二十節 不道徳への支払い難い対価(参)
地下にある王座の街には昼も夜もないのだが、それでもここの住民は地上と似たようなサイクルで生活を送っている。たいていは朝の時間帯に起きて夜の時間帯に眠る生活である。午前中の酒場宿ヤマサンは客足が鈍く暇そうだった。ふらふらのツクシが地下の定宿へ帰還すると、丸テーブル席に座ったゲッコがテトとボード・ゲームをしていた。碁盤目で区切られた四角いボードの上で色々な種類の兵隊駒を使って対面の王様駒を取り合うゲームだ。ツクシが見た感じ将棋とよく似たゲーム性のようだった。ゲッコとテトは金銭を賭けて遊んでいた。金貨が山と積まれているのはテトの前である。
テトがゲッコをカモっている。
「師匠、ゲッコニ内緒デ修行シテキタ。ズルイズルイ!」
ゲッコがボードの上に並んでいた駒を、トカゲの手でわしゃわしゃ崩しながら珍しく怒った様子を見せた。今のツクシは見るからに憔悴している。何か特別な力を得るために修行をしてきたと勘違いされてもおかしくはない。
実際にはその力も懐も根こそぎ奪われてきたのだが――。
「――ツクシ?」
絶対優位だった賭けを無効にされたテトは顔を上げずに呼びかけた。
「なぁんだぁ、テトぉ?」
ツクシはヨボヨボしている。
「香水の匂いがプンプンする。ツクシが何をしてきたか、いわなくてもまるわかりだから」
テトが金貨をかき集めた。
「ゲッ、ゲロロロ――」
ゲッコはテトの財布へ消える自分の稼ぎを凝視している。
「おっ、おう。テト、そんなに匂うか?」
ツクシは自分の身体の方々を必死でくんかくんかした。女の色香を鼻孔の奥の奥にまですり込まれて嗅覚が馬鹿になっている。自分ではよくわからない。
「サラ姐さんとルナルナ姐さんがよくつけている香水だよね」
テトがボード・ゲームを小脇に抱えて立ち上がった。
ツクシへ一度も視線は送らない。
「た、助かったぜ、テト。
ツクシが視線を落とした。王座の街の公衆浴場はメルロースに隣接する堕落の園よりも入浴料がずっとずっと安い。
「あっ、お帰り、ツクシさん。ちょうどよかったべ」
声をかけたのは表から入ってきた店主のジョナタンである。
「おっ、ツクシ。先月分の宿泊代の払いをそろそろ――」
連れ立って入ってきた酒場宿ヤマサンの経営者――トニーもツクシへ声をかけた。
「ジョナタン、トニー、本当にすまん。この通りだ。宿泊費の払いをどうにか来月へ伸ばしてもらえねェか――」
ツクシは両手と両膝をついて額を床へ擦りつけた。
「ゲロゲロ。師匠、ソレハ!」
ゲッコがゲコゲコ叫んだ。ツクシは土下座である。驚きが過ぎて無表情になったジョナタンとトニーはその場で足を止めて土下座のツクシを見下ろしている。
肩を小さく震わせたツクシは顔を上げられない。
「クズ男!」
カウンター・テーブルの裏を歩いていたテトは土下座のツクシを横目で見やって、苦々し気に吐き捨てた。
ツクシから細かい事情を聞いて、
「――ツクシさん。メルロースは庶民が通えるような店じゃないべ」
ジョナタンは苦笑いだ。
「うん、あの娼館は階級の高い兵隊さんだとか、各省庁のお偉いさんだとか、貴族や大市民階級の大金持ちが主な客層だからなあ」
やはり苦笑いで頷いたトニーが床で正座のツクシへ目を向けた。トニーとジョナタンは丸テーブル席の椅子でツクシの話を聞いている。
気まずいツクシはまだ床から腰を上げられない。
「んだべなあ。メルロース本店は城下街の一等地にある高級娼館だしなあ。そもそもメルロースへ入場するには会員証が必要だって話だべ。ツクシさん、どうやってメルロースへ入ったんだ?」
ジョナタンは難しい顔だ。
「ツクシ、城下街付近の金持ち専用の歓楽街にメルロース本店はあるんだよ。劇場が並んでいる大通りの裏手な。その店構えも、そりゃあ、ものすごくってさ。あれはちょっとしたお城だよなあ。田舎貴族――地方から王都へ出張してくる貴族は、大タラリオン城より先にメルロースを目指すって、そんな冗談もあるくらい有名な娼館なんだぜ」
王都生まれ王都育ちの王都っ子であるトニーは王都の細かい事情に詳しいのだ。
「――なるほど、納得だ。あれは超高級風俗店だったんだな。さすがの俺も今回ばかりは
ツクシは床に正座のままうなだれた。
「ツクシさん。確かにあんたは馬鹿だべ」
ジョナタンが深く頷いた。
「馬鹿だ馬鹿だといわれても今日はぐうの音も出ねェよ――」
ツクシが呻いた。
「いや、ツクシ。そういう話じゃなくってさ」
トニーが苦笑した顔の前で手を振った。
「――ん? 何なんだ?」
ツクシが顔を上げた。
「まあ、ツクシさん、話はわかったから腰を上げてくれ。いいから、椅子に座って座って。ええと、例えば――メルロース裏手の呑んだくれ通りだって、なあ、トニーさん?」
ジョナタンがトニーへ視線を送った。
「うんうん――」
腕組みしたトニーが二度頷いた。
「――おい、お前ら何だよ?」
ツクシが椅子へ腰を落ち着けて顔をしかめた。
足が痺れている。
「ツクシさん。王座の街にあるモグリの娼館にだって、探せば上玉がいないわけじゃないって話だべ」
ジョナタンが真顔でいった。
「戦争で地上の景気が悪くなる一方だからさ。最近は王座の街に流れてくる売れっ子娼婦も多いんだ」
トニーも真顔だ。
「へえ、お前らは随分と王座の街の女遊びに詳しいみたいじゃねェか――」
ツクシの三白眼へ気迫のようなものが戻ってきた。
「そりゃあ、まあ、トニーさん、だべなあ?」
「俺たちは王座の街で暮らしているからな?」
ジョナタンとトニーがねちっこい微笑みを交換した。
「おい、手前ら。モグリの娼館なら、金貨二、三枚で満足するまでアソべるのかよ?」
ツクシがぬらぬら殺気立った。
ついさっきまで猛反省した態度を見せていたがやっぱり全然懲りていない。
「何をいって――ツクシさん、その予算なら十二分だ!」
ジョナタンは大声だ。
「おいおい、ツクシさあ、それだけ出したら余裕でお釣りが帰ってくるぜ――」
フフン、と唇の端を曲げたトニーが、
「俺のお勧めの店は、呑んだくれ通りを少し北へ外れた場所にあるだな――」
「いやいや、トニーさんのお勧めはちょっと高い。オラのお勧めはウチの店から西へ行ったところにある――」
熱く語りだした二人の既婚男性の背へ、
「――ちょっと、あんた?」
「――ちょっと、トニー?」
女性二人分の声だ。
「何だべ?」
「うん?」
振り向いたジョナタンとトニーが下卑た笑顔のまま凍りついた。
「アナーシャ、私たちの
「そうだね、パメラ」
背後で彼らの女房――パメラとアナーシャが視線を交わした。腕組みをした二人の女房はとても怒っている様子である。カウンター・テーブルの向こうでアナーシャの息子――チコを抱いたテトが悪い顔で笑っていた。
裏手の厨房で仕事をしていたパメラとアナーシャへテトが
§
「――おう、戻ったぜ」
午後のゴルゴダ酒場宿へ、いつもの挨拶と一緒にツクシが帰還した。
「ゲロゲロ!」
ゲロゲロと帰還の挨拶をしたのはゲッコだ。
「おっと、ツクシの旦那! 元気そう――」
最初に挨拶を返したのは、丸テーブル席で算盤を片手に帳簿を睨むエイダと何やら話し込んでいたラウだった。
しかし、
「元気そうでもありやせんねえ。旦那、随分と顔色が悪いですぜ。またネストで人死がでましたかい。そりゃあ、お気の毒にねえ――」
挨拶を途中で引っ込めて、ツクシの顔をマジマジと見つめたあと、視線を落としたラウはお悔やみを述べているような口調になった。
「ああいや、ラウさん。そうじゃねェんだ――」
ツクシも視線を落とした。
「へえ、そうなんですかい? あ、ゲッコ、ちょうどいいところへ帰ってきたな。すぐ風呂の掃除を手伝ってくれ。モグラが買い出しでいねえんだ」
ラウが声をかけて裏口へ向かった。
「師匠、ゲッコ、オ仕事。ゲロ、待ッテ待ッテ、ラウサン――」
ゲッコがラウの背をペッタラペッタラ追ってゆく。
「おう、ゲッコ、忙しいな」
ツクシがいったところで、
「ツクシ、ようやく帰ってきたね。ちょっとそこへ座りな」
近くの丸テーブル席から唸り声が聞こえてきた。
これは鬼の唸り声である。
「お、おう、どうした、女将さん、かなり機嫌が悪そうだが――そ、そんなに宿の売上が悪いのか?」
目を泳がせたツクシの声が裏返った。
エイダは席から振り返りもしない。
「いいから、ツクシ、ちょっと座りな――」
鬼の背をツクシへ見せつけたまま、エイダはもう一度、雷鳴のように唸った。
「お、おう。な、何の用事かな?」
ツクシはぶつぶついいながら、エイダの対面にあった椅子へ腰を下ろした。
視線を卓に置いて何かじっと考え込んでいる様子のエイダは無言だ。
「――ああ、その、女将さん?」
ツクシは対面に鎮座する緑鬼へ恐る恐る声をかけてみた。
「なんだい、ツクシ、いってみな?」
エイダの視線が上がってツクシの心臓を射竦めた。
超怖い。
「ああ、その、や、家賃の払いのことなんだがな――」
ツクシの声が震えている。
「ああ、家賃の支払いがどうしたんだい、ツクシ?」
頷いたエイダが怖気立つような角度で唇の片端を吊り上げた。
「あっ! あのだな。その――さ、財布をうっかり落としちまってな――!」
ツクシが
「へえ、ツクシ、それは不注意だったねえ。そりゃあ、たいへんだ――」
エイダは諦めたように視線を落とした。
「そ、そうなんだ、たいへんなんだよ、女将さん。俺の不注意でな。馬鹿な話だ。だから、もうひと月だけ、家賃の支払いを何とか伸ばしてもらえないかな、とかな――」
これはひょっとすると、このまま押し切れるかも知れん――。
そう判断したツクシの言葉が熱を帯びる。
「そうかい。財布を落とした、ねえ――どうだい、ユキ?」
エイダが伏兵に声をかけた。
「――女将さん。ツクシのおさいふ発見」
丸テーブルの下から猫の声だ。あっと表情を固めたツクシが自分の腰元へ目を向けた。卓の下に潜っていたユキが剣帯右についたポーチからツクシの財布を徴収済だった。ツクシはいつもこの場所へ自分の全財産を入れている。もっとも財産といえるような財産を、この男はたいていの時間帯で持っていないのだが――。
「――クソッ! この猫めがまた余計な真似を!」
ツクシは怒鳴ったが、ユキは涼しい顔で卓の下から這い出てきた。
「ツクシは王座の街で不健全なお遊びをいっぱい楽しんできたのでしょう? それはやっぱり、ツクシの大好きな、すごく若くて、小っちゃな女の子がお相手だったのかしら?」
熱い吐息と一緒に、渾身の殺気が篭った言葉が、ツクシの左耳へ流れ込んできた。
「――おう、ミュカレかよ。なっ、何のことか、俺にはよくわからねェな。ミュカレはひょっとするとエルフでなくて、ゲスパーってやつなのか?」
ツクシはいい加減な発言で誤魔化そうとした。
「誤魔化しても無駄――」
ミュカレは激流のような殺気でスカイ・ブルーの瞳を揺るがしている。
「――あっ! ああ、いい間違えてた。さ、財布でなくて金だけを落としたんだよな。こう、都合良くコロコロコロってな。ホレ、
ツクシはまだまだ誤魔化そうとした。
「ゴロウは二日前にもう帰ってきてたし」
ユキの発言である。
「だっ、黙れ黙れ、この猫めが!」
ツクシは卓の脇でそっぽを向いているユキをガリガリ睨みつけた。エイダやミュカレと違ってユキにはツクシをブッ殺すほどの能力はない。猫耳と猫のしっぽはある。だから、ツクシもユキに対してだけは強気だ。
「ゴロウが二日前にウチへ寄っていったし!」
自分を睨むツクシを、クワッとまっすぐ睨み返してユキが吠えた。どうやら、ツクシより先に地上へ帰還したゴロウはゴルゴダ酒場宿に寄って一杯ひっかけたようだ。
「二日間、ツクシはどこで何をしてたの。返答次第では命まで取らないかもよ?」
ミュカレが病んだ声で唸った。
「ツクシ、アンタがどこで何をしようが、それは大人の勝手ってやつさね。しかし、ウチの支払いをすっぽかして無駄な散財をしてきたとなると、これは話が別になるんだよ。いくら馬鹿なアンタでも、このくらいは理解ができるね?」
エイダも鬼の声で唸った。
「クソ、余計なことをしやがって、あの赤髭野郎が――お、おう、そうだった。それで思い出したぞ!」
腹いせにゴロウを罵ったツクシが演技で驚いた顔を作った。
「へえ、ツクシ、何を思い出したんだい。先月分の家賃の支払いかね? それとも溜め込んだ酒のツケのことかねえ?」
エイダがゴロゴロ唸った。
「お、俺はそのゴロウに野暮用があったんだ。いや、急用だな。これからすぐに出かけないといかん――」
ツクシは腰を浮かせたが、
「ツクシ、逃がさないよッ!」
咆哮と一緒に卓へ叩きつけたエイダのぶっとい腕がその逃亡を断固阻止した。
「おっ、おう――」
ツクシは椅子へゆっくり尻を戻した。
硬く分厚い一枚板の丸テーブルがエイダの一撃で見事に真っ二つである。
ここから逃げるとツクシは死ぬ。
それからツクシは陽が沈むまで、エイダ、ミュカレ、ユキからお説教された。その最中、エイダは自分が破壊した丸テーブルの弁償をツクシへ押しつけた。これは、ツクシが宿に作った借金へ加算である。文句がなかったわけではないが、床に正座でうなだれたツクシは何もいえなかった。
ネストの再開放日まで一週間と半分は時間があった。
ツクシは本当に金がない。
ツケで酒を飲むのももう無理だ。
いつもエイダに内緒でツクシへ酒を運んでくれるユキやミュカレは、ずっとご機嫌斜めだったから、彼女らに何をいっても無視された。エイダの監視もいつもより二段階以上は厳しい。常時、感情のないマシーンのように給仕するマコトですら、空の杯を片手に物欲しそうなツクシから、あからさまに顔を背けている。
何もやることがなくなったツクシは、ペクトクラシュ河の河川敷で、走り込みをして休暇を消化することにした。身体を動かしていれば気が紛れるものだ。ツクシの無意味な走り込みにゲッコは喜んで付き合ってくれた。朝陽を浴び、次には頭上へ太陽を抱き、やがて赤い夕陽の光が照らすなか、二人は黙々と走り続けた。目つき鋭く凶悪な面相の中年男と怪物のような大トカゲが何の目的もなくただ走るだけの光景は、建設的だとも健康的だともいえないものだった。
面白くもなかったツクシの休暇はこんな感じで終わった。
§
場所は王座の街の酒場宿ヤマサンである。
地上で修行僧に近い禁欲的な生活を送って、心身の均衡を取り戻したツクシが、
「おう、ゴロウ。キルヒはどうだったんだ。何か悪い病気だったのか?」
カウンター席で背を丸めて赤ワインをちびちびやっていたゴロウへ声をかけた。
ゴロウはキルヒを診察するため、ツクシより一足先に王座の街へ足を向けた様子だ。
「あ、ああよォ、おめェら、ようやく来たのか。待ちくたびれたぜ。おっしゃ、バリバリ働かねえとなァ!」
振り返ったゴロウは無駄に大きな声でいった。
「何だ、ゴロウ。妙に気合が入ってるな。どうした?」
ツクシが眉根を寄せた。
「ゴロウの様子が明らかにおかしいな」
ツクシの後ろでリュウが首を傾げている。
「ゲッコ、フィージャ?」
眉を寄せたシャオシンが視線で促すと、ゲッコとフィージャが所在なさげにしていたゴロウの左右へ寄った。
「ゲロロ? 今日、ゴロウ、変ナ匂イスル」
首を捻ったゲッコの判定だ。
「あ、ああよォ、ゲッコ。余計なことをいわなくていいからよォ――」
ゴロウが呻いた。
「香水の匂いですね。これ、かなりの高級品ですよ」
フィージャの嗅覚が、ゴロウに染みついていた匂いをズバリ探り当てた。
「ゴロウ、女か――」
「ゴロウ、女じゃな――」
リュウとシャオシンが同時にいった。
「あーッ! すぐにでも仕事へ行くぞ、おめェら!」
ゴロウは髭面を曲げて怒鳴った。
「ゴロウ、お前は女遊びが過ぎて寝惚けてるのか。ネストの開放は明後日からだろ。アドルフたちだってまだ
ツクシがそういっている最中に、
「やや、ツクシ、それにみんな、二週間ぶり!」
美少女っぽい笑顔と一緒に入店してきたゾラが片手を上げながら元気に挨拶した。
「よう」
このぶっきら棒な挨拶は猫耳と視線を横に逸らしたボゥイ副団長だ。
「みんな、休暇は楽しめたかい?」
控えめに笑いながら、イーゴリが訊いた。
「ツクシよ、仕事だあ仕事!」
最後にアドルフ団長が怒鳴りながら入店した。スロウハンド連合は今からここで次回のネスト探索の打ち合わせをする予定になっている。
「おう、アドルフたちかよ。ああ、仕事なあ。まあ、俺も大至急、金が欲しいがな。大至急――」
ツクシが渋い顔になった。
長期休暇中、あちらこちらで借金が増えた上、今日もツクシは無一文に限りなく近い。
「お前もかよお、ツクシ。俺も金欠だぜ。有り金を全部ムシられちまってよお」
アドルフ団長も金に困っているようだったが、表情はさほど深刻そうでもなかった。
「有り金を全部かよ。それは穏やかじゃねェな。アドルフは
ツクシが何となく訊くと、
「いやあ、ツクシ、女だよ。メルロースにな、冷やかしに行くつもりが、すっかりオケラだぜ。懐もきんたまもスッカラカンだ。あそこは実にいい女が多いなあ――ガハハハッ!」
アドルフ団長は言葉の最後に笑った。豪快に散財するのが信条のアドルフ団長は、こんな強面でも商売女に結構人気があるとかないとかだ。
「メルロースか――おい、ゴロウ?」
ツクシは視線を落として呼びかけた。
「あ、あんだァ、ツクシ?」
ゴロウは何だか落ち着かない様子である。
「まさか、お前もサラとルナルナに――」
ツクシが顔を寄せて極々低い声で訊いた。
「あ、ああよォ。おめェもあの姐さんたちに全部ムシり取られて――」
目を丸くしたゴロウがツクシの不機嫌で深刻な顔を見つめた。
「ああ、いや、ゴロウ。もういい。応えなくていい。それ以上喋ったら俺は間違いなくお前をブチ殺すぜ。知りたくねェからな――」
ブチ殺すだとか凄んでみたもののだ。
うつむいてゴロウの話を遮ったツクシの声はとても小さいもので、いつもの迫力はまったくなかった。
がっくりうなだれたゴロウも返事をしない。
「ゲロロ?」
鳴いたゲッコが首を捻った。
暗い顔のツクシとゴロウを尻目に、近くの丸テーブル席についたスロウハンド連合の面々は打ち合わせを始めた。
(十章 地下二五〇〇メートルの復讐 了)
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