時代の過渡期は色々タイヘン

 シンガー・ソングライターの川本真琴さんが世に放ったコメントが賛否両論を呼んでいる。何かと言うと、サブスク(定額制課金サービス)に関してである。

『サブスクでの利益がどれだけ少ないかを知ってほしい。サブスクというシステムを考えた人は地獄に堕ちてほしいと思っている』



 このような言葉を耳にするときこそ、頭の良さ(学校的優等生のかしこさとは違います)が問われる。頭が良くないと、まずほとんどの人が「地獄に堕ちてほしい」という単語に囚われる。そして目に見えて分かる展開が「地獄に堕ちろだなんて!」と反発することであり、人としてどうよ? と川本さんの言いたいポイントを受け取る以前に拒絶反応が起き、サブスクというものがもつ色んな角度からの問題点を見つめることを最初から放棄する結果になる。だいたい皆さん腹を立ててそこでオシマイ、になる。それを思考停止という。

 もうひとつの頭悪いパターンは、その人が音楽とは無縁のことで生計を立てていて川本さんの痛みが全く想像できないうえに、自身はサブスクでたいへん美味しい思いをしている場合である。そう高くない額でこんなにもたくさんの音楽が聴き放題なんて、すごい! 感謝感謝。自分にはただありがたいだけなので、サブスクがもしかしたら問題があると考えることに消極的になる。なぜなら、一部それで不利益を被る人種がいるかもと考えることで一抹の罪悪感が生じることから逃げたいからだ。自分はそれでよいので、願わくばいつまでもそのまま使い続けたいからだ。



 ネット社会の裏側では、多少PCに詳しい人なら、やろうと思えばいくらでも映画やアニメ・マンガなどをタダで手に入れられる。最近では、マンガが読み放題の海賊版サイトが大問題になったことが記憶に新しい。

 ただそのためには海外の怪しいサイトにアクセスせねばならず、ウィルスやその他いらんプログラムを仕掛けられる覚悟がいるが、それでもやっぱりタダの魅力には抗えないのか、こっそり利用する人は多い。

 そういうものを利用する人には、ふたつのタイプがある。



①ただ単純に「得だから」。タダで得られる手段があるのに、わざわざカネ払うなんてアホクサという軽いノリで、PC通に多い。



②所得が低い。それを自業自得というよりは国のせい、社会のせいと思っている節があり、頑張って生きてるのに社会がこれくらいしかカネをくれないんだから「このくらいゆるされるべき」と自身がアーテストや著者に利益が還元されない楽しみ方をしてしまうのを正当化する。



 まぁ、お金さえ余裕があれば普通に楽しむのに「国民の多くを貧乏にした」国の政策の問題もめぐりめぐって影響している、という話。(涙)お金がないことが、普通に暮らせていたら善人でいられたのに娯楽にお金が回せない分違法性は知りながらも無料でゲットしちゃう行為に手を出す、ということに誘導してしまっているのだ。

 根っからの不心得者は少なく、そういう人のほとんどは経済的に余裕があれば好きな漫画家やアーティストはその作品を普通に購入して応援して楽しみたい、という人のはず。



 開拓者(パイオニア)はいつの時代も大変だ。

 毒きのこは食べちゃいけない、と分かる前最初にそのきのこを口にして犠牲になられた人が大昔いたはずなのだ。科学のかの字もまだない大昔、最初から研究して分かるなどと言うことはなく、皆経験の蓄積により知識を得、賢くなっていった。

 最初の人はタイヘンで、そのタイヘンさを経験して様々な試行錯誤が行われ、落ち着いたあとこそラクなのだ。そういう意味では、サブスクというものが世に登場して、良さと便利さと共に問題点も猛威を振るい始めた、というのは歴史の必然である。これは避けて通れない課題である。

 川本さんは、決してサブスクというそのものが悪いというのではなく「アーティストへの(利益)還元率が低すぎる」のが問題としている。山下達郎さんも「表現に携わっていない人間が自由に曲をばらまいて、そのもうけを取っている。それはマーケットとしての勝利で、音楽的な勝利とは関係ない」として、サブスクリプションでの配信はしないと宣言している。



 私たちは、どうしても「自分」という視点からの限られた範囲でしかものを見聞きし考えることができない。それ以外のことはもっぱら「想像力」に頼りことになるが、情報が少ないとその「想像」はかなり実際とはズレた的外れなものになる。マリー・アントワネットが「ごはんがないならお菓子を食べたらいいのに」と言ったという伝説も、そのいい例である。庶民の情報が圧倒的に脳に少なかった(ほぼなかった)から言えることである。

 こういった「同じものなのにある人間には利益があり、別のある人間には不利益となる」というケースを乗り越えるためにやることは単純。



●相手の立場を想像すること。ただしその想像はしっかりした多くの情報のもとにできるだけ実際に近く構築されないと意味がない。



●相手の痛みが分かり、その相手への敬意と愛ゆえに自身が受ける利益が多少減ってでも相手と分かち合おう、と思える気持ち。



 ただ、これが非常に難しいのである! これらが簡単なら、人類歴史はこれほどまでに血を流してこなかった。

 困難なのは確かだが、乗り越え甲斐のある課題だろう?

 スピリチュアル成熟の時代、と多くのスピリチュアル民が今の時代を評価するのなら、それが口先だけではないところを見せてくれ。お前たちの本気を見せてくれ。

 川本さんも視聴者側も、双方が笑顔になる社会の構築に向けて。 

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