地球に来れなかった宇宙人

 地球からはるか遠い、遠いある宇宙に、ひとつの星がありました。

 そこには知的生命が存在し、地球人(いわゆるヒューマイノイド型)に近い種族が文明を築いておりました。

 私たち地球人類よりも先輩で、こちらの二倍以上の長い歴史があります。

 そしてその技術をもってして、ひとつの大発見をするに至りました。自分たちの他にも、宇宙人(知的生命)の住む星があるのでは? という考えのもとに、天文学の分野で長年探査をしてきたのですが、ずっと見つからずだったのです。それがついに見つかりました。それが太陽系第三惑星の地球なのですが、なんと我々の単位でいえば20万光年も離れているのです。言うまでもないですが、光の速さで航行して20万年かかる、ということですね。

 ちなみにですが、地球の方ではまだ観測技術が未熟なせいでこちらの星には気付いていません。



「そりゃムリだ」

 その星に住む誰もが思いました。宇宙人の存在は探知できたけれど、そこに行くというのはまた全然別の問題。光の速さを凌駕する乗り物もありませんし、乗組員の寿命の問題もあります。コールドスリープという技術で冷凍して、宇宙船に乗せた人員を20万年後に解凍する設定にすれば人は送れますが、今という時を生き今直面している問題が大事な人々にはそれどころではありません。まぁ未来への投資と割り切ってやってもいいですが、いかんせんお金がかかりすぎます。

 この頃その星は政治をめぐって政党の二大勢力が対立し、内戦の一歩手前の危機にありました。そんな情勢ですので、お金はいくらあっても足りません。聞けば、その地球とやらの文明レベルはこちらよりも低いというではありませんか。教わることがあるなら、行く明らかなメリットがあればまだしも、こちらの方が上ならば行く意味が薄い。もちろん善意で「こちらの技術を伝える」ために行くこともできますが、実際よそ様にいい顔をしている場合ではないのでした。

 行けずとも通信だけでもできないか、と頑張ってはみましたがそれもダメです。

 地球、という星の存在は大きなニュースとなりましたが、やがてその熱も冷めていきました。別の知的生命の住む星が発見された、というのは一時の知的興奮をもたらしはしましたが、自分たちの実生活に何の関係もとりあえずはないその情報は、次第に人々の関心が薄れていきました。だって分かったところで、それ以上のこと(出かけていくことや交流)ができないなら、ただの「へぇ、そんな星があるんだ」という情報以上の価値はないのです。

 


 しかし、ある時を挟んで状況が一変しました。

 地球には、その星の人たちが喉から手が出るほど欲しがっているある「レアメタル」が豊富にあるという情報でした。ちなみにそれは地球人が「銅」と呼ぶもので、地球人にとっては金銀や半導体に使う材料の金属ほどの価値はないですが、この星では銅さえあればそれをものすごいエネルギーに変換できる技術がありました。

 そうなると、いろんなことが明らかになりました。

 実は、20万光年をたった2年でワープ航行できる宇宙船が開発されていたのです。その星の宇宙軍は、そのことを隠蔽し表向きにはそんなものはないことにしてました。人々は、そんな大事なことを隠し庶民にはそんな技術はないという常識を信じ込まされていたことに腹を立てました。

 そして政府への国民の信頼は揺らぎ始めました。



 どうしても地球の銅を手に入れたいそれぞれの勢力は、その宇宙船を使って地球へ行くことを当然考えます。しかしそれは王立宇宙軍(建前は王政だが、実験は政治政党が握り、日本での象徴天皇制に似ている)の管轄で、いくら与党でも好き勝手にできません。

 そこで、議会を通さず強制的に法律とその解釈を捻じ曲げ、与党が宇宙船を出発させてしまいました。さぁこれに怒ったのが、与党ではないが同程度力のある野党側です。あちらにレアメタルを独占されたら、もし戦争になった場合手も足も出ない。ならば、そうなる前に相手を叩くしかない——

 ついに、戦争は起きました。理由は、地球にある銅です。二つの勢力が、なんとしても相手側が先に銅を手に入れることを阻止しようと始めた戦いでした。

 しかし、この星の者は誰一人地球にたどり着き銅を得ることはありませんでした。なぜなら、戦争の結果その星が滅んでしまったからです。

 地球ですら、核戦争による相互確証破壊で「勝者と呼べる者がいない」と言われているくらいです。もっと長い時間を生き、科学の進んだこの星での戦争では、ほとんどの人が死滅しました。シェルターで生き残った僅かな人々も、水と食料が尽きる数年後には死滅しました。技術が進んだとは言っても、完全に閉鎖された空間内で大量の水と食料を確保することまではできず、有害物質が充満しているため閉鎖空間の中から外へ出られない(それが1年や二年ではなく一生)というストレスで自殺者や自暴自棄な行動を取る者も出、生き残った人間の最後は凄惨なものでした。

 かくして、その星は死の星となりました。



 地球人は遠いどこかの宇宙で、まさか自分たちの星をめぐってこんなことがあったなんて誰も知りません。

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