ向かって来る筈だ。それを引き付けて迎え撃つべきだ。それに、C国軍の本部に連絡がいくと、すぐにこの丘に向かって戦闘機、ミサイルの攻撃が来るだろう。爆撃に備えるために、出来る限り散開して、榛名山部隊の下山を援護しよう!榛名山部隊が脱出した時点で、苗場山部隊は各自、浅間山方面に撤退する!」
皆が了承し、苗場山部隊数十名は数名ずつに分かれ、それぞれ離れた場所へと移動を始めた。
ワタルとオダは、本隊と離れた榛名湖の北の船着き場の施設から、晴れた日は十キロメートルの遠方まで届くという特性を生かして、レーザー銃を撃ちまくっていた。バッテリーは遊覧船の船着き場の施設から充電しているので、レーザー銃は撃ち放題となっている。
ワタルとオダは、榛名山から飛来したロケット弾で前面のC国軍が壊滅した後も、榛名山にとりついているC国軍の部隊を、スコープの拡大照準を使って狙い撃ちしていた。そのスコープに、避難所付近の急斜面の岩場から素早く下りてくる数人が見える。明らかにC国軍の軍服ではなく、連盟のメンバーだ。その中にあの榛名山の女性リーダーがいるような気がした。
大きな被害を被ったC国軍は、しばらくして残存部隊を立て直し、苗場山部隊を包囲するように攻撃を再開した。C国軍はレーザー銃が何処から発射されているかに気付いておらず、ただ、北側の丘に散開して発砲を続ける苗場山部隊を標的にしている。
さきほどロケット弾が発射された榛名山の中腹の避難所付近に、C国軍のミサイルが数発着弾し、轟音を響かせた。
上空に戦闘機が轟音を立てて飛来し、苗場山部隊のいる丘に向けてミサイルを発射した。
ミサイルは、苗場山部隊のいた丘の中央部で炸裂し、大きく土砂をまき散らした。
丘から飛び去り、遠くで旋回する戦闘機に向けて、ワタルがすばやくレベル3のレーザー銃を発射する。搭乗するC国兵の顔が見え、次の瞬間爆発炎上した。
このC国軍機のミサイルにより、丘に展開していた苗場山部隊は相当の被害を受けた。それでも各所でC国軍に対する発砲を続けている。
ワタルとオダは、上空の戦闘機を警戒しながら、北側の丘に陣取る苗場山部隊や山を下りてくる榛名山部隊を掩護しようと、レーザー銃を発射し続ける。C国軍の苗場山部隊への攻勢は激しさを増している。
またもや東の上空に戦闘機が二機飛来してくる。ワタルとオダがすばやくレベル3(destroy)に切り替えたレーザー銃を発射する。二機の戦闘機は山の向こう側で爆発炎上した。
ワタルがオダに「おまえも腕が良いな!」と言う。
オダが「とーぜんよ!」と答える。
戦闘は数時間続き、ワタルとオダは主にC国軍の軍用車両を狙って援護射撃を続けた。
日が傾きかけた午後、ようやく、C国軍の残骸が続く岩場を通り、榛名山部隊の四人が榛名湖北のワタルとオダのいる場所へ駆け込んできた。
やはり、その中にあの女性リーダーがいて、ワタル達はほっとした。
オダが苗場山部隊のサブリーダーに報告すると、サブリーダ―はこう指示を出した。
「ここは苗場山部隊に任せろ!キミらはすぐに浅間山方面に撤退せよ!」
ここで、「苗場山部隊を残して撤退する事は出来ない!」「いや、そうしてくれ!」「いやいやそれは絶対できない!」などという無駄な長談義はしないように訓練されているので、オダは「了解!」とだけ答え、即刻、全員をトラックに乗せ、西方向へ走り出す。
浅間山方面に向かうトラックの運転席には、運転役の苗場山部隊の平井隊員、榛名山の女性リーダーとオダが乗り込み、あとは運搬ロボット「ライデン」と一緒に荷台に乗っている。
走り出したトラックの運転席で、「君達生きてたの!てっきり新潟でくたばってると思った!」と女性リーダーがオダに言う。
「酷いすよ、その言い方!新潟でひと暴れして、野沢温泉から苗場山をまわってここまで来たんすよ!なかなか死なないっすよ!」
「良い運もってるね!でも、榛名山の避難所に隠れて、あのロケットを何時使うか迷ってたら、どっから来たのか、麓で味方の部隊がC国軍と戦闘開始!ほんとにびっくりした!」
「こっちもびっくりですよ!榛名山部隊が生き残っていて、ちょうど良いとこで、C国軍にロケット撃ち込むんすからね!」
「ロケット弾の使い道に困ってたのよ!C国軍のやつら一か所に集まろうとしないんだから!で、宝の持ち腐れ状態だったのよ!」
「ロケット弾でC国軍はほぼ全滅!本当に助かりましたよ!」
と運転している苗場山部隊の平井隊員が言う。
「苗場山部隊には、助けに来てもらって・・・本当に感謝する。」
あとは何も言えない状況だった。
「大丈夫です!苗場山部隊は悪運が強いから、みんな生き残って出てきますよ!ひょっとすると、我々より早く浅間山に到着して待ってるかも知れませんよ!」
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