六章 魔刀、月下を奔る
一節 ゴルゴダ酒場宿の長い一日(壱)
ツクシは
下りエレベーターキャンプへ帰還したのは、ネスト・ポーターの運送作業が開始される時刻だった。一昼夜、一睡もせずにネストを歩き回ったツクシはとても疲れていたし眠かったのだが、帰還したところで起床ラッパが鳴り響いた。女王様の別荘で散々酒を飲んだくれたツクシは、けたたましい起床ラッパの音に頭痛を覚えた。ゴロウとヤマダもロッシ一等兵も顔をしかめていた。だが、兵士が起床ラッパを鳴らす必要は全然なかったのである。
下りエレベーター・キャンプは下層からネスト制圧軍団の臨時編成大隊が失踪者探索のために到着して大騒動になっていた。エレベーター・キャンプで一夜を過ごしたネスト・ポーターたちも起床ラッパが鳴る前に、そのほとんどが目を覚まして事態を見守っていた。下層から応援に駆けつけた部隊がこれから探索しようとしていたのは、失踪したゴードン兵長とロッシ一等兵、それに、連絡が取れなくなった第〇一一武装布教師隊だった。
そのついでだ。
ツクシとゴロウとヤマダも探索の対象に指定されていた。そんな騒ぎになっているところを、のこのこ帰ってきたツクシたちへ一斉に兵士の銃口が向けられた。無断でエレベーター・キャンプを抜け出したツクシたちは失踪者扱いではなく、ネスト兵士失踪事件の重要参考人になっていたのである。
眼前に並ぶ銃口を見て、ツクシが最高に不機嫌な顔を見せた。
ゴロウとヤマダは真っ青な顔になった。
ロッシ一等兵は気まずい表情を見せながら両手を上げた。
ゴードン兵長がいれば、何とか言い訳も成り立ちそうであったが、古強者は自分の意思で帰ってこなかった。
拘束されたツクシたちへの事情徴収が始まった。
兵士天幕のなかで事情聴取をしたのは、先日もツクシがネストで顔を合わせた男だ。口を真一文字に結んだ生真面目な軍人のバルデス少佐である。尋問中、エリファウス聖教会の異端審問課の長、エミール・エウタナシオが率いた武装布教師隊の全滅が判明すると、バルデス少佐は顔色を変えた。この時点で、補給物資の運送作業は中止されてネスト・ポーターは地上へ帰還した。ツクシとゴロウとヤマダは、ネスト管理省の敷地内にある管理省憲兵隊の詰め所――実質は、ネスト管理省の牢屋へ連行された。
逮捕である。
タラリオン王国の司法制度は日本のそれと違って効率的といえる。犯罪者もしくは犯罪容疑者に対しての死刑執行率が非常に高い。身分にもよるが、罪を犯したもの、または罪を犯した容疑を掛けられたものは、まともな取調べも裁判もなしであっさり死刑になる事例がたいへん多い。軽犯罪を犯したものでも警備兵の気分次第で容赦なしだ。王国軍に対する犯罪となれば、これは間違いなく死罪になる。処刑方法はたいていの場合、そこいらの木の幹に縄をかけて、罪人の首を吊るす単純なもので手間要らずだった。罪人の死体はそのまま放置して、カラスや犬に食わせ、とっくり見せしめにしつつ処分をする。反社会的人物の処分に関してタラリオン王国の司法制度は非人道的なれど経済的を貫いている。王都の郊外へ行くと、そこらじゅうの木々の幹から罪人の死体がたくさんぶら下っているので、景観的には良いものではない。
ともあれ、ツクシたちは生命の危機にある。
ツクシは一計を案じ、地上へ帰還が許可されたニーナたちを通じてアルバトロスと連絡をつけた。このアルバトロスは過去、タラリオン王国の政府機関の重要なポストにいたようで、王国軍の最高司令部――三ツ首鷲の騎士団の騎士ジークリット・ウェルザーとも連絡がつくらしい。
お役所相手の面倒事も、アルさんなら何とかしてくれるかも知れん――。
ツクシはそう考えた。だが、アルバトロス曲馬団はしばらく前に冒険遠征へ出かけている。ゴルゴダ酒場宿にアルバトロスが帰還しているかどうかはわからない。これは、ツクシの賭け(もしくは苦し紛れ)であったが、果たして、悠里を伴ったアルバトロスがネスト管理省へ駆けつけて交渉をしてくれた。そのついでに、ゴロウとヤマダも釈放された。
「ツクシ、今度は何をやらかした!」
当初、アルバトロスは豪快に笑っていた。
しかし、ツクシが事情を説明して、
「――こんなわけなんだ。アルさん、ジークリットと連絡をつけてもらえるか?」
そう頼み込むと、アルバトロスは露骨に嫌そうな表情になった。
そして、現在はツクシがネスト管理省によって拘束された二日後である。
平日の午前中だがゴルゴダ酒場宿の従業員が走り回っていた。立っているときのエイダはいつもドスドス忙しなく動き回っているのだが、本日はミュカレやユキまでバタバタしているし、ついさっきは滅多なことで厨房から出てこないセイジまで小走りに表へ出て行った。それに、グェンたちも荷を持って宿へ出たり入ったり丸テーブルを移動させたりと騒がしい。
ツクシはそのガタガタ騒がしいゴルゴダ酒場宿のカウンター席で、ダーク・ラムのグラスを傾けている。
「迷惑の侘びに、これをアルさんに飲んでもらおうと思っていたんだけどな――」
ツクシは卓の上にあるダーク・ラムの瓶を見やった。そのアルバトロスは悠里を伴って今朝早く慌てて出ていった。ツクシが酒を注文したくても、今日は誰もかれも忙しいようで相手をしてくれない。なので、ツクシは仕方なくネストから拝借してきたこのラム酒のボトルを開封した。酒を注文して飲もうにも、ツクシはたいした手持ちもない、という事情もあるのだが――。
そうしていると、ニーナがリカルドを伴って顔を見せた。ニーナは若草色の軽快なドレスであり、リカルドはシャツにベストと黒いズボン姿だ。今日は二人とも導式鎧姿ではない。
ツクシの無事を確認したニーナが切れ長の瞳に涙を溜めた。
リカルドの病気もだいぶ良くなった様子で顔の色ツヤが良かった。
「ツクシよ、何をやったのか知らんが、我輩の娘が随分と心配しておったぞ」
リカルドがカイゼル髭を動かして笑った。
「今回、俺は何もやってねェぜ。面倒事に巻き込まれたんだ。悪運自慢だな」
ツクシも口角を歪めて見せたところで、リカルドがラムの瓶を見て目の色を変えた。
「リカルドさん、快気祝いに一杯やるか?」
ツクシがその誘いを――思いとどまった。
横目でリカルドを睨むニーナの目つきが剃刀のようなものになっている。
リカルドは病み上がりだからニーナの対応が正しい。
「ツクシ、今日は宿が忙しそうだから、これで失礼するわね」
非情な声音でいうとニーナはリカルドをつれて帰っていった。宿を出るまでに二度三度振り返ったリカルドはラム酒にかなりの未練があった様子である。
ニーナにだって未練はあった。
だが、別れ際、
「ニーナ、アルさんに連絡をつけてもらって、助かった」
ツクシが感謝を伝えたので、それでもニーナは気分良くゴルゴダ酒場宿をあとにした。リカルドはそうでもない。
そのうち、丸テーブル席の上に子供たちの手で真っ白なテーブル・クロスがかけられた。それを見てツクシは、どうやら今日は、ゴルゴダ酒場宿に団体の予約客があるようだなと考えた。
「今日は全然構えなくて、ごめんね、ツクシ」
声をかけたミュカレがカウンター席から動く気配のないツクシの後ろをふわふわ走り回って、白い化粧をした丸テーブル席へ皿だのフォークだのスプーンだのを並べ立てている。その食器類は普段使う野郎どもがいくら乱暴に扱っても絶対に壊れない頑丈な品々と違って、繊細で高級そうなものばかりだ。
独りラム酒を呷るツクシの背に、
「ツクシ、ツクシ!」
「良かった、無事に帰ってこれたか、ツクシ!」
「本当に心配しましたよ」
女の子たちの声が掛かった。
シャオシンとリュウ、それにフィージャである。
忙しい筈なのにさっと歩み寄ってきたミュカレが、
「あら、ツクシ、また新しい浮気相手? へえ、今度はまた、随分と若いわね――」
今日のシャオシンは、だぼっとした薄手の白いシャツに、極短い山吹色のショート・パンツ姿だった。おしりがキュッと上がって脚は長く、顔も抜群に良い、金色の長髪を編み編みお団子にしたシャオシンは、どんな洋服を着ても間違いなく美少女であるという結論に落ち着く。
「エルフじゃ、エルフじゃ、綺麗じゃのう!」
喋ると残念な感じの美少女シャオシンがミュカレの美貌を見上げた。
女性にしては背が高いミュカレと比べるとシャオシンはだいぶ背が低い。
「あらあ、エルフがそんなに珍しい?」
綺麗の単語に反応したミュカレが、プラチナ・ブロンドの長髪を手で跳ね上げて、きらきら輝かせた。
「うむ、珍しいぞ。ウェスタアリア大陸にエルフはほとんどおらんからの。噂通り、本当に耳が長いのう。ところで、エルフは
シャオシンの瞳が「教えろ、教えろ」と輝いた。
「陰陽――ああ、
ミュカレはスカイ・ブルーの瞳にきらめく水流を湛えた。
「ほうほう。わらわの名はホァン・シャオシンじゃ。よろしくな」
シャオシンが眩しく笑った。
「――ん? ツクシと同じ倭国読みの名前かな? よろしくね、シャオシン」
ミュカレが小娘に負けじと眩しい微笑みを返した。お互いの顔にある美と美が真っ向から激突して殺伐とした印象さえ感じさせる、そんな微笑みの応酬である。美貌を衝突させているのは双方ド金髪であるし、日中の明るい光が差し込む店内なので目に眩しい。
ちゃんと自己紹介をしたのを見届けてから、
「シャオシン、そうジロジロと見るな、ミュカレに失礼だろう」
リュウが窘めた。
「すいません、ミュカレさん」
フィージャが無い眉を寄せて頭を下げた。
「あら、リュウ、フィージャ、いいのよ」
ニッコリと微笑んだミュカレが、
「――ところでツクシさん、何人分の浮気をすれば気が済むの。三回くらいは、溺れ死んだほうがいいのかな?」
ツクシへ笑顔のまま殺害回数を予告した。
その瞳はもう笑っていない。
ツクシは真横に接近してきた殺気漂う人外の美貌を横目で眺めながら、
「ミュカレ、お前、今日は忙しいんだろ。遊んでいないで働けよな――」
「そうだよ、ミュカレ、手が空いたらさっさと厨房を手伝いな!」
奥の厨房から大砲のような怒鳴り声が聞こえた。これはエイダである。ツクシの耳元で、「ちっ!」と舌打ちをしたミュカレが厨房へ向かってふわりとステップを踏んだ。
「ああ、ところでツクシ、ゴロウとヤマはどうだった?」
「ゴロウさんとヤマさんは、大丈夫でしたか?」
リュウとフィージャが同時に訊いた。
ツクシがカウンター席の背もたれに肘をかけて、
「ああ、ゴロウもヤマさんも無事に――クソが!」
シャオシンはいうまでもなく美少女であるし、リュウだって男前系の美人である。狼の顔を持つフィージャはヒト族から見ると美人かどうかを判断しかねるが、全身を覆うもふもふとした美しい毛並みを眺めていると癒される。ツクシはこいつらを眺めながら酒を飲むのは大いに歓迎だと考えた。
しかし、見るもむさ苦しい赤い髭面が三人ならんだ美人の横にひとつ追加されている。
「いよう、ツクシ。ほォ、今日はラムかァ。昼間からいいものを飲んでいるなァ!」
ゴロウは歯を見せてニヤニヤ笑った。
「ゴロウ、俺は今、お前の髭面を絶対に見たくねェ気分なんだ。だから、すぐ帰れ。ところで、ヤマさんはどうした。今日は休みの筈だろ?」
ツクシはゴロウを拒絶したが、構わずにゴロウはツクシの横へ腰を下ろした。
「ああよォ、ヤマも今朝方ここへ誘ったんだけどよォ。今日は臨時で酒屋の仕事があるらしいぜ。何だかヤマは深刻そうだったぞ。商売が上手くいってないのかもなァ。俺ァ、こう見えても往診帰りだ。忙しいんだよォ、俺ァよォ、誰かさんと違ってなァ――ところで、おい、ツクシ。そのラム酒の瓶を女王様のところからパチってきたな?」
ゴロウは悪い笑顔である。
「ヤマさん、ネストの南に住んでいた筈だがな。最近になって引っ越したのか?」
ツクシはラムのグラスに口をつけながらしらばっくれた。
「ヤマは下宿を――ボルドンのところを引き払って、うちの近所に越してきたんだ。つい最近なァ。女衒街が気に入ったんだとよ――ツクシよォ、おめェは顔同様に手癖も悪い野郎だなァ、え?」
ゴロウはさらにニヤニヤ笑いを大きくした。ゴロウの推察通りである。このラム酒のボトルはツクシがフロゥラの私室から無断で拝借してきたものだ。拝借といっても飲んでしまえばなくなるものだから立派な窃盗である。
「へえ、ヤマさん、今は女衒街に住んでるのか。それは羨ましい。
窃盗犯のツクシはまだしらばっくれている。
「まァ、それを俺も一杯もらうかなァ!」
ゴロウは大声でいった。
舌打ちをしたツクシが、
「結局、それかよ。まあ、いいや――おーい、ユキ、グラス持ってきてくれ。こっちの三人娘にも頼む。ああ、
そのユキは酒場宿の正面の出入口から、大きな花束で顔を隠して(なんと、本日のゴルゴダ酒場宿は、丸テーブル席を生け花で飾りつけるらしい)入ってきた。忙しいユキは返事をせずに厨房へ走り去ったが、猫耳をツクシの方向へぴこぴこ向けながら、しっぽを大きく左右に振ったので注文を承諾したようだ。
最近のツクシはちょっとした仕草だけでユキの意思がわかるようになっている。
ツクシの右隣へ腰かけたシャオシンが、
「ツクシ、わらわは
「へえ、大人かどうか今から確かめてやろうか?」
ツクシはぬめぬめっとした視線をシャオシンへ突き刺した。
「あひぃっ!」
悲鳴を上げたシャオシンは、ふるふる震えながら上目遣いでツクシの視姦に抵抗している。リュウとフィージャは無言で突っ立ったままぬらぬらするツクシを睨んでいた。
「――ああ、おう。リュウ、フィージャ、お前らも座れ、座れ」
冷たい視線に気づいたツクシが彼女たちに着席を促して誤魔化したところで、お盆を持ったユキが厨房から出てきて、
「もう、わたし、忙しいのに。ツクシのばか!」
そう吼えながら、グラスとオレンジモドキ・ジュースを乗せたお盆ごとカウンター・テーブルへドンと置いて厨房へ戻っていった。臀部からにょろんと突き出たしっぽも不機嫌に暴れている。今は忙しいから自分たちで勝手にやりやがれ、ということなのだろう。ユキはウェイトレスだが同時に猫耳美幼女だから、このくらいの接客態度でも結構許されてしまう。実際、ゴロウはさっそく自分のグラスへラム酒をダバダバ注いでいた。
「ツクシよ、教えろ。あの夜、ネストで何があったのじゃ、わらわは興味があるぞ。気になって夜も眠れんぞ――ツクシ、ツクシ、そのジュースを取ってほしいのじゃ、わらわの手が届かんではないか!」
シャオシンはツクシの膝で腹ばいになって、無理矢理に飲み物へ手を伸ばしながらわがままを吠えた。カウンター・テーブルは横に長いので一番右端に座っているシャオシンから届かない位置にお盆がある。ツクシの両膝の上で華奢な美少女の感触がパタパタしている。
ツクシにとって羽毛布団くらいの重量――。
「――あのな、シャオシン、立って動け。おい、ゴロウ、ジュースを取ってくれ」
ビビリの癖に無防備な奴だな――。
ツクシはシャオシンの白く細いうなじを視線で舐め回しながら、ゴロウからオレンジモドキ・ジュースの入ったタンブラーを受け取った。
「うちの姫様は横着でな。よくないぞ、シャオシン、自分でやりなさい」
リュウが小言をいった。
返事がない。
シャオシンはタンブラーに鼻を近づけてくんくんしている。
「そうですよ、何でも他人に頼むのは、よくありませんよ、ご主人さま」
フィージャがリュウを援護した。
「――おお、これは酸っぱいのじゃ」
二人分のお小言を無視して、オレンジモドキ・ジュースに口をつけたシャオシンの感想である。
「嫌いか? 俺はそれを毎朝飲むぜ。酸味が癖になる」
ツクシはラムで喉を焼いた。
「酸っぱい、酸っぱい」
顔を上げて、シャオシンが笑った。未熟さがたくさん残る笑顔である。
十四歳は、まだ
ツクシはこれまでシャオシンへしてきた行動を少しだけ反省しつつ、
「リュウとフィージャもラムをやれよ。華香酒の礼もある」
「あァ、どんどんやれ、これはツクシの奢りだ。まァ、奢りといっても、タダ酒みたいなもんだがなァ――」
ニヤニヤ笑いのゴロウが、リュウのグラスへラムを注いだ。
「おお、すまんな、ゴロウ。ほう、これは強い香りだ」
笑顔のリュウがグラスを傾けた。肩部分を落とした詰襟の、金色のラインで縁取りがされた黒いドレス姿のリュウが、火のつくような強い酒を飲む様はなかなか絵になる。その胸元が非常に頼りないので画竜点睛を欠く絵ともいえる。頼りない胸の代わりに、スカート側面に切れ込んだスリットから覗く白いふとももが女性を主張していた。
ツクシはフィージャが酒を断ったのを見て、
「ああ、フィージャは水がよかったか?」
「はい、私はお水がいいです――」
フィージャが申し訳なさそうに応えた。
「おーい、ユキ、水を一杯、フィージャにやってくれ!」
ツクシが吼えない獣人の代わりに厨房へ吼えた。
「――わたし、今日は、ちょう忙しいし、ツクシのばか!」
ユキの返事はツクシをばか呼ばわりにした。慣れたものなので、ツクシはもう何とも思わない。
フィージャの前にユキの手で水のグラスが置かれた。
「ありがとう、猫人の可愛いひと」
ツクシをキリキリ睨むユキへ、フィージャが謝意を伝えた。
「んっ、
顔を傾けたユキが眼を細めて自己紹介をした。
老若男女のハートを撃ち抜く猫耳美幼女のあざとい微笑みである。
「これは失礼しました。半獣人の方でしたか。ユキ――雪。ぴったりの名前ですね。私はフェンリル族のフィージャ・アナヘルズです」
フィージャは白い獣の牙をカッと見せつけた。
「――うっぐぅ!」
ユキは牙を剥く狼の顔を凝視した。
猫の瞳がこぼれんばかりに見開かれている。
「ユキ、驚かなくていいぞ。それがフィージャの笑顔らしい」
ツクシがいった。
「まァ、最初は驚くよなァ――」
グラス片手のゴロウは苦笑いだ。
「フィージャ、お前の笑顔はわかりにくいのだ」
リュウが
「猫人の娘よ、フィージャは噛まぬぞ」
眩く微笑んだシャオシンがやんわりといった。
「ごめんなさい。驚かせて――」
フィージャがうなだれた。
「――フィージャ、わたしも牙があるよ!」
ユキが尖った犬歯を見せながら、あざとくない笑顔を見せた。
半獣人のユキも犬歯が鋭い。
フィージャが顔を上げて今度は控えめに白い牙をユキへ見せた。
ツクシは小さな牙と大きな牙を見比べながらグラスを傾けた。
ダーク・ラムの甘い香りが口いっぱいに広がる。
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