夜がどれほど暗くても

 タイトルからして、重い作品であることが察せられるようなタイトルになっているWOWOW発の連続ドラマ。全四話で、まとまった時間があれば一気に見てしまえるのがいい。現在はNetflix・Hulu・Paraviなどの動画配信サイトで見られるようである。アマゾンプライムでは残念ながら扱いがないようだ。



 数々の事件を、ジャーナリストとしての矜持から時には厳しく冷酷に報じ続けてきた「週刊時流」の副編集長、志賀(上川隆也)。

 ある時、大学教授の女性とその夫が、自宅にて死体で見つかる。その二人の死体のそばには、教授の教え子にあたる大学生が倒れ込んでいて、どうやら自殺を図ったようであった。警察は現場の状況から「教え子が教授とその夫を刺し殺し、そのあとで自分も命を絶とうとした」と考え、動機はストーカー殺人という線で捜査をすすめる。そしてその殺人の疑いのある大学生こそが、志賀の息子だったのだ。

 しかし、病院での治療の甲斐なく、息子は昏睡状態から一度も意識が戻らないままこの世を去り、本人から真相を聞き出すことは不可能となる。事件の前日に親にクリスマスプレゼントを贈るような息子が、いきなり次の日にこんな事件を起こすようには思えない志賀は、独自に取材を進め真相に至ろうとするが、世間で息子は犯罪者扱いとなった上、志賀自身も親として世間の強烈なバッシングにさらされ、真相追及は困難を極める。

 そんな中でもあきらめず前進しようとする志賀に、最初は彼に恨みを募らせてカッターで襲いさえする被害者の一人娘・奈々美(岡田結実)も次第に心を開いていき、不思議な絆が生まれる。そして、息子が親の知らないところで行っていた外国人留学生を援助するボランティア活動を調べ直すことで、思わぬ手掛かりが手に入る。

 そして、それをきっかけに事件はまったく違う様相を見せるようになり、驚くべき真犯人・そしてなぜ息子は死んでしまったのかの理由にたどり着く。



 以下ネタバレを含むため、ご注意を。

 この犯人、最終話で逮捕されて後、刑事から「どうして、困っているお前たち(貧困留学生)に親切にしてくれた人たちをあんなに残酷に殺せたのか」と聞く。筆者はそれに対する犯人の返答に関して、共感もできないしムチャクチャだと思うが、もし自分がその立場だったらと想像したら最低限の理解だけはできた。



●それがうざいんだよ。

 あいつらの、自分は絶対にそんな立場に立たないことが保証された、安心安全な恵まれた立場から俺たちを見る目。その親切こそが、俺らの胸をえぐるんだよ。分かるか?(お前らに言っても分からないだろうなぁ)



 私たちが善意で動く時には、もちろん打算などなく相手に良かれと思って行動するはずで、そこに憐れみに起因する見下しとかはない。いや、ないと思いたい。

 でも、相手も必ずそう思ってくれるかというと、それは難しい。このドラマは、善意での行動は無条件に「いいことである」という絶対評価を盾にして、なんでも行えばいいというものではなく、そこには緻密な知恵(配慮)もまた必要なのだということを教えてくれる。

 いくら大変な境遇とはいえ、被害妄想で恨みを募らせ殺人にまで至った犯人こそがもちろん悪いのであるが、こういった人たちに善意で関わろうとする人たちももっと慎重になるべきだという教訓が含まれている。このドラマの中で殺害された大学教授がそうだったのだが——



●本当に大変な状況にある人に、中途半端に関わってはいけない。

 関わるなら、とことんきちんと向き合う準備と覚悟があってからにするべきだ。

 生活の片手間に、ましてや「自分はいいことをしている」という自己満足のためにやるくらいなら、やらないほうがマシである。



 世の中に、『やらない善よりやる偽善』という言葉がある。

 でも、今回のケースでそれは当てはまらない。募金とか1日限りの労働ボランティアとか、相手とそこまで継続的に密接に関わったりしないものであれば、偽善も有効だ。お金はお金だし、ないよりあったほうがいい。復興のための労働も、どんな思いでなされようが労働は労働で、しないよりはやってもらったほうがいい。

 だが、生活に深くかかわるものは「偽善」では具合が悪い。相手がそこを割り切って「どんな思いでされようが助かるものは助かる」と気にしないでくれたらいいのだが、そんなさばけた人ばかりではない。腹の底ではこちらを恨むような人も中には出てくる。

 あともうひとつ、「規則の壁を超えられなかった」ということも、事件が起きた要因のひとつだった。援助する側が心からというより仕事でとなる場合、相手がどんなにかわいそうでも「規則を破る」ことはしない。犯人と殺害された大学教授との間には、「命がかかっている」状態の人間と「あくまでも仕事の片手間で、大事なのは仕事と自分の家族」という立場の人間の温度差・嚙み合わなさも悲劇の引き金となっている。



 イエス・キリストは言った。『蛇のように賢く、鳩のように素直であれ』。

 優しさや思いやりだけでなく、そこに必ず知恵も必要だと言っている。戦略と見通しがない善意は、かえって悪い状況を生むことさえあるという警告でもある。

 人助けをする時には、助けられるほうの相手の心情までも配慮できる人であれ。もしも「善意なんだからなんでも有難く受け取るべき」と、そんなおごる気持ちが心の奥底にあるようでは、こんな事件があなたの身に絶対起きないとは言えない。

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