脱出おひとり島

 Netflix発の、韓国恋愛リアリティー番組。一定数の男女が「地獄島」という孤島に閉じ込められ、8日間を過ごす。その間にたびたび行われる「マッチング」で両想いになったペアは「天国島」という豪華なホテルのある場所で一夜を過ごせる。

 天国島へ行けたらいいことだけか、というとそうでもなく、二人きりでじっくり話すからこそ見えてくるものもある。仲が深まる場合もあれば、見落としていた相手の別の一面を見て逆に幻滅、なんてこともあるから油断ができない。

 現在は、好評だったシーズン1の人気を受けシーズン2が作成され放送中。



 皆さんは、『働きアリの法則』というのを御存じだろうか。



●働きアリのうち、よく働く2割のアリが8割の食料を集めてくる。

●よく働いているアリと、普通に働いている(時々サボっている)アリと、ずっとサボっているアリの割合は、2:6:2になる。

●よく働いているアリ2割を間引くと、残りの8割の中の2割がよく働く蟻になり、全体としてはまた2:6:2の分担になる。

●よく働いているアリだけを集めても、一部がサボり始め、やはり2:6:2に分かれる。

●サボっているアリだけを集めると、一部が働きだし、やはり2:6:2に分かれる。



 この番組に登場する男女は、誰もがイケメンであり美女であり、それだけではなく誰もが賞賛しうらやむような職業と経歴の持ち主でもある。こんな人が恋人だったら(結婚出来たら)と思える最高の対象である。

 この人たちは、自分の住んでいるテリトリー(地元やもともとの人間関係の範囲)にいれば、きっと絶対王者だっただろう。実際、番組が始まる直前のメンバーへのインタビューである美女は「私から声をかけて落とせなかった男性はいない」と涼しい顔で豪語していた。実際、それだけのことはある見た目と能力のある人物に見えた。

 でも、韓国全体から(うち一人はアメリカ在住で、わざわざ番組に出にやってきた)美男美女を一カ所に集めたらどういうことが起きる?

 働きアリの法則と同じで、全員をイケメンと美女でそろえた集団であっても、その中で優劣というか、もてるもてないが出てくる。今まで自分が一番だと思えていたのが、他の世界の王者とぶつかった時にゼンゼン違う自分の立ち位置を体験するのである。先ほど「男なら誰もが私には好意を持つ」と言った美女が、おひとり島のマッチングでどの男性からも選ばれず肩を落としてたシーンが、非常に印象に残っている。



 矛盾(ほこたて)という言葉がある。これは何でも貫く剣・これはどんな攻撃でも防ぐ盾。ではそのふたつをぶつければどうなる?

 参加者はそれぞれのこれまでの人生経験から「自分は一番モテる」「男性なら誰もが道で私を振り返る」と言う人たちを一カ所に集めてみたらどうなるか。もちろん、その集団の中で誰かは文字通り王者になるが、中には「他の猛者と混じってみたら、自分はそれほどでもなかった」ことが分かってしまうこともあり得る。

 もちろん、人というものは顔や性格といっても絶対基準が存在するわけでもなく、好きずきという側面があるから、厳密な優劣はない。ないが、やはり見た目に分かりやすく勝ち負けが見えてしまう面も残念ながらあるのである。



●アリの中でよく働くアリばかりを選抜して集めても、結局その中でまた怠けるアリとよく働くアリとに分かれてしまうように、モテる男女ばかり集めてもその中で「モテないのとモテるの」に分担が分かれてしまう宿命にある。



 これは、大きな教訓になる。

 自分の見知っている世界だけのことで言えば、自分は優れているかもしれない。一番かもしれない。でもそう思えるのは自分の周囲の環境なり状況のおかげであって、一歩世界が違えばまた自分の位置づけなど変わり得るのだ、という謙虚さと緊張感をもって生きることができる。

 そしてさらに逆に、「自分がきらい」「私なんかダメ」「誰も私なんか必要としていない。誰にも好かれない」なんて思っている人でも、それはその人が置かれた環境や状況でたまたまそのような感想が出てしまうだけで、少し世界が変わりさえすれば、きっかけさえあればゼンゼン違う自分を見出すことがあるし、自分の良い可能性に気付けることがある。自分の住み慣れた枠を出ていけば、自分が想像できなかった「役割」を果たせる可能性だってあるのである。



「置かれた場所で咲け」という言葉もあり、あきらめずに一カ所で踏ん張れという言い分もまた一面の真理を言い当てているが、それはいつでも絶対ではない。逃げと言われようが、思い切って環境を変えたり自分を誰も知らない環境に冒険してみるのも、あらたな活路を開く手段としてはありなのだと私は思う。

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