科学文明崩壊はなぜ起きる

『風の谷のナウシカ』という、知らぬ人はいなだろうと思うくらいの名作アニメ映画がある。その後に続くたくさんのジブリ映画の原点とも言える作品である。

 アニメの冒頭部分で、主人公が住む世界は機械文明が一度崩壊してしまったあとの世界だということが説明される。直接的には、巨神兵による『火の七日間』による破壊であり、その回想シーンも挿入されるが、一度見たら頭に残って離れないほど印象的である。きっと、「これは決して他人事というかおとぎ話の世界の話ではなく、現実にあり得る危機だ」と本能的に分かるからだろうか。



 岸田首相が、原子力発電の新増設や建て替えを進める姿勢を明らかにした。

 もちろん論争になることは必至で、賛否も分かれる。

 筆者が意外に思ったのは、否よりも賛が目立つことだ。一般人の間でも、いいんじゃないという意見が以外に少なくない。その主な理由は、分かりやすくは以下のようなことである。



●日本が工業立国であり続けようとする限り(国として衰退しないようにしようとする限り)年間およそ1兆キロワット/h の電力を賄う必要があり、これを火力発電で補おうとするとCO2が出る。温暖化対策を考えるなら、やはり現実的に原子力発電に頼らねばならないのは自明の理



 もちろん、この世レベルでは正論であり、普通そう考える。それを責めはしない。

 しかし、そうやって文明社会というのは崩壊していくんじゃないかとも思う。

 人が自滅する思考法の急所は、ここである。



●今文明社会から受けている恩恵を減らしたり手放したりすることなく、ただ積み上げる(右肩上がりに発展する)ことだけを考える点。現状維持、ましてや下降するなど知的生命としては下の下という意識がある。



 私は、上記のような考え方をすることで結局文明がはじけ、滅びてしまう結末のほうがよっぽど下の下だと思うのだが、皆さんはどうも違うようだ。原発賛成というのは今さえよければそれでいい、と言ってるのと同じだ。

 原発ならCO2が出ないんだぜ、なんてなんと頭悪い発想か。怖い鬼と蛇がいて、鬼にとりあえず勝つために蛇に頼るようなもの。一時的には、蛇が味方してくれることで鬼を退けることができるかもしれないが、蛇がずっと人類の味方でい続けるかどうかは怪しい。遅かれ早かれ、鬼のいなくなった人類に牙をむき最後にはやっぱり敵になるだろう。



●筆者は、科学文明後退(社会後退)も選択肢のひとつだと思う。



 今の日本を支えるためには、と考えるからこれだけ電力が必要で、でそれを現実的に確保するためにはやっぱり原発は認めなくちゃ回らない、となるんでしょ?

 だったら、日本人が生活のレベルを落とせばいいんだ。

 北朝鮮なんか、愛の不時着見たけど「電気が通る時間が決まってる」んでしょ? 四六時中電気があるのが当たり前だから、そこは当たり前として固定して逆算して考えるから、原発もやむなしとなるんだよ。

 いいじゃん。世の中がスピードダウンしても。仕事も減らして、もっと農業も増やして、全体にスローライフに移行しても。スマホを手放し、電車も本数を減らし、テレビやコンビニ・繁華街も24時間眠らないというのをやめ、時計を百年ほど逆回しする。

 私はいいよ。オンラインゲームとかしたいけど、地球がそれで助かるのなら、それくらいあきらめても。でも、そういう選択をした人類にはきっと、失うものより得るもののほうが多いと思うんだけどな!

 要は、原発がないで済ませられるなら、生活水準や科学水準すら落とすということ。イケイケドンドン発展社会でないと科学文明じゃない、と思う人ばかりだから、絶対に今の生活水準を落とすことは発想しない。



 ナウシカの生きる前の世界は、そうやって崩壊したと私は考える。

 右肩上がりを目指し続け、発展を求め続け、宇宙の覇者となる勢いで便利さ・富を求めた結果、最終的に身動きがとれなくなり(今でいう世界の維持のために原発は仕方ないよね、的な決断の積み重ねの果てに)、火の七日間を迎えるに至った。

 我々の文明がそうならないためにも、退化や後退を恥と思わず地球を、そしてなにより生き物としての自分たちを守る選択をしてほしい。言葉上退化・あるいは後退と言ったが、もし人類がそのような英断を下せるなら、それは別の意味で「人類の進化であり精神的成長」と見ることができると思うのだが、いかがだろうか。

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