Battle of 洗濯機

 いつも私は午前中に記事をひとつ書いてしまう習慣にしている。

 しかし、この世界では何でも思い通りにいくことは少ない。今日などは、自分がいかに個人の努力で予定を守ろうとしても、宇宙全体の摂理の前では無力に過ぎないことの実例を味わった。



 奥さんが、困り顔で相談してきた。

「洗濯機の脱水ができない」らしい。

 洗いとすすぎまでは作動したのだが、脱水になってエラー表示が出てそこからすすまないのだとか。脱水だけやりなおしてみたがやはり動かないようで、そうこうしているうちに奥さんは仕事へ行く時間に。家にいる私に「なんとかしといて」とお鉢が回ってきた。



 まず、私がしたこと。当たり前だが「脱水だけもう一度してみる」。

 以前、何かの機械が動かなくなった時に「何か特別なことをしなきゃ直らない」という先入観に駆られ、あーでもないこーでもないといじりたおし、それでも直らないので悔し紛れにただのフツーの操作をしてみたら……動いた。

 そんな経験もあったので、複雑な方法を試みる前にまずは普通に脱水のボタンを押してみた。やっぱり、動き始めで「ガクン」という音とともに停止してしまった。



 次に試したこと。洗濯ドラム内の洗濯物を均等に配置する。「片寄り」が原因で機械がエラー判定すると聞いたことがあるためだ。

 よく見ると、奥さんは無造作に大量の洗濯物を詰め込んでいた。お正月に出かけたりテレビばっかり見てしまったツケだ。これでは確かに、10年選手に近いうちの老洗濯機には荷が重かったかもしれない。

 洗濯物を半分ずつにわけ、二回に分けての脱水を試みた。量を半分に減らし、片寄りを解消してみたが、やっぱり動かない。



 八方ふさがりの私は、PCを起ち上げネットで検索。洗濯機メーカーのホームページやよくある対処法では、片寄りをなくすという当たり前のことしか書かれていない。それじゃどうにもならないんだよ! と私は検索結果の隅々まで眺めた。

 すると、『片寄りを解消しても脱水ができない場合の対処法』なる記事をやっと見つけた。そこに書かれていたのは——



●排水菅の掃除



 理想は月1くらいでするものらしいが、そんなこと知らなければ「買ってから一度もしていない」人も少なくないのではないか。現実に筆者は初めて知った。

 掃除などする発想がなくて、買ってからずっとほったらかしだと、それも脱水エラーの原因になるらしい。洗濯物の片寄りを直してもなおダメな場合はそれを疑え、と記事にはあった。

 ただ、大問題があった。今の筆者は健康上の問題で、腰をかがめての作業ができない。排水管と排水溝は地べたにあり、しかも家の外。場所も狭く、座ったり寝そべったりの作業は不可。いくら私が家にいて時間があるとはいえ、排水溝の掃除はちょっと難易度が高すぎる。

 さぁ、どうしたものか。もうどうしようもないからといって洗濯物をベタベタなまま溜めるわけにもいかない。着るものが回らなくなる。筆者は家の外に歩いて出られないので(車は奥さんが仕事で乗っていっている)、コインランドリーにも行けない。なんとか、今溜まっている洗濯物だけでも何とかする方法はないか?



●もう一度片寄りの直しを見直し、徹底してみる。



 私は、それに賭けた。いつかは奥さんに相談して排水管を掃除するとして、とにかく今だけでも動くようにするためにはそれしかない。

 洗濯ネットの中には、水を吸って重くなった綿のズボンやトレーナー類がぎっしりだったので、すべて出して広げて、紙を重ねるようにすべて重ねてみた。一か所たりとも、丸まって固まった洗濯物がないようにしてみた。まるでパズルでもやっているみたいだ。あーでもないこーでもないと洗濯物の量と配置を少しずつ変えながら、三回の失敗を経て四回目にやっと動いた。

 奥さんに相談されて、脱水をやりきれるまで二時間かかった。その間私は日課の記事執筆ができないどころか、朝ごはんすら食べていなかった。おまけに、奥さんは仕事だが子どもはまだ冬休み中なので、朝も昼もごはんを作らねばならない。



 やっとこうして今、そんな悔しさと疲れを、こうして記事にすることでぶつけている。(笑)今回の収穫は、洗濯機の排水管の掃除はしたほうがいいものなのだということを知れたことだ。もし今回こんなトラブルがなかったら、もっと先の人生まで知らずにいることになっていたかも。

 奥さんの休みの日に(あと機嫌のよい時に)やってもらうとするか。

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