第6話 東京~群馬
翌日五月二十日、東京へ向かう五人は早朝三時に出発し、まず車を物色する。目立ちすぎる貨物運搬ロボットを、東京まで歩かせるわけにもいかない。適当な大型バンかトラックが必要だ。無人に近いこの地域で、車がありそうな横須賀港の近くを捜すことにする。
三十分程捜して、「○○食品工業」と言う看板のある工場らしき施設の横で、大型の冷凍車を見つけた。万能キーでエンジンをかけ、オダが運転し、ワタルとアサミが助手席、宮里組二人は冷凍庫に乗り込み、いったんホテルに戻った。
まずホテルから、貨物運搬ロボットや他の武器・機材を積み込む。港の桟橋につないであるレキオス号からも、七発あるロケット弾の内の四発を積み込んだ。大型の冷凍車は満員状態で東京方面へ出発する。レキオス号で東京湾へ向かう隊長達も同時に出港した。
ワタル達は、雨が降り続く中、大型の冷凍車に乗り込み、暗い大通りを信号を守って東京方面へ進んでいく。辺りが明るくなるにつれて、崩れた家屋や倒壊したビルの瓦礫が両側に広がっているのが見えてくる。東京方面と言う看板を目印に進んでいくにつれて、瓦礫は更に大規模になり、辺りは現実感のない、まるで映画で見る様な巨大な廃墟の街となった。ビル群が半壊の瓦礫となって放置されている。道路だけは瓦礫を除去しているので走行に問題はない。放射線量は2倍になった。
この廃墟の街中で、しかも雨の中、早朝ジョギングしている老人がいる。早速、話を聞いてみる。
「すいません。○○テレビ(現在C国国営放送)のビルはどっちの方面ですか?」
「何?○○テレビ?ありゃ新潟にあるじゃろ?」
「えーー、○○テレビさんから、東京の○○区の○○に届け先があると聞いたんですけどね。」
「東京にはそんなものは残っておらんわ!だいいち住んでいるのは、わしら死にぞこないのジジババだけじゃ!」
「間違いか、じゃもう一度電話してみます。ところでお爺さんの家族とかはどちらへ?」
「オレか?青森に出張して、帰ってきたらこの有様よ!家族も家も全部なくなっとる!東京はこの通り放射能だらけの無人地帯じゃ!お前ら、死にたくなかったらとっとと行け!」
この後、東京の中心部に車を走らせたが、ほとんど車も人も通らない。片側4車線道路のうち2車線は瓦礫の山で埋もれ、ほぼ片側2車線になっている。放射線量は3倍になった。
中心部の高層ビル群は鉄筋とコンクリートだけの残骸となり、高架線路や高速道路は至る所で崩れ落ち寸断している。東京タワーは途中で折れ曲がり、スカイツリーは何処にあるのか見当たらない。惨憺たる状況に愕然とする。
九年前の夏、東京に十数発の核ミサイルが着弾した。平日の昼過ぎで、多くのサラリーマンが都心に集中し、芸能人著名人達の多くはテレビ局などで収録中だった。米軍からの連絡でいち早く、地下の核シェルターに避難した日本政府が、弾道ミサイルの緊急情報をJアラートで送信したのは、P国軍が核ミサイルを発射して五分後、着弾迄あと二分の時だった。
Jアラートの警報音がテレビ局内で響き、緊急放送が始まった。
「緊急放送です!ミサイルと思われる飛翔体が日本各地の都市部に着弾します!屋外にいる場合は、近くの頑丈な建物または地下に避難してください!これは訓練ではありません!・・・」
その警報に気づいた人々が避難を始めようとしたとき、雑踏では聞こえなかったが、空から何か耳に障る「キィーーーーン」という高音が聞こえてきた。
そして、次の瞬間、あたりは白い光に溢れていた。すべての物が白く光り、人々も車も、道路も、建物も、木々も、空気もその姿を変えていた。
続いて、爆風がすべてを吹き飛ばし、辺りは炎がすべてを覆いつくす火炎地獄となった。人も、車も、ビルも、すべてが炉の炎の中で燃えている。その炎は永遠と思われる程長い時間燃え続け、それが燃え尽きた後には、黒い瓦礫の山となった地表が存在するのみだった。
テレビ局等にいた芸能人著名人達は大混乱の中、地下の核シェルターに避難した。多くの人々が次々と押し寄せ、核ミサイル着弾から十数分経ってからようやくシェルターの扉が閉じられた。定員の二倍の人々を収容した地下室は、全員が横になるスペースはなく、やっと座れるほどのスペースしかなかった。水と食料の備蓄も不十分だった。
芸能人著名人達は、P国の核ミサイルで東京が壊滅した後も、テレビ局地下のシェルターの中で何とか生き残っていた。しかし、二か月が過ぎ、水と食料の備蓄が底をついた時点でC国軍の呼びかけに応じて、テレビ局の地下を出た。そして無人の廃墟となった東京を離れ、新潟へと移送される事になった。
ワタル達は相談の結果、老人が言った「○○テレビが新潟にある」という情報を信じて、東京で芸能人を捜す事を諦め、新潟へ向かうことにした。
東京の中心部から北部へと車を走らせる。ワタルは携帯でレキオス号の隊長に、盗聴されるおそれもあるので、
「東京に配達するのは、連絡ミスだったらしい。新潟の売り込み先をあたってみる。なんとか処分しないとまずいだろ。賞味期限もあるし、帰りは明日か明後日だな。社長に連絡しといて!」と連絡する。
隊長からも、心得たもので、
「中華麺を腐らせたら、給料から天引きするぞ!バカヤロー!」という返事が来た。
東京から北に走り続け、埼玉に入ると、建物の被害も瓦礫もだんだん見えなくなり、緑の濃い山々が見え、両側に畑が広がっているのどかな風景となった。片側二車線の国道が広く感じる。
埼玉を過ぎ、群馬に入ったころ、トラックが数多く走っているのを見かける様になり、商店や人の姿も見えてくる。ピカピカのガソリンスタンドが営業中だった。
「東京方面からのお客様へ、只今残存放射能除染無料サービス中!」という看板がある。長めの洗車機の中を通のが「除染」という事らしい。
ガソリンスタンドの従業員が笑顔で近づいてきて、C国語で声をかけてくる。
「××××××××?」
「新潟まで、品物を届けに行くんだ。」とオダが日本語で答える。
従業員は日本人とわかってホッとした様子で、
「そうっすかーー、珍しいっすねーー、新潟行くんすかーー。」と言う。
「△△スーパーに初めて品物を届けるんだけど、途中の道どんな具合かな?」
「普通っすよ、普通に通れますよ、前は検問とかあったらしいっすが、今、検問も除染もしてないらしいっすよ。いい加減すよね、C国人は、あっ、こりゃいけね。」
「その方が良いよね、面倒がなくって、ところでキミはここの地元の人?」
「そうっすよーー。生まれも育ちも群馬っす。」
「オレ達は神奈川で、ミサイルは落ちなかったけど、東京は残念なことになった。ここも大変だったらしいな。」
「大変だったっすよーー。東京にきのこ雲が十発以上落ちたんすからね。死にかけの避難民がどっと押し寄せるし、病院もお手上げで、道端で死んでる人もいたんすからね。気の毒だが、助け様がないっすからね。」
当時、東京、埼玉からの避難民は数百万人に達し、その中のかなりの人々が火傷などの傷を負っていた。その被災者を受け入れる病院も医師も全く不足し、重傷者でさえ避難所で放置される状態だった。各家庭に放射能被害者を受け入れる事も困難だった。避難所に入れない被災者は路上に放置された。
「大変だったんだな、でも今は落ち着いている?」
「今はね、でも、日本じゃなく東海人民共和国になって、やたらC国人が多くなって、C国の悪口を言ったりすると、引っ張られて帰って来れなくなるらしいっすからね。」
気の良い口の軽いこの青年が、C国軍に引っ張られない事を願いつつ、ガソリンを満タンにして新潟へと出発することにした。
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