AIに仕事が奪われるのはまずいことか

 最近、問題になったことのひとつに「作画AI」のことがある。

 ちょっとした情報さえ与えてあげれば、たちどころに指定したコンセプトの「絵」を仕上げてしまう。人間のイラストレーターなら手書きで数時間かかるものを、ものの数分で書け、そのクオリティもかなりのものである。

 ただ、そのAIに「著作権」なるものを学習させていないので、AIが「どや!」と仕上げてきたその絵が、どう見てもある有名漫画家のものと似ている、あるいはパクリと言ってもいいくらいのものになったりする。現時点での一番の問題はそこで、「AIに仕事が奪われるのではないか」という不安はより長期的な展望における、潜在的問題である。

 もしかしたら将来、何万枚も絵を描かないといけないアニメ作りや、アシスタントを使って締め切り前になんとか仕上げるマンガも変わってくるかもしれない。それこそ、作品が頭にある人間が一人いればAIの力を借りて全部できてしまうような日が来るかもしれない。そうなったら、大量のアニメーターやマンガ家アシスタントは職を失う。



 よく、「AIに仕事を奪われる」ということを問題視する話題が上がる。

 筆者は、それ自体は何も問題ではないと考える。AIに取って代わられることを恐れるのはなぜなのか、という部分を突き詰めていけば問題の本質が分かってくる。



●AIのほうが優秀 → 仕事を奪われる → 自分の仕事がなくなる → 仕事をしないとお金がもらえない → お金がないと生活できない → それはまずい



 AIを恐れる=自分にお金が入らなくなる、というのが恐れの根源である。ここでは建設的な議論をするために、じゃあすぐにはAIがカバーできそうにない職業に就く自助努力をすればいいではないか、という視点はここでは無視する。

 じゃあ、単純な話オカネさえちゃんと入れば文句はないでしょ? という話。よほど職人気質の人で、いくらAIが優秀で仕事が早いって言っても、やはり芸術は人の手によるべきだ。機械ごときに負けんぞ! とかこだわりのある人はどうぞAIと張り合ってください。この世界は結果主義なんで、「機械じゃなく自分の手書きです」と胸を張ったところで、採点を甘くはしてくれない。



●AIが人間の代わりに仕事をする → その分の人件費が浮く。(最初の機械類の初期投資費用は回収が必要だが、そんなものは時間と共に解決する)

 → AIはメシも食わないしお金を使わないので、給料をあげなくていい → その分のオカネが浮く → その富の余剰を皆に配っても何も問題ない



 つまり、「オレはぜってえ人の手による仕事がしたいんでい!」というこだわりさえないなら、AIが人に成り代わり色々なタスクをこなす世界は悪いものではない。そうなると人は、単純労働から解放されよりクリエィテブな仕事、対人関係の重要な仕事に集中できる。

 ただし、大問題がひとつある。



●政府や既得利益層が、自身の富を維持したいがために(さらには増やしたいがために)AIによって生じた「人を使わずに生まれた富」に関してだんまりを決め込み、「働かざる者食うべからず」の理論で、ただ職を失って仕事がない人に何も渡さないということを涼しい顔でやることである。

 今の世界では当たり前だ。働かない者はお金はもらえない。ただ、AIが主流になった世でそれは通らない。その移行に関して国民の目をごまかし、自己責任論を不動のものにしておくことで「AIで生じた富をうやむやにできる」。



 ちょっとでも仏教で言う「慈悲」の心が権力者や大富豪にあれば、将来AIによって生じた(人件費が浮いたことで生じた)利益については正直に公表し、世の中に広く還元するはずだ。そしてそれが是とされる世の中のシステムも同時に整備されていくはずだ。一番単純には、ベーシックインカムという話になるだろう。基本の給付分があって、なおそれ以上の価値を生む分には稼ぎが上乗せされる、というもの。

 だが、今の世を眺める限り、科学文明や機械文明の発展のスピードに、精神文明のほうが追い付ていない。ひょっとしたら、一部の権力者や大富豪だけが贅沢をし、大多数が貧乏だがシステムにすべてを握られているので覆す力もないという近未来SF映画のような状況ができるかもしれない。



 昨日の記事でも書いたが、我々庶民は世の中がどうだこうだ、と嘆いていても仕方がない。まずは自衛あるのみ。AIが世界の産業において主要な位置を占めた時には、国や企業のトップが生じた富をどうしているのか、監視と追及の手をゆるめないことである。地球に生きる者には、等しくそれを享受する権利がある。

 そのAI時代には、「働かざる者食うべからず」の理屈は通用しないのだ。

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