そのシャツは誰が縫うんだい
時々再放送をして世の中を盛り上げるジブリアニメ映画『天空の城ラピュタ』。冒頭部分で、パズーの親方が空賊シャルルと張り合う際、筋肉比べで本気を出しすぎて自らのシャツをビリビリと引き裂いてしまう。その時に、感心するどころかあきれて親方のおかみさんが発した台詞がある。
●いったいそのシャツは誰が縫うんだい?
今朝、フランスでは「働く人が足りなくて困っている」というニュースを見た。
日本だと、少子化とかそもそもの若者不足の問題もちょっとあるが、フランスではその理由の大体が「働きたくない」である。人はいるのだ。
誤解のないようにもうちょっと正確に言うと、「その待遇では働かないほうがマシ」というものである。要は飲食店やサービス業など、低賃金重労働で働かせることが当たり前になっていて、もっと良い待遇をすることに躊躇してしまうような職場にそっぽを向きだしたのだ。フランスでは、失業保険が2年もつくという違いがあり、そこも復職を急がないことに拍車をかけているようだ。
私は、必要があって経営者(社長)と言われる人物のそばで2年ほど働いた。
観察した結果、経営者という人間は全員とは言わないまでも、下働きを対等な人間だとは思っていない。少なくとも、社長自身の家族や同程度の経済力をもつ人間とは別種の生き物と考えており、彼らがどんな待遇で働いていてどんな暮らしぶりをしていようが、大して心が痛まないようにできているらしい。
昔のアメリカで奴隷制度が生きていた頃、白人が自分の家族や同族に愛を注いで生きれる一方で黒人奴隷には多少残虐なことをしても心が痛まず、次の瞬間には愛情いっぱいで子どもが抱ける、という切り替えの器用さがあった。それと似ている。
私も仕事で、経営というものを理解するためにある商業店舗の立ち上げをいちから考えてみろ、という宿題を出された。家賃・光熱費・原価率仕入れ率・人件費・損益計算書……最終的に、支出を差し引いても利益ができるだけ残るように考えるのが経営である。他の部分があまり動かせないとなると、考えるのは必然的に人件費の削減である。
だから、多少同情してあげると「経営というのは、人情的になるとできない」という部分があることは認める。でも、山椒大夫じゃないんだから、あまりにも従業員を駒程度にしか考えなさすぎるのもどうかと思う。そこまで鬼になって儲けて、あなたは幸せなのか? と問いたくなる。まぁ幸せなんでしょうね!
今朝のフランスの人手不足のニュースを見て、もうこれからの時代「ひどい待遇で人を働かせて利益を上げることに慣れ切った経営者は、逆に労働者からそっぽを向かれて同じようにはできなくなる」と思った。
もちろん、働かないと食べていけないので、ある程度は労働者側がこらえねばならない部分はあるだろう。だが、一寸の虫にも五分の魂がござる。我々にも、選ぶ権利がござる。
いきなり! ステーキの名物社長が、業績低迷の責任を取って辞任したというニュースもこのタイミングで聞いた。経営者という人種が、利益を上げることばかり考えて従業員をないがしろにしてきたツケが回ってきている。
資本主義社会なんで利益を上げないといけないのは分かるが、最低限譲ってはいけない人としての「対応ライン」というものがあるのいではないか。時代は、そこを無視してまで利益を上げることに警鐘を鳴らしてきているように思う。
前述した私が仕えた社長は、私が「待遇を改めないと辞める」と言っても改めなかったので、労基署に駆け込んで争って取るべきもの取ってケンカ別れをした。
風の便りに、月給12万で保険もなく働く私がいなくなって「かなり痛い」と言っていたらしい。そりゃあそんな人間捕まえたら便利でしょうよ! 手放すの惜しいでしょうよ! でも、こっちは人間なんだ。あんたを満足させるために生きるのはゴメンだ。そんな人間がまた捕まると思っているのなら、言ってやらないと。
●誰がそのシャツを縫うんだい?
(誰がそんな待遇で喜んで働くんだい?)
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