言葉を花束にして

 有吉弘行とマツコ・デラックスがTV番組でトークしていて、蕎麦屋さんでの「そば湯」の話題になった。ドロドロ派かサラサラ派か? という話題のあとで、有吉がこんなエピソードを語った。

 ある日入ったそば屋で食べていたら、常連らしき人がお店に入ってきて、店員と親しげに話をしだした。今日のそば湯はどうだい? という問いかけに店員が「今日そば湯あんまり出てない。今日あんまり注文入ってないから、そば湯全然ダメよ」と言うのが、有吉の耳に入ってきた。

 なのに、オレにはポンとそれが出てきて。でもそれって美味しくないやつなんでしょ? オレには美味しくないの出された! そんな風に、その時の複雑な心情を語った。マツコはフォローで「きっと、その常連さんがドロドロ好きな人で、そうじゃないとクレーム入れそうな人だったのよ。だから先手を打ったのでは」と言うも、有吉はどこか納得いかなさげだった。「オレ、バカにされたんじゃね? あんなヤツに教える必要ねぇって」

 ここで、店員にはふたつほど落ち度がある。



①その人にだけしかしてはいけない話を、他にも聞こえるような声のボリュームでして事情を知らない客を疑心暗鬼にさせた罪。配慮がない罪



②「そういやお客さん、ドロドロ好きだもんね。今日はさ、数があんま出てないからちょっと好みとは遠いかもしれないですけどいい? でも、薄いの好きな人も結構いるし、これはこれでおすすめではあるんだけど」

 そんな風な言い方をしていたら有吉はカチンとこなかった。店員は意図して有吉を不快にさせようとは思っていなかったはずなので、つまりは言葉足らずな罪



 この世界のいざこざの原因は、言葉足らずと配慮不足にかなり集約できる。

 政治家が言葉足らずなのは、もしかしてわざとかもしれないが。言葉を尽くしてたくさん言ってしまうと、その裏にある見せにくい本音を悟られてしまうから適当にきれいな言葉で濁す。

 また、政権が「育児休暇中にリスキリング(学び直し・資格取得)ができるよう後押しする」と言ったようだが、これも「実際に平均的給与で育児を体験していない政治家の、無神経(配慮がない)な言葉」である。

 筆者も、奥さんや子どもたちと日常接していて、やはり配慮不足や言葉足らずで多少ぎくしゃくする事態は生じる。それに気づくたびに反省の日々だ。ああ、自分も日々こんなメッセージを紡ぎながらも個人としてはまだまだ、って。



 失敗は恐れなくていい。恐れるべきは、失敗したあとにヘンなプライドや意地で謝らなかったり、うやむやにしてそれを積み重ねてしまうこと。

 素直にすぐ謝るのもいいし、別のことで相手を褒めたり思いやりをにじませた言葉をかけるのもいい。定期的に「言葉の花束」を大切な人に贈ることができれば、あなたは少なくとも「平和」を体験できるはずだ。

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