攻めた映画

 Netflix発の映画作品で『カーター』という作品を観た。韓国映画で、ジャンルはアクション。

 見た感想はいくつかあるのだが、まずひとつは「これは日本では作れないな」だった。それはいい意味で言ってるのではない。日本人は、本性はひた隠して社会生活のうわべ上だけで「いいこちゃん」なので、最近のTVにしても暴力シーンは抑えめでかなり非現実的。女性の裸は、あからさまに「アダルト」というレッテルの、それ目的の映像でしか映されない。最近は、性処理目的でないちゃんとストーリーがある映画では、まったくと言っていいほど女性の胸は映さなくなった。



 今回紹介したこの映画は、まったく「攻めた」作品だった。

 人を刃物で斬ればどうなるか、ちゃんと映す。人を銃で撃てばどうなるか(撃たれた部位によってどういうことが起きるか)もちゃんと映す。

 無意味に、女性のヌードも映す!(筆者には、登場人物のある女性がそこで裸でないといけない理由がいまひとつ分からなかった。もしかして、撮りたくて撮った?)

 日本の時代劇にしても、刑事ものの銃撃戦にしても、なんだか戦隊ヒーローものの戦いを見せられているようで、子どもだましだ。

 日本の教育では、残虐なものやエロいものには「フタをする」傾向がある。あえてそういうのを見せない(18禁)にすることで、子どもを清く保とうとする。そんなアホな作戦が功を奏していると思い込んでいるのは年寄りばかりで、子どものほうは望めば望むときに見たいものは見れる。



 一定年齢までまったく見せないでおいて、ある時を境に「さぁ自由ですよ!」と見せる。そんなことで、まともな人間が育つと思いますか?

 これは最近でなく昔から言われてきたことだが、子どもは昔の時代に比べて「ケンカのやり方が分からなくなっている」ということがあった。これだけすればこれだけ痛い。骨が折れる。下手すれば死に至る——

 人と人の生々しいぶつかり合いが、まだ大人にしろ子どもにしろ健在だった時代。そういったことが皆の共通理解として解させられていた。特に男子。

 しかし今、子どもの残忍性だけが昔と変わらず、どうしたらどうなるかの想像力に欠けるというオマケまでついて、いびつな子ども裏社会を形成している。もちろんそうなる事情はいくつもあり決して単純ではないが、確実にひとつにはこれがあると思う。



●人を殺すこと。傷付けること。そして実際にやったらどうなってしまうのか。描かずきれいに映すだけでは、子どもはちゃんと想像しないし、都合の悪いことは受け止めない。大人たちが「きれいなものだけ見せていたらきれいなこどもに育つ(逆には、悪いものをまったく見せなければ悪いことを考えない子どもに育ってくれる)」という壮大な勘違いをかましたことによる。



 もちろん、過激な映像を見ることでトラウマになるようなことは良くない。

(筆者は小学校低学年時にエクソシストを見てしまって、ある程度心理的ショックを引きずった)たとえば中学生くらいの年齢になったら、ある程度のリアルなバイオレンスとエロチック描写はムリに目隠ししないでいいのではないかと思っている。



●悪や悲惨をちゃんと見せることが、逆にちゃんとした教育になり得る。



 見たら影響される、マネされると心配する人もいる。でも筆者は、デメリットよりもメリットのほうが大きいと考える。逆に醜いものにフタ、の教育は大人がラクだがあとから来るツケのほうが怖いと思う。

 高いところから飛び降りたらどうなるのか、首つり自殺をしたら実際どうなるのか。TVドラマではそういう描写はあっても、まともに描かない。せいぜい服が破けず異様にきれいで、手も足もねじ曲がっていない飛び降り死体や、糞尿や吐しゃ物も描かれず、舌も出さずきれいな死に顔の首つり死体だけ。

 あまりにもきれいごとで表を覆いつくすと、本当に人を殺す恐ろしさ、死を目の当たりにする恐ろしさが分からない人間ばかりになる。そういうことは、個人の想像力だけでは限界があるのだ。



 スピリチュアルがかった人なら、「恐れで人を教育するなんて」と言うだろう。怖いもの、醜いものを見せなくたって人の魂は立派に成長するものだ、と。

 うん、もしあなたやあなたの子どもが、生涯悲惨な事件に巻き込まれることもなく、人をいじめる経験も一切なく問題のない人生を完璧に歩めるなら、それもいい。

 だが、多くの人はそうはいかないだろう。しょっちゅう考えなくてもいいが、人生で要所では「人の体はどう痛みを感じるのか」「人を肉体的・精神性的に追い詰めるとどうなるのか。自分の場合だったらどうなるのか」について考えるべき。

 筆者は、ランボーの映画とかで結構それは考えたな。

 おかしく聞こえるかもしれないが、そういう探求が「思いやり」を育てることだってあるのだ。



 日本でも、今回紹介した『カーター』みたく、世間から文句を言われないことを目指さない、ただバカ正直にバイオレンスを描いた「文句なしに面白い」作品は生まれないものかと思うが、まず期待できない。非常に残念だが、この映画という切り口だけは、日本は韓国にハッキリ劣る。

 こんなだから、色々スポンサーからイメージや何やかやで口出しされる日本のTVはダメなのだ。NHKなぞなおさらだ。朝ドラとか、そういうリアルさ加減の問われないジャンルもあるが、そんなのばっかり作るわけにもいかないだろう。

 筆者は、逆説的だが子どもの教育のためにも「下手に繕わない、世の中を偽りなく切り取ったバカ正気な映画」がもっと増えていいと思うのだ。

 見せないことではなく、あえて見せることによる教育もある。昔だと「はだしのゲン」とか洋画「エレファント・マン」を子どもに見せたものかどうか、という議論があったが、親から押し付けはいけないが本人たちのほうから見るってんであればどんどん見せたらいいと思う。

 子どもは、親が心配するほど「おこちゃま」ではない。案外、そういうものを見せても必要なところだけ受け取ってくれるものだ。最後に苦言を呈すると、二時間超えはちょっと長すぎる。いくら目を見張る超絶アクションでも、最後のほうはちょっと食傷気味になった。アクションでスッキリ魅せるなら、90分~長くても100分以下にまとめてほしい。どうせストーリーなんてあってないようなものだし。

 あと、最後のどんでん返し要らない。誰が考えた? 褒めてるのにあれは蛇足だ。

 まさか続編への布石か? それなら逆にすごいのかも。

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